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【単話】雨の放課後【昼会④】

校舎の4階西向のベランダ夏の日差しも随分遠く、もうソロソロ学ランの上に何か羽織らないと辛くなる頃。雨がサラサラと斜めに流れる。

校舎の4階とはいえ高台の上に立っている校舎のここは8階相当位はあるのかな?遠くの海がうっすらと見える・・・晴れていればだが。しかし今日は雨でそう遠くは見えない。見えるのは雨の膜がゆらゆらと西から東へと行進している景色だけだ。

時折パタパタと溜まり水が落ちてくる音が不規則に聞こえる。

残念ながら雨はこれから散々降り夜半は嵐らしい。

そんな事は実際どうでもよくて、白く錆びた鉛のような空を眺める。ベランダの床に腰を下ろし伸ばした足を適当な段差に引っ掻ける。背中にはちょうどエアコンの室外機。

学ランのポケットに突っ込んだ手には校則違反のウォークマンが握られ、ホックを外した襟首にすっぽりと顎を入れる。イヤホンは第三ボタンの下から学ランの中を這わせ襟首から出して耳に着けている、これだと遠目にはイヤホンは見えないだろうけど念のため辺りに誰も居ないことを確認して再生ボタンを押した。

父のCDからダビングしたビートルズの曲が流れる。軽快なペニーレインがタタタンと流れる。ナゼだか雨の日は無性にこの曲が聞きたくなる。歌詞なんて興味がなく英語も訳す気が無いので意味なんて知らない。まぁペニーレインなんて言うからきっと雨の曲なんだろうと思う。

サラサラと流れる雨、白い錆びた空がゆっくりと光を失う 時折パタタンと落ちる溜まり水がペニーレインなのだ。西から東へと流れる雲がポールマッカートニーなのだ。

この雨が止む頃には冷たくさえた季節が見えるのだろうけど、その頃にはキャンバス一杯に淡くブルーグレーを伸ばしてセラミックホワイトで冷たく薄色の膜の様な雲の一枚を作ろうと思う。

西から吹く風に雨粒が乗って顔を濡らす。雨の膜が近づいてくる。

首を更に襟首に押し込みこれから一つゆっくりと息を吐く

雨の膜の向こう側に夜が来たのだろうぼんやりと街灯の粒が見え始める。

いつしか片面の再生が終わりガチンという音と共に音楽は終わった。辺りもすっかりと暗く体も冷えた。

そろそろ帰ろう。そう思いベランダに通じる扉を眺めると

ガチャリとカギの掛かる音が聞こえた。そして教室の灯りが消えた。


たのしいは正義!この言葉を胸に楽しめるコンテンツで在りたいとおもいます。(*´ー`*)