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(連載)『ドードーをめぐる堂々めぐり』を読んでドードーを描く①

長いので数回にわけて連載します。
今回は、本に出会った経緯のお話。

長い前置き

ドードー画、それはチャレンジ

ドードーの絵を描こうと思った。

ドードーといえば、でっぷり太ったフォルムに、小さな翼。
ミッキーマウスの靴のように、先が膨らんだフォルムのクチバシ。
ちょろんと申し訳程度にくっついている尾羽。
のろまでよちよち歩く。
絶滅してしまった生き物代表。
天敵のいないモーリシャス島で穏やかに暮らしてきたため、警戒心が薄く簡単に素手で捕まえられたと聞いたことがある。
羽毛は青いイメージがあるけど、それはディズニー映画のアリスに出てきたドードーだったっけ…?

…とまあ、僕のドードーについての全知識はこんなもんである。

ドードーを描こうと思ったのは、毎年参加している『理科美術展』という展示会のために「理科的な」絵を描く必要があり、そのテーマに相応しいと思ったからだ。
『理科美術展』は、サイエンスイラスト界の権威達が顔を揃える「日本理科美術協会(通称りかび)」主催の展示会だ。

大変光栄なことに、僕もりかびに籍を置かせていただいているため、理科美術展にも毎年参加している。
素晴らしい図鑑や教科書のイラスト、剥製、立体作品などが並ぶ展示会なので、襟を正して出展する必要がある。

僕はずんぐりむっくりした生き物が大好きなので、ドードーは前からすごく魅力的だと思っていた。
知識が乏しすぎるせいでチャレンジを躊躇っていたが、この際だから『理科美術展』のためと思い切って筆を取ってみたわけである。

復元画への抵抗感

これまでたくさんの(現生の)生物の絵を描いたが、絶滅生物や古生物はあまり描かずにきた。
理由はひとつ、大きく間違った復元画を世に出してしまうことに抵抗があるからだ。

絶滅した生物は、リアルを確かめようがない。学術的に正しい復元とファンタジーの区別が付きにくく、誤解を生みやすい。その上、一旦世に出回ってしまったビジュアルは、背後の文脈を置き去りにして、強烈なイメージを人々の記憶に残す。

理学生時代、限られた情報から生物の見た目を再現する難しさを痛感した経験も、ソース不明の図や絵のビジュアルに引っ張られて理解を誤った経験もある。尚更抵抗が大きい。

僕はいちイラストレーターの端くれなので、世の中に与える影響など微々たるもの。それでも、誤解を与える可能性がある以上は、よしておきたいのが本音だった。

しかし何事も挑戦だ。今回のドードーが納得のいく出来になれば、今後も絶滅生物や古生物を描くノウハウがわかるかもしれない。

とりあえず、Google検索フォームに〈ドードー〉とだけ入れて。エンターを押した。

有名な鳥なのにバラバラの情報

困った時のWikipedia。
情報ソースが不確かな事が多いので全て鵜呑みにするのはまずいが、項目ごとにまとまっている。概要を知るにはなかなか便利だ。

だいたいは冒頭に記したようなイメージに近い事が書いてあった。
よたよた歩き警戒心が薄いこと、乱獲によって絶滅したこと。
人が持ち込んだ犬や豚による捕食、森林開発等も絶滅の原因となったとの記載もあった。

特に気になったのは、「フィクションにおけるドードー」という項目分けがあったこと。『不思議の国のアリス』を筆頭に、様々な作品でドードーは描かれている。
それだけ魅力的で、不思議な生き物ということなのか…
感覚的には結構最近までいた鳥だと思っていたが、大航海時代に発見され絶滅とあったので、思ったよりずいぶん昔だなとも思った。世界史に疎すぎるので、どのくらい昔かはいまいちピンと来ない。

画像検索すると、ドードーの剥製らしきものが多くヒットした。Wikipediaには「標本は(中略)ごくわずかな断片的なものしか残されていない」とあったので、矛盾しているように思える。
ならあの画像はなに?レプリカ?と混乱しながら、日英様々なキーワードを入れて検索を続けた。

結果、ドードーが全くわからなくなった。

見た目で言えば、大きくわけて、丸っこいキャラクターチックなフォルムのやつと、比較的スマートで恐竜っぽいやつの2パターンがある。
羽毛の色も皮膚の色も、様々な復元のバリエーションがある。

Roelandt Saveryのドードー。丸っこくてのろそう。
作者不詳。世界最初のドードーの彩色画。細くて速そう。

ネット上の情報はフィクションか科学的根拠のある事実か判断が付きにくい。Google Scholarで論文を探すのも良いが、探すのも読むのも大変なのでそれは最終手段。
結局、うまくまとめられたドードーの本が無いかなぁ…と探し始めた。

近年唯一の日本語ドードー本

ドンピシャの本はすぐに見つかった。

川端裕人著『ドードーをめぐる堂々めぐり 正保四年に消えた絶滅鳥を追って』岩波書店(2021/11/5刊行)

江戸初期のこと。『不思議の国のアリス』や『ドラえもん』にも登場する絶滅鳥ドードーが日本に来ていた!? その後の行方を追って四国へ長崎へ。時空を超えチェコやイギリス、オランダ、ついにはモーリシャスの島で這いつくばり生命のワンダーに分け入る! 日本史と西洋史、博物学と生物学の間を行き来する旅に、ご一緒ください。

商品解説より

川端裕人氏の著作は、少し前に『「色のふしぎ」と不思議な社会──2020年代の「色覚」原論』を読んで、すごく楽しい読書体験だったことを覚えている。久しぶりに読む科学系の本、川端氏の著作、ドードーがテーマ。絶対面白いじゃん!

発売されて1年ちょっとしか経っていないので、情報が古いこともないと思う。
商品解説もなんだかドラマチックで、入門書に良さそう。
わくわくしながらamazonでポチった。


ここらで一区切り。
次回からは本を読んだ感想を書きます。

↓次回

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