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「夏と秋」Webマガジン 第10号

【はじめに】
こんにちは。こうさき初夏と秋月祐一の創作ユニット「夏と秋」です。マガジン第10号は、とわさき芽ぐみさんの短歌連作「ぽの種火蒔く」と、瀬戸さやかさんと秋月祐一の短歌推敲セッション「読者投稿欄でぐでぐ」がメインです。お楽しみいただければ幸いです。

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今回のマガジンは、
【ゲスト作品「ぽの種火蒔く」/とわさき芽ぐみ】
【ゲスト作品評/こうさき初夏】
【短歌「妻とツチブタ」/秋月祐一】
【読者投稿欄でぐでぐ(7)/瀬戸さやか】
【カピバラ温泉日記/秋月祐一】
という内容でお送りいたします。

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【ゲスト作品/とわさき芽ぐみ】

 ぽの種火蒔く  とわさき芽ぐみ

あたらしいまるにふくらむ ぽ があってよるにともしてゆくまるい火を

肺の ぽ をまあるく鳴らすぽぽぽぽぽ だからこきゅうはあたたかいのよ

ぽ のまるをくぐってみたり ぽ のまるにこしかけてみたり 満ちたり満ちたり

3次元2次元4次元 のーぷろぶれむ ぽ は悠々と ぽ を生きてゆく

全ぽに告ぐ! ぽぽぽぽぽぽぽ? まっとうせよ、ぽをまっとうせよ、ぽのでぃぐにてぃ

ぽのろじぃ 音韻ろんらん どの ぽ にも笑窪みたいなひなんじょがある

生きるときあわいあわいに ぽ があってもうひとたびの決意のなかの

憩うときその ぽ のなかをたゆたってぽろぽろこれはどなたのなみだ

溶けてゆく銀色の火を見つめれば ぽ はいつまでも ぽ あたたかい

ぶわあぶわあぽぽぽぽぽぽぽ あたらしい形の息で種を飛ばそう

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【ゲスト作品評/こうさき初夏】

とわさき芽ぐみとぶわあとぽと こうさき初夏

未来短歌会彗星集に入会したばかりのとわさき芽ぐみ(すみえだろか)といえば、斬新な表現の作品が誌面に掲載され、その名を轟かせている。
『未来』2019年6月号で彗星集選者の加藤治郎氏はこう述べている。「どういう初期作品からこの音と記号の乱舞の世界に到達したのか。知りたくてならない。あるいは、初めからこういう形態だったのか。(同誌:88ページ)」加藤氏のこの問いへの答えになるかはわからないが、とわさき芽ぐみの詩観を探るうえで重要な短歌が存在する。

ぶわあ、ぶわあ、ガラスの胞子撒き散らしシンデレラたちがたくさん生える/とわさき芽ぐみ

ツイッターを検索して出てきた短歌である。約2年前のツイートであるが、その時点もしくはそれよりも前の作品であると推測できる。
さて、ぶわあ、とは一体何か。植物が芽吹くときの音やその様子のオノマトペだろうか。実際その場面にあってもそのような音は聞こえないはずである。
とわさきは聞こえないものが感じられるように表現しようとしているのではないか。その表現を追求する過程で、植物に限らず「いのち」の音が聞こえているのではあるまいか。音だけでなく、その視覚イメージもつかもうとしているのだろう。これらを踏まえてとわさき芽ぐみ「ぽの種火蒔く」を読んでみてほしい。より読解が深まることを願う。
今回の企画は、とわさきが「ぽ に関する連作をつくりたいのですが、ご迷惑でないでしょうか」とこうさきにわざわざ連絡をくれたことから始まった。アイデアそのものには著作権はないのだが、拙10首連作「ぽと梟」に敬意を払ってくれたこと、そして「ぽ」の詩性が彼女にインスピレーションをもたらしていたことが嬉しかった。
とわさきの連作「ぽの種火蒔く」はこうして生まれた作品である。簡単に言えば「ぶわあ」と「ぽ」の融合である。

