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ジョジョ・ラビット

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ナチスかぶれのジョジョ少年の目を通して見たナチス占領下のドイツ。ジョジョくんはヒトラーを「想像のおともだち」にしていて、彼は『トゥルー・ロマンス』のプレスリーのようになにかとジョジョくんにアドバイスをくれるんですがひたすらテンションが高い事と、ジョジョくんにしか見えていない事もあって『帰ってきたヒトラー』のような可笑しさと紙一重の恐ろしさ…は欠けていたかと思いました。不在のお父さんをも重ねているのでこうなってしまうのは仕方ないのかな。こういう点や、ホロコーストなどナチの蛮行描写が少ない事で賛否が別れるのは仕方ないっていうのはわかる。同時に、この視野の狭さが当時の子どもが見せられていた世界のすべて、という感じもしてこれはこれでありだとわたしは思いました。

お母さん役のスカーレット・ヨハンソンが終始すてきなファッションに身を包んでおり、勉強不足のわたしは最初、これもまた幼いジョジョ少年の記憶のなかで美しく存在する母親の姿で実際はこうじゃなかったのかな?などと思ったりしたんですが、あのファッションは政権への抵抗を表しているんですね。サム・ロックウェル演じる大尉とアルフィー・アレン演じる副官の最後の出で立ちの意味についてはなんとなくわかりました。

ヨハンソンのファッションをはじめ、ジョジョくんの家の内装など画面の見た目がとてもかわいらしい。なので、そこから攻め込まれる側になったドイツ市街戦の描写への転換は逆『オズの魔法使』のようでなかなか強烈でした。今までユダヤ人に向けていた悪意の矛先をさっさとロシア人に方向転換していたり…あそこの感触は皮肉でとてもよかった。

思い出すとやっぱりヨハンソンの出ているシーンがよかったですね。『マリッジ・ストーリー」でも最後、アダム・ドライバーのほどけた靴紐を結び直してくれていた彼女ですが、今作もジョジョくんが正しい方向に向かうよう願うかのようにそれをしてくれる。訓練中の事故でできたジョジョくんの顔の傷が地図のように見えるのも同じニュアンスでしょうか。彼女自身もすてきな靴を履いていますが、まさかあんな使われ方をするとは…。

今作はアメリカ資本の映画で監督はニュージーランド人なのでこの表現は適していないかもしれませんが、加害国であるドイツ視点の映画が作られる事は興味深いし、その中で抵抗した人々が描かれるのは現代に向けて意義があると思います。もうすぐ公開のテレンス・マリック監督『名もなき生涯』も更に深い作品になっているだろうし、ドイツが加害国としての戦後教育を徹底している、という事なんかも日本は重く受け止めないといけないと思う。

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