ポケモンゲットだぜ

先に書いておく。
私は言葉遣いが庶民だ。
お貴族様には寛大な心であってほしい。


ガキが後ろで泣き喚いていた。
例えるなら甲子園のサイレン。学童・児童館育ちの私にとって、元気で良かったなくらいの感想である。
泣き喚いていた理由は、便所に行くために並んでいた列から離れ、戻ってきたら最後尾に並ばなければならないという現実を知ったからだった。
「列から離れたらもう一度並びなおすものなの」
「待つことも大事なの」
とお母様は真っ当なことをおっしゃっていた。
が、ガキはまだ人生をスタートしたばかりの人間初心者であるから当然理解できず、並ばなければならないことに苛立ち泣いていた。
かくいう私がどこに来ているかというと、ミスドである。当たり前にディグダのためだ。そして、先週もここへ訪れている。というのも前回は私の目の前でディグダが掻っ攫われたために買えなかったのだ。
つまりリベンジというわけだ。
ディグダ狙いのお客さんは多く、次々と連れ去られていくディグダ。残り3匹になったところで、私の前に並んでいるのはちびっこ4人を連れたお母様だ。私はディグダが全員連れ去られるかもしれないという緊張感に包まれていたが、思慮深いお母様なのか、それともすでにプレートがドーナツでいっぱいだったからなのか、ディグダを一匹取って前へ進んだ。残り2匹。
ここで、私は2つの道があった。ディグダを1匹奪うか、2匹奪うか、である。前回私がディグダを連れ去れなかったのは2つ前に並ぶ女がディグダを2匹連れ去っていったからである。(特に匹数制限はないのだから、何匹連れて行ってもいい。ただ私がイラついただけだ)私も今回そうしても良かったのだ。
私は大人であるから、ディグダを2匹掻っ攫うことは容易にできる。後ろの不機嫌なガキをさらに不機嫌にする未来を私は選べた。
結局私は1匹のディグダを連れ去り前へ進んだ。私は全てのディグダを連れ去れる。しかし私は精神的に大人なのだ。ガキはどうでもいいが、お母様が苦労しそうだと思い、
やめた。
ガキはディグダが一番欲しかったと、いじけながらも言った。お母様は
「良かったねぇ〜〜〜〜〜〜〜〜。待ってればいいことあるじゃん」
と、激褒めをしてからの最高のオチ台詞を放った。お母様、お疲れ様です。
ガキには響いていなかったみたいだが。まぁ少しは機嫌が直ったようだった。
お前がディグダをポケモンゲットだぜできたのは私が1個に留めておいたからだ、と大人気なくも心の中で反芻した。
私は物足りなかったので、進んだ先にあった、ガリガリしたカレーパンをプレートに乗せた。ザクもちなんたらパンというやつらしい。美味そうだ。
これも最後の一個だった。
ガキは横から見ていた。すると
「ザクもち…てなに」と言い出した。まずい。
お母様が商品の説明を音読し、ガキが、
「おいしそう…」
と、それを欲しそうなことを遠回しに言っていたので、私はミスドの天井を眺めた。ザクもちドッグは2種類あったが、私の連れ去ったもので最後だった。ガキあるあるで、他人が持っているものを欲しがる傾向にある(私調べ)。そんなあるあるにぴったりとハマったガキ。
まぁ言わずともわかる。これが食いたくなったんだろう。他にもキラキラしたドーナツたちがお前を見ているじゃないか。何も茶色のワンカラードーナツじゃなくて良いだろう。大人の私はそう思ったが、ガキにとっては違う。
お母様は「これも人気なんだねぇ」と落ち着いた様子。
ガキはやはりザクもちに興味を持ったようでその後も遠回しに言及していたが、最終的には「残りの一個で危なかった」的なことを言って席を取るために列から離れたため、私は天井を見るのをやめた。
ディグダ、ガキの頭ん中を占拠してくれてありがとう。株式会社ポケモンありがとう。

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