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(11)サイエンスとフィクションの境界をどうする?の段

こんにちは。
ノーチのかたっぽ、¥0sukeです。

先日、高校時代からの友人たちと会う機会がありました。
彼らは僕らの活動を良く知ってくれていて、展示やイベントの時にも何度も来てくれる良い人達です。
なかなかに文化的な素養があり、同じ理系クラス出身というのもあって、ノーチの世界観についてのトークで盛り上がりました。

科学的には嘘。でも面白いのがSF。

ノーチのしっぽ研究所での創作活動は、自然科学に興味を持つきっかけづくりをしたいという信念の元に続けています。
世界観設定自体が「自然生物研究所」であり、サイエンスをテーマにしたイラストやお話を作っています。
物語の舞台は、絶滅した生物が保存されている神秘の島です。
この島では、地球上のあらゆる場所の、あらゆる時代の生物が生き残っています。

もちろん、実際の地球上にはそんな島はありません。
繰り返し起こる気候変動、プレートテクトニクスによる大陸の変遷、太陽等他の天体との関係、大気状態の変化…
地球上の生き物は絶えず絶滅の危機と隣り合わせであり、それらの変化は大抵地球規模で起こるので、逃げ場はどこにもありません。

でもその逃げ場が、どこかに存在したら?

この仮定は科学的な整合性という価値基準で見れば嘘であり、馬鹿げた空想ということになります。
でも、そのフィクションやファンタジーの世界に、読者が違和感なく浸れるように作るのがSFであり、その為には本当にあるかもしれないと思わせる工夫が必要だと思います。

超自然的な要素に説明をつけるには?

最初に述べたように、ノーチのしっぽ研究所の世界では、地球上の古今東西の生き物が共存します。

科学的には、以下の3つが科学的事実に矛盾しています。

  1. 絶滅を免れた生物が存在する

  2. その生物の形質が保存されている(進化が止まっている)

  3. 極地から熱帯まで、地球上のあらゆる環境に適応した生物が、特定の場所に共存している

「動物が言葉を話し人間と同じ水準の社会生活を送っている」ことに関しては、あえて説明しようとしていない作品がほとんどなので、ここでは一旦無視しています。

これらの矛盾を解決する方法として考えられるのは、次の通り。

  • 地球とよく似た別の惑星、別の世界線の話とする

  • 神や未来人などの超自然的存在の力を借りる

  • ひとつの島にあらゆる環境が混在しているとする

  • その環境は地球規模の天変地異の影響を受けず、生物たちが形質を変化させる必要が無い

ツッコミどころはいろいろありますが、パッと思いつくのはひとまずこんなところでしょうか。
ノーチの世界観は、あくまでこの地球上の、現時点で知られている科学が登場するようにしたいので、先述の上2つはあんまり使いたくない。

3つめは、程度は違えど、わりと地球上にそういう場所は存在するので、違和感なく受け入れられそう。

問題は4つめ。
どうやって天災から隔離された「方舟」を用意するか…

作品の中で描きたいと思っているので、ここでは全て語りません。
強調しておきたいのは、サイエンスを題材にしたお話でフィクションをやる以上、どこを事実通りにしてどこに嘘を混ぜるのか、その境界を違和感なく繋ぐ工夫が必要だということです。

名作はどうしてる?

スターウォーズ

先人の知恵を借りて、上手い人の作品を参考にしてみます。
最近見たSF作品で典型的なのはスターウォーズ。

スターウォーズの舞台は、「はるか遠い昔の銀河系」という設定になっていますが、あらゆる生命が普通に宇宙を旅できるだけの科学技術を持っており、我々が今いる宇宙とは異なる宇宙という解釈ができます。

何光年もの旅を可能にする光速移動や、空間に投影される立体映像など、第1作から卓越した科学技術が数多く登場。
それらの技術を、映画のキャラクターたちが使いこなし、普通に生活に馴染んでいる様が描かれているので、本当にこういう世界があるかもと納得してしまいます。

個人的に、科学技術とスピリチュアルがうまく融合しているところが、スターウォーズのすごいところだと思います。

なんでも出来そうなほど高い科学世界に存在する、人智を超えた絶大な力「フォース」。
フォースを使えば、ものを浮かせたり瞬間移動したり人を操ったりと、本当に何でもありです。
フォースの使い手は「ジェダイ」と呼ばれ、一方では政治の場面でも重宝され、一方ではまやかし・まじないの類いだとして疑う人々もいて、現実の歴史で言うところの魔法や宗教のような扱いをされています。