ぶわあぶわあぽぽぽぽぽぽぽ あたらしい形の息で種を飛ばそう/とわさき芽ぐみ「ぽの種火蒔く」

「ぶわあ」はとわさきに詩を与え、「ぽ」も同様にこうさきに詩を与えた。

「ぽ」はとわさきにとってどうやら丸いかたちらしい。
「ぶわあ」がこうさきを呼ぶ日を心待ちにする。「ぶわあ」がこうさきから何を引き出すか、自分の事として楽しみである。

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【短歌/秋月祐一】

    妻とツチブタ

  ツチブタはツチブタ目ツチブタ科ツチブタ属の
  独特な系統をもつ生き物である。
  妻は二十一歳差でバツ2無職のぼくと結婚した
  はなはだ勇気のある女性である。

ツチブタと妻はどちらが珍獣度高いか今宵かんがへてみる

ツチブタのぱたぱたしてる耳が好き、ほそながい鼻、小さなめんめ

前に後ろに頭のまるい妻のことまーるまーると撫でつけてゐる

  ツチブタは夜行性で一日に起きてゐるのは三、四時間。

休日の妻はよく寝るツチブタと同じくらゐにただただ眠る

ぽつとかぽーとか声を発する妻そしてツチブタはなんて鳴くのだらうか


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【読者投稿欄でぐでぐ(7)】

投稿者の瀬戸さやかさんと、秋月祐一のメールのやりとりを紹介させていただきます。短歌の推敲がどのように行われているのか、その様子をご覧ください。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

こんばんは。
でぐでぐに投稿です。

【原作】
天気予報チラ見しながら黙々と家計簿つける明日は荒天

推敲ポイントの予想です。
「チラ見」は口語的すぎて短歌に馴染まない。
結句はもう少し何とかならないか(どういう作歌意図か)。

よろしくお願いします。

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

ご投稿ありがとうございます。

〉天気予報チラ見しながら黙々と家計簿つける明日は荒天

短歌はいわゆる詩語・歌語で書くべきだと主張する人もいるとは思いますが、この歌の場合、「チラ見」は生活感を出すのに一役買っているので、ぼくは問題ないと思います。

むしろ「〜しながら〜する〜明日は荒天」と、一首のなかの時間の経過が長いことが気になります。

まず、「家計簿つける」は「つける家計簿」と語順を変えてみてはいかがでしょうか?

次に「明日は荒天」。このフレーズは、家計の状況を天気になぞらえているのだと思いますが、明日のことよりも、いま雨が降りだした、と言うほうが短歌という詩型には向いているような気がします(あと、「明日は荒天」は大仰な言い方のように感じられます)

それをどう定型になじませるか。考えてみてください。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

「明日は荒天」は家計の状況を表す意図ではないので、結句を変えてみました。

【改作1】
天気予報チラ見しながら黙々と家計簿つける夜のひととき

なんとなく、「家計簿つける」は語順をそのままにしてみました。

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

ご改作ありがとうございます。

〉天気予報チラ見しながら黙々と家計簿つける夜のひととき

「明日は荒天」を抜いてしまうと、単なる日常の報告になってしまうような気がします。

仮に「夜のひととき」を活かすならば、「黙々と家計簿つける」の部分に意外性のある言葉を持ってくるとか、もう一工夫したいところですね。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

とりあえず「夜のひととき」を活かす方向の改作をひとつ。

【改作2】
天気予報チラ見しながらFBのいいねを数える夜のひととき

意外性がまだ足りないでしょうか。

「明日は荒天」の方はもう少し考えてみます。

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

ご改作、ありがとうございます。

〉天気予報チラ見しながらFBのいいねを数える夜のひととき

うーん。さらに日常化してしまったような……
この方向だと、読者は共感も驚きも、どちらも感じることができないのではないでしょうか。

(原作の「天気予報チラ見しながら家計簿つける」は、地味ではあるけど、たしかな生活感のようなものを感じさせてくれます)

SNSで行くなら、読者にまず「え?」と思わせて、それから「あー、でも、わかる」となってほしいと思いませんか?

