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ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還

ゴンドールとローハンの連合軍がサウロン軍を迎え撃つ中、モルドール入りしたフロドとサムは自分達の復路がない事を覚悟し始める。
作品賞をはじめ第76回アカデミー賞11部門を受賞した三部作完結編。

いや〜〜〜とっくに完結しているこの三部作ですが、改めて約三週間ごとに一作を映画館鑑賞していると「終わった……」という万感の思いが巡ります。
すごい、とにかくすごい。
わたしも人生折り返し地点を通過してそろそろ生涯ベストを選んでおきたいと思い始めてましたが、どう考えてもこの三部作しかないという思いに至りました。
仲間、信頼、異種間の結託…など王道中の王道なので製作から20年も経てば並列するような作品が出てもおかしくないんですがやっぱり唯一無二なんですよね。
それは原作のスケール感や製作者の熱量、最新の技術と昔ながらの工夫を凝らした映像など要素がたくさんあるんですが、私が常に唯一無二だと思うのはこれ程までの王道の物語世界にぴったりと「死」というものが寄り添っている感じです。

大作と言われる映画の中でどんなに激しい戦闘が行われても、常に心のどこかで「とはいえ勝つだろう」という気持ちがあるものですが、今作の戦いには圧倒的な絶望感がある。
容赦がないんですよね、ピージャクは。
さらに戦いの最中にガンダルフが、思わずうっとりしてしまう美しい表現で「この世ではない世界」を語り、それを聞いたピピンは恍惚の表情を浮かべる。
初めてこのシーンを観た時、それまでの映画では暗黙のうちに「死を善きものとして語ってはいけない」というルールがあったように思っていたので驚きでした。
今作では「死」を鼓舞の言葉として吠えるローハン軍、今作の後いろんな映画で使われる事となったアラゴルンの「だが今日ではない」など、至る所に死の影が在る。
そしてその最たる存在が主人公であるフロドなんですが、彼の姿が本当に痛々しくも美しいんですよね。
わたしは今作のフロドを見るといつも「死美人」という言葉が浮かぶ。
彼はこの物語一番の功労者であるにも関わらず、帰郷後も苦しみに囚われて幸せな余生を送れない…という皮肉さが本当に切なくグッと来るし、こういうところがこの物語の好きなところです。
改めてこの物語は壮大な悲劇なんだと思う。

『旅の仲間』では一丸となって「世界を救う」という大きな目標に向かい、『二つの塔』では三つに別れ、そしてこの『王の帰還』では最終的に登場人物たちはそれぞれの大切な人のために戦うという個人の希望にすがり付く(すがり付くしかない)…という変化も説得力がある。
しかしそこでもフロドだけは孤独なんですよね。
もう最期かもしれないと思った瞬間、隣にいるサムの胸には故郷の想い人がいるが、ビルボが去ったフロドには待つ人もいない。
アラゴルンですら恋人の命を救う、という一個人の願いがあるのにフロドにだけは本当に何もない。
真に分かり合える者がいるとすればそれはゴラムで、その徹底した物語的残酷性は本当に美しく、だからこそ『二つの塔』ラストでサムが語った「いつまでも人々の心に残り語り継がれる物語」であるんだと思います。
是非また10年後、30周年を祝して映画館で上映してほしいと願います!

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