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スライムの海に沈む

柔らかいジェル状のスライムに体が沈んでいく感覚。
もがけばもがくほど深くに沈んでいく、スライムは体にまとわりついてきて、口にも入ってくる。
息ができない。

スライムってあんまりおしゃれじゃないけど、例えられるものが他にない。

青くて、海みたいなんだけど、泳げない。
前にも上にも行けない。苦しい。沈んでいく。

頑張っているのに認められない、頑張り方を間違っているかもしれない。
残業時間だけが増えていって、暇な時間なんてないし、常になにかに追われている。
やってるはずだし、成果もそれなりに出ているけど、足りない、何かが。

スクランブルスクエアを見下ろす。
横断歩道のふちにだんだん人がたまっていく。
信号が青になると、無数の人間が対岸に向かっていっせいに歩きだす。
せきとめていた水が流れ出すみたい。
全然人少なくないな。感染者もまた増えてきてるのに。

人がたまって、あふれて、またたまって、あふれる。
面白い。ずっと見ていられる。砂浜で波を眺めているのと同じ。

無力だなと思う。私なんにもできてない。こんなに無能だったっけ。
でも別に投げ出したいわけじゃない。
なぐさめられたいわけでもない。
本当は何をすべきかわかってる。

自分を認めるには、やるべきことをすべてやって、結果を出すしかない。
大丈夫、今までここまでずっとやってきた。やれてきた。

同じ状況に置かれている仲間と愚痴を言っても解決しない。所詮傷の舐め合いだ。
認めてくれる家族や恋人になぐさめてもらっても意味がない、この環境で、仕事で、認められないと意味がない。

スライムの海から抜け出すには、むやみにもがくんじゃなくて、置かれてる状況を理解して、どうすれば地上に出られるか考えて、そして死にものぐるいで動くしかない。

ここは海じゃない、コップに入ったスライムで、私はなにかの拍子に持ち主のポケットから落ちて、スライムに沈んだ。

とにかくコップの内側に触れられるまでもがき続ける。
ぬるいスライムの中で指が冷たいガラスに触れたら、ガラスを押して押して押して、体当りして、
コップを倒す。スライムはテーブルに散らばって、私は解放される。

穴のあいたポケットから落ちる人も、スクランブルスクエアの途中で信号が赤になって道の真ん中に取り残される人もいる。

全員同じで、やるしかなくて、諦めれば死んでいくだけ。
結局根性論だよな、この世の中。

私が冷たいガラスを見つけられるのはいつだろう。


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