羊文学vs猿春画

個室ビデオでエッチなVRを楽しみ部屋を出ると、ロビーで羊文学の曲が流れており、私は憤慨した。何が悲しくて、大量のAVに囲まれながら羊文学を聴かなければいけないのだ。

大体何が羊文学だ。お前らは羊でも文学でもないじゃないか。お前らが羊文学だとするなら一体私は何なんだ、猿春画か?

猿春画、悪くないね。個室ビデオに行って手当たり次第にその場にいる客に声をかけて、この名前でバンドを組もう。

ジャンルはtoeみたいな知的でアグレッシブなマスロックバンド。何たって集まるメンバーは全員マス掻くのが大好きなはずやからね。

店の外に出て夜風に吹かれ頭が冷えると、とあることを思い出した。そういえば、2年ほど前に見た『岬のマヨイガ』という映画では、主題歌を羊文学が担当していた。

エンドロールで流れた羊文学の曲は、厄災を乗り越え家族となった映画の主人公たちを温かく祝福しているように聴こえて、私は映画館の座席の上で静かに感動の涙を流した。

2年前の私は羊文学の曲で素直に感動していたというのに、今の私の心は何故ここまで汚れてしまったのだろう。

おそらく就職してしまったからだろう。『岬のマヨイガ』を観たときは無職真っ盛りの時期であった。皆もご存じの通り、無職の心は琵琶湖の西側ぐらい澄み切った青色をしているのだ。

一刻も早く仕事を辞めなければ。

仕事を辞めて美しい心を持った無職となり、改めて個室ビデオ店へ行こう。そして猿春画を結成し、羊文学と対バンするんだ。



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