光へ向かうゴリラ

早朝、まだ薄暗い時間に家を出る。職場の2駅前のはなまるうどんで朝食を食べるためだ。家は郊外にあるので近くにコンビニなどは無く、最寄り駅までの道を照らすのは点滅を細かく繰り返す街灯のみである。

5分程歩き川を一つ渡ると、遠くにぼんやりと灯りが見えた。あれは最近できた24時間営業のフィットネスジムだ。ジムの傍まで来ると、私は店内を覗き込んだ。店内には客はおろか、スタッフさえ誰もいない。おそらくバックヤードで事務作業などをしているのだろう。

店内には様々なトレーニング器具たちが寂しそうに佇んでいる。彼らは何も言わず、ただただ早朝の街に光を注いでいる。

誰かが彼らを優しく抱きしめるべきだと思った。

腕で2本のアームを挟んで中央に寄せたり、なんかぶら下がってる棒をぐっと下に引っ張ったり、無限に出現する階段を上ったりするべきだ。

もちろん私にはできない、はなまるうどんへ行かなければいけないからだ。血がにじむほど強く拳を握り、涙を流しながらその場を離れた。

目的地に着いた私は、かけうどん(小)とちくわ磯部揚げを注文後、受け取ったかけうどんにたっぷりと天かすをかけて着席した。はなまるうどんは本当に美味すぎる。透き通ったダシとコシのある麺、派手さはないが堅実な味わいの天ぷら。美味い、美味い、美味すぎる。普段カレーしか食べてないからな~。本当に美味いよ、うまいうまい、う~~まいうまい、う、う、うまい、ううううううう~まい、ウマいウマい、ウ、ウマい、うほ、うううう、ウホ、ウマい、ウホ、ウウウマイ、ウホ、ウウホ、ウホ、ウホホ、ウホホホ、ウホ、ウホ、ウホホホホホホホホホホ。

あまりの美味さに、両手で胸を叩きながら器から顔を上げた。目の前にはガラスがあり、やたらと彫りの深いゴリラが映っている。そうだ、思い出した、私はゴリラだ。ゴーゴーカレーのパッケージに載っているゴリラだ。

全てを思い出した私は、自慢の筋肉で入口の自動ドアをぶち破り、朝に見かけたフィットネスジムへ向けて走り出した。待っていろ全てのトレーニング器具よ、この筋肉で抱きつぶしてやる。



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