「FBのいいねを数える」の部分に入れる言葉を、さらに探してみてください。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

たぶん、SNSに関してではなくても、「え?」「でも、わかる」と感じさせるものがいいんだろうなと思います。

その方向に行ければいいのですが、

【改作3】
天気予報チラ見しながら黙々とつける家計簿クレジット欄

はどうでしょうか。

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

読者にまず「あ!」とか「え?」という引っかかりを感じさせる部分が必要、ということですよね。

〉天気予報チラ見しながら黙々とつける家計簿クレジット欄

「クレジット欄」には、そういう驚きはないような気がします。

現時点では、原作がいちばん強い表現になっているように思うのですが、いかがでしょうか?

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

あーもう、やぶれかぶれで、

【改作4】
天気予報チラ見しながら黙々と家計簿つけるおならがもれる

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

あと、これも意外性がないって言われそうですが、

【改作5】
天気予報チラ見しながらずぼらヨガ体をひねる夜のひととき

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

〉天気予報チラ見しながら黙々と家計簿つけるおならがもれる

攻めの姿勢には好感を持ちましたが、ちょっと動詞が多いような気がします(とりあえず、キープしておきましょう)

〉天気予報チラ見しながらずぼらヨガ体をひねる夜のひととき

「チラ見」と「ずぼらヨガ」のバランスが、意外といいのではないでしょうか。

「体をひねる夜のひととき」の部分に、具体的な動作とかポーズを入れてみてはいかがでしょうか?

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

【改作6】
天気予報チラ見しながらずぼらヨガフーッとうなるネコのポーズで

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

いいですね!

「フーッと」は「ヨガ」とつながらないように、かなに開いてもいいように思います。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

キープの方で、動詞を減らして

【改作7】
天気予報チラ見しながら黙々と家計簿つける無音のおなら

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

【改作8】
天気予報チラ見しながらずぼらヨガふーっとうなるネコのポーズで

そうですね、フーッとだとヨガとつながってしまいますね。

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

〉天気予報チラ見しながら黙々と家計簿つける無音のおなら

こちらは「つける家計簿、無音のおなら」と体言止めを並べてみるのは、いかがでしょうか?

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

ネコのポーズのほう、ふーっと「のびる」「しなう」なども、ありうるような気がしました。(「ずぼらヨガ」との兼ね合いから)

あと、カタカナが多いので、「ネコ」は漢字でもいいかもしれません。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

【改作9】
天気予報チラ見しながら黙々とつける家計簿、無音のおなら

【改作10】
天気予報チラ見しながらずぼらヨガふーっとのびる猫のポーズで

「のびる」が一番「ずぼら」な感じがしました。

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

的確なご改作、ありがとうございました。この二首を今回の最終稿とします。

【最終稿】
天気予報チラ見しながら黙々とつける家計簿、無音のおなら/瀬戸さやか

天気予報チラ見しながらずぼらヨガふーっとのびる猫のポーズで/瀬戸さやか

一首のなかの時間の長さや、読者を惹きつけるための工夫について、話し合うことができてよかったと思います。

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【カピバラ温泉日記/秋月祐一】

6月1日(土)
[演劇]明後日『後家安とその妹』@紀伊國屋ホール。ヒロインの芋生悠さん目当てで観に行った芝居です。落語を原案に、善悪の境をめぐるような、ディープな物語が展開されました。小泉今日子さんプロデュース。

[演劇]『尿意』(作・諏訪哲史、演出・天野天街、出演・岡本理沙)@梅ヶ丘BOX。3年前の七ツ寺での初演以来の再見。破格の朗読劇は、より一層、演劇色が強まった印象を受けました。終演後の打ち上げで、岡本さんや天街さんとお話させていただいたことも、興味深く。

6月2日(日)
[演劇]山の羊舎『もーいいかい・まーだだよ』(作・別役実)@下北沢・小劇場B1。夜な夜な、かくれんぼとお茶会をおこなう奇妙な家族。そこに30年間不在だった父が帰ってきて……。長い時間をかけて壊れていった家族の姿を、くっきりと描きだした秀作でした。

