第三章 「木星」

   第三章
 「木星」

 赤いきつね、と印刷された蓋を3分の1ほど剥がしてカップにトポトポとお湯を注ぐ。線の少し上くらいまで。最後のスープまで美味しく味わうためにはこのくらいが丁度いいのだ。硬麺が好きな私はタイマーを4分20秒に設定した。
 3、2、1、ピロロン♪と携帯が出来上がりの合図を告げたので蓋を全て剥がし、頂きます、とひとりごちて麺をすする…のはまだ早い。2枚ある油揚げを箸で突き、中に詰まっている出汁を全体に広げるのが先だ。それをしないで油揚げを食べるとしょっぱいのと油揚げ自体の香りが濃すぎて美味しくないのだ。ここまでやって初めて麺をすする。
 うん。美味しい。
 油揚げをひと齧り。
 うん、完璧。
「紗倉ちゃん、何一人でぶつぶつ言ってるの?」

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