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坂出市与島沖の海上タクシー海難(2)

 海上保安庁の捜査の結果、船長が業務上過失往来危険の容疑で逮捕されました。海難、特に単独海難、では逮捕にまで至らないことが多いので、漂流物との衝突であるとの当初説明が悪質とされたかもしれません。

 物証である本船が、小与島北端から東北東約200mの海底で発見されたとの報道がありました。そのあたりの水深は海図上ではおよそ30mです。潮流で流されたということでしょう。救助活動の報道写真での岩黒島橋の位置から与島北方・羽佐島東方海域が救助海域であったであろうことは見て取れていましたが、思ったより東にあったなと感じました。軽量船ということも作用したのかもしれません。事故発生から沈没までの時間も1時間程度あったとの報道もありましたが、船底破損程度が大きかったことに変わりはありません。事故詳細は運輸安全委員会の調査と、海難審判で解明され、その後公表されます。ですので、報道などに基づく推論はこの程度で控えたいと思います。

 内航海運や業務用小型船舶の世界は問題を抱えています。人手不足や経営基盤の弱さ等ではなく、ここで指摘したいのは運航管理実態の劣悪さです。海図不使用や不適切使用、経験や思い込みによる運航、船員側優位の或いは会社側優位の縦社会、荷主最優先によるブラック化などなど。近年ようやく船舶管理会社やISMの導入が始まりましたが、その質は・・・という実態です。国際海事機関IMO指導下での国際規制を受けている外航海運とは天と地の差があります。外国寄港時に寄港国の検船(寄港国検査PSCといいます)を受け、最悪の場合は拘留となってしまう外航船は運航管理システムも管理実態も常に監視されています。私は船長としての外航船乗船中に数十回のPSCを受けました。日本も外国船に対して運輸局の外国船舶検査官がPSCを実施しています。私も何度も受けました(外国籍船ですから)。しかし足元の内航船や小型船舶には極めて緩い実態があります。海上保安庁が担当していると思いますが、少なくとも私は内航船乗船中に出会ったことはないですし、受けた話を聞いたこともありません。
 これまで大きな海難のたびに運航管理実態にメスを入れるべきとの議論はそれなりには出ました。が、実際は立ち消えです。実行する能力(民間船の運航管理を検証する能力)やマンパワーは運輸局にも海上保安庁にもありません。だからといって、諦めてよいわけではありません。遅ればせながら始まった内航への船舶管理会社やISMの導入は貴重な萌芽です。まずはこれを育て、質が充実するようにせねばなりません。
 同時に、少なくとも外航並みの運航管理を義務化して船陸双方の検証を実現するべきだと、私は主張するのです。なぜ「少なくとも」なのかといえば、内航のほうが外航よりも運航環境が厳しい、すなわち運航危険性が高いからです。海潮流、狭水道、交通輻輳、航海時間の短さ、労働時間の厳しさ、水先人をとらない、瀬戸内単独当直などなど。本来であれば外航よりも厳しくメスが入り続けなければならないのです。

実務海技士が海を取り巻く社会科学分野の研究を行う先駆けとなれるよう励みます。