The Subterraneans デビューアルバム『All Doors are Open』のために~"再生"のうた
ワイヤレスヘッドホーンで世界と自分を遮断するかのようにストリーミングの音楽を耳でがぶ飲みする姿は美しくない。そう思っていたら昨今はまたカセットテープがブームなのだとか。それで先日、中目黒の『Walz』へ行った。世界中のアナログ音楽マニアの聖地と言われるカセットテープの専門店。だがそこでテープは郷愁など微塵も感じさせずに最新のメディアorアートフォームとして『宝石箱』の輝きを放っていた。世界への愛と直接性を取り戻そうとすることの暗喩。初めてマテリアルとしてのカセットテープを美しいと感じた。
ジャック・ケルアックの小説『サブタレニアンズ』の題名を冠したこのバンドのこのアルバムを聴いて思ったのもその事。過去の様々なシンガーやバンド、ポエトリーを想起させながらも新しい。もうオルダス・ハクスリーもビートもヒッピーも知らなくて良い。記号のお勉強はもういい。2024年の今にこの音楽に耳を傾けること。開け放たれたdoorの外、窓からはい出た外の世界にいる自分をきっとあなたは発見する。
The Shakes、The Leathers、The Brick's Tones、3つのバンドのフロントマンから成るこのバンドの、そのそれぞれの個性のせめぎ合いがスリリングだと思った。一聴して以来、このアルバムの歌たちがテープの様にグルグルと血管の中を廻っていて、それは心臓を通過してドクドクと鼓動を8ビートに変える。その一打、一打。このロックは決して懐かしくない。
朝、目覚めて、昇る朝日の中、魂のボタンを押すとテープになった身体が新しい一日を、世界を、"再生"する。始まりはこう。All doors are open and Go straight Nirvana。光がなだれ込んでくる。 (東京都日野市在住 村田 博)
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