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美しい偶然

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わたしが出会った映画・小説・音楽・アートなどなど…についての記録
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#記憶

Il portiere di notte

昨日とは打って変わってまっ白な大粒の雨 …… 春雷の雫 わたしは春先の雨の花の咲きこぼれている木の葉が好きだ 静かに、秘めやかに… それでもそこまでやって来た新たな息吹の煌めきに ときとして身も心奪われる 激しい風にガタガタする縁側のサッシを開け 指先を濡らす雫をちょっとだけ口に含む… この何かエロティックな感覚に わたしは『Il portiere di notte(愛の嵐)』の映像が蘇えった 20代始め、渡仏してまだ間もないわたしは モンパルナスの小さな映画館でその

ひとしずくのスペクトルム

見上げると丸い空だけが見えた わたしは嬰児籠の中で起き上がろうと手足をばたつかせた ようやく藁の淵を掴みよろよろと這い上がる 目の前に鏡のように白っぽく輝く田んぼが広がった 母の姿を探した 広がる水面に餌を探す動物のように腰を屈めた数人の中に 母の後ろ姿があった わたしは母を求め嬰児籠から這い出そうともがいた 突然からだは中に浮き草むらに落ち 土手を転がりながら田んぼに水音をたてた 気がつくと母はわたしの両足を持ちげ 逆さ吊りの泥だらけの背中をパンパンと叩いていた 私は泥水を