僕が出会った「脱ぎたくならない」くつ下の話

「締め付けないくつ下」と「気持ちよくフィットするくつ下」は、果たして盾と矛のごとく相反する条件だろうか?
一日が終わってリラックスタイムになると、おじさんの僕はさっさとくつ下を脱ぎたくなる。脱ぐと気持ちいい。でも履いたままでも別に不快感のないくつ下なら、布団の中でも履いていたい...かもしれない。

くつ下を機能性で選んだことがありますか?

みなさん、自分用のくつ下っていったい何足所有しているものですか?
僕もきちんと数えたことがないけれど「オフィシャルな場限定で履くくつ下」「オフィシャルな場でも耐えうるくつ下」「ふだん履きくつ下」の3種類にわけて、全部で15足程度は所有しているかもしれない。これが少ない方なのか多い方なのかはわからない。

こうしてみると僕の意識の中でくつ下の位置づけは「下着以上、洋服未満」といったといったところか。
ビジネスマンにとっては失礼な話「消耗品」としての側面もあり「気に入ったものなら大枚をはたく」といったこともそれほどないが、自分の中で「一軍くつ下」や「勝負くつ下」はなんとなく決めてある。
”素肌に密着する衣類”という点で下着と同様だが、ショップで厳選して購入した覚えもない。そして持っている靴下の多くは「〇〇足1000円」で吊るされていたような気がする。

僕によるくつ下への不当な軽視は、デザイン性だけでなく機能面においてもあった。「暖か素材」「涼しい素材」「脱臭機能」etcほとんど気にして買ったことがない。ましてや「履き心地」など考えたこともなかった。くつ下に無頓着な人とはそんなものではないか。

ニットの街発・ゴム糸を使っていない靴下

古い知り合いからくつ下が送られてきた。
彼女〈上林希久子さん〉は、新潟県の五泉市に工場を構える(といってもニット工場の一角をシェアしているのだが)「くつ下工房」を主宰している。
上林さんの父親は戦後まもなく新潟県に靴下工場を建て、その2代目を彼女が継いだ。一時期は大手アパレルやデザイナーズキャラクターブランドの靴下をOEMしていたほど、その技術力と製品の品質には信用が置かれていた。

彼女が今まさにつくっているくつ下は「足が覚えていてくれるくつ下」なのだという。

くつ下工房

上林さんがつくるくつ下はゴム糸を一切つかっていない。それでも足首からズリ落ちて気持ち悪くなったりはしない。このフィット感を出すために品質の良いコットン糸を(一般的なくつ下より)多く使い、なおかつ「非効率に編む」ことなのだという。
 今回、記事を書くにあたって上林さんに「特別な技術が介在しているか?」と聞いたら「あえて非効率に編むこと。できるだけ早く作らない。一度にたくさん作らない」とだけ答えるのである。
 こんな非効率なくつ下は「〇〇足1000円」とかで売れるわけがない。それなりの価格だ。くつ下が好きな人が買うのだろうな、というライン。
  世の中に「くつ下が好き」と公言する人はどれほどいるかわからないが「(安い)くつ下が嫌い」という人は結構いるのではないか。
 この記事のリードでもふれたとおり、僕もくつ下は基本的に苦手。くつ下をはいて半日出歩くとゴム編みの部分がぎっちり足首を締め付け、食い込み、くっきりと跡を残す。その部分がかゆくなるほどに。体にとって大事な足首の部分の血行を阻害していることは間違いない。だから本当は、服装の点で許される場合はアンクル・ショートソックスを履きたい。家に帰ったらくつ下をすぐに脱ぎたい。でも本当を言えば、この季節は足首や手首など人体の「首」とつく部分は冷やすとよくないのだよね(夏の暑さしのぎには逆に「首」を冷やすと涼しくなるらしい)。
 

レビュー:「これならずっと履いていても良いかも」と足が覚える

上林さん自身は強調しないが、実は彼女のくつ下、かなり機能性にも富んでいて付加価値が多い。

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オーガニックコットンを使ったもの、天然抗菌素材・キトサンを練りこんだ糸を使用し抗菌・防臭効果に優れたラインもある。
  また、これは使ってみての感想だが、洗濯を何度繰り返してもくたっとヘタったり、糸が詰まって固くなったり縮んだりせず、ずっとパンとしているのだ。これは補強糸に、一般の安価なくつ下では絶対に使えない高価なものを使っているから。糸を多く使っていることも大きい。とにかく洗濯を経ても形が変わりにくい。

 そしてテーマとなる「くつ下」の履き心地だが、これはすこぶる良い。
 一日を通して「くつ下を履いているストレス」は一切ない。足の締め付けがないというのは、これほど楽なのか。くつ下ストレスによるムクみもまったくない。正直、今ではこのくつ下が僕の「勝負くつ下」になっている。余計な疲れがないので、多忙な一日や大事な仕事がある日はこのくつ下を履いていくようになった。
「くつ下脱ぎたいなぁ」と思う瞬間がない1日←これかーなり画期的なのですよ!!

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最初の足入れの時「ん、ちょっとユルいかな」と思ったが、ズレたりたるんだりしない。これが「ちょうどよい」大きさのくつ下ということか。
そしてこれは不思議なのだが、洗濯を繰り返すたびにこの「ちょうどよさ」は増してくる。
 上林さんは「足が気持ちよさを覚えていてくれるくつ下を」と言っているが、まるでくつ下のほうも僕の足を覚えてくれているように、物干しで元の形に戻っていく。

 くつ下のことを深く考えたことがなかった。でも考えないだけで、ストレスは確かに存在したのだなと思う。ストレスのないくつ下を履くと、それがよくわかる。

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