結局のところ、フォースって何なんだ?ということを、作中では事細かに説明していません。
しかし、実態の分からない「大いなる力」を、実態のわからないままにすることにこそ、物語を成立させるコツがあるのかもしれません。
物語上不便が生じた時、ある程度の解決策は発達した科学技術の恩恵として描いて、そんなのさすがに有り得んだろ!というところはフォースの範疇にしてしまう。
何ともよく出来た仕組みです…

家畜人ヤプー

もうひとつ、最近読んでいる小説『家畜人ヤプー』についても紹介します。

あらすじは以下の通り。

ある夏の午後、ドイツに留学中の瀬部麟一郎と恋人クララの前に突如、奇妙な円盤艇が現れた。中にはポーリーンと名乗る美しき白人女性が一人。二千年後の世界から来たという彼女が語る未来では、日本人が「ヤプー」と呼ばれ、白人の家畜にされているというのだが…。
幻冬舎アウトロー文庫『家畜人ヤプー』

未来では日本人が「ヤプー」という奴隷以下の家畜として飼われ、品種改良や人体改造を施され、白人たちの道具として使われているという、何とも過激な作品です。

あらすじだけ読むと、人種差別やコンプレックスが主テーマのようにも思えますが、実際はそういった風刺や皮肉を込めた作品というよりは、「完全な趣味(それも悪趣味)で作りました」という感じ。
とにかく創作物としての熱がすごいのです。

(※ここから先はちょっとだけネタバレあり!)

例えば、未来の発達した科学によるヤプーの品種改良についての記述。
ヤプーは用途によって様々な加工が施されますが、未加工の「原ヤプー」を最初に加工する時、服を着なくても済むようになる皮膚強化と、口を使わずに栄養摂取ができるよう腸内に共生動物を宿す処理の2つが必ず行われます。
この処理についての説明が、細すぎて恐ろしい。
この共生生物は他の惑星で発見しされた「完全な代謝」を実現した条虫に似た生物で、宿主の胃の幽門部に鉤を引っかけ、肛門から尾部を出し、代謝過程はこのアミノ酸の○○基に○○価を付与してウンタラカンタラ…
こんな感じの架空の説明がやたら多く、全然ストーリーが進まない。それがまたくどくて良い。

架空の文書(その世界では歴史を動かした名書とされる)や百科事典からの引用文で何十ページも割いたり、架空の言葉の語源の考察をしたり…

設定の裏付け情報を大量に目の前に並べられて、作者の文章があまりにも「冷静に狂っている」感じ。

読んでいると本当に怖くなってきますが、一方でこれらの大量の思考実験を見せつけられると、その狂った世界を受け入れてしまっている自分もいて、なんとも惹き込まれます。

ぶっ飛んだ設定の納得のさせ方が上手い。
科学的素養が深いのか、化学式や物質名なども持ち出して、かなり細かい説明をしていたりするので、未来の進んだ科学もその延長線上から大きく外れることなく、「本当に実現しそうだな」と思わせてきます。
逆に、ファンタジー要素が強い設定は、違う惑星の生き物や異次元の物質を持ち出したりして説明する。
その際も、ファンタジーだからといって決して論理的に破綻するわけではなく、現代科学に替わるあらたな理論を作って、それをベースに説明しています。

人の想像力はここまで世界を作れるのかと、ただただ圧倒されるばかりです…

理屈を通す勇気、納得させてみせるという熱量

すごい作品に触れると、視聴者や読者を「違和感なく」楽しませようとする配慮にかなり気を使っていることがわかりますね。
本当に勉強になる…

理屈がないなら作ればいいし、読者が考え得る違和感には先回りして説明をつけておく。

設定だけが全てではないですが、その設定から新たなストーリーが生まれたりもするので、考えるに越したことはない気がします。

その説明を作中で全て描く必要はないですし、全て語ろうとして本筋がグダるのも良くないですが、考えている時間が創作の楽しさだったりもします。

結論、創作っておもしれぇ〜な〜というところに落ち着きますね。

なんか結論めいたものが出たので、今回は終わります。
それでは〜!

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