[日々]観劇三昧だった週末。そして今宵は、自宅でおこなう睡眠時無呼吸症候群の検査。鼻や指に機器をとりつけての就寝となります。

6月5日(水)
[創作]今日は「夏と秋」マガジン第9号の発行準備をあれこれと。あれ、もうこんな時間。寝なきゃ。

6月6日(木)
[創作]「夏と秋」マガジン第9号を発行。今回は、瀬戸さやかさんと北詰若菜さんをお迎えして、短歌の推敲の過程をじっくりご紹介。

6月7日(金)
[日々]夕食にピーマンの肉詰めを。大好物なのでたくさん作りました。

6月9日(日)
[錆猫]日曜日は、サビ猫くうちゃんにウエットフードをあたえる日。ハゴロモ「無一物」のカツオが、くうちゃんのお気に入りです。

[音楽]hofli の『十二ヶ月のフラジャイル』を聴きながら、句集づくりの作業を。冒頭から一句ずつ〈糸を通して〉ゆき、五十六句まで並べました。

6月10日(月)

[短歌]西巻真さんと内山佑樹さんのツイキャス「ぐるぐる空中戦」で、拙歌を取り上げていただきました。ありがとうございます。

カセットテープはもう死語ですか死後ですかうしろ歩きで商店街を/秋月祐一

6月11日(火)
[創作]句集づくり。一頁二句組で、コピー本を試作しました。べつのフォーマットも試してみようと思います。

6月12日(水)
[映画]#好きな恋愛映画3つさらす
『三月のライオン』(ハルオとアイスのほう)
『ジョゼと虎と魚たち』
『牯嶺街少年殺人事件』

6月13日(木)
[美術]八王子リトモスコーヒーで行われている、ムトウレイさんの個展へ。蔓草で縄跳びをする少女の刺繍にとくに惹かれました。

6月14日(金)
[創作]歌集・句集づくり。勇気をふりしぼって、出版社さんへファーストコンタクトとなるメールを送りました。ぜひともお願いしたい装幀家さんがいるんですよ。いい本になるといいなあ。

6月16日(日)
[演劇]ムニ『メモリー』(作・演出:宮﨑玲奈)@東中野RAFT。取り壊しが決まった大学の寮に残っている女学生と、その恋人や友人たちの関わりを、繊細なタッチで描いた作品です。人とつながること、社会とつながること、あるいは、つながらないこと。演劇的な想像力に満ちていて、とても面白かったです。

6月17日(月)
[音楽]さだまさしさんのセルフカバー・アルバム『新自分風土記』。『望郷篇』はピアノ中心、『まほろば篇』はギター中心の編成。とにかくアレンジが新鮮で、あたかもライブでの演奏が、アルバムとして定着されているような印象があります。往年のファンの方にも、初めてさだまさしを聴く方にも、おすすめいたします。

6月19日(水)
[創作]歌集づくり、句集づくり。出版社が決まり、すこしずつ打合せが進んでいます。どうぞご期待ください。

6月24日(月)
[短歌]#2019年自分が選ぶ今年上半期の4首

遊園地のある町に住む空想をしながら地下の駅へといそぐ

巨大アサリはアサリぢやないと知つてゐるでも生き方はよくわからない

ロバに乗つたことがないつて気がついてすこしさみしい履歴書を書く

カセットテープはもう死語ですか死後ですかうしろ歩きで商店街を

6月25日(火)
[俳句]阿部完市は、1962~1973年に『絵本の空』『にもつは絵馬』というピークを築き、その後、三つの句集を経て、1985~1990年に『軽のやまめ』という第二のピークを迎えているのが、すごいと思います。

[日々]眼鏡を新調しました。細めの黒縁で、つるはダークレッド。

6月26日(水)
[読書]倉橋由美子『交歓』を再読中。桂子さんシリーズ、好きなんです。

6月27日(木)
[日々]夕食は、立原正秋流の大根の炒め煮を中心に。ぼくの得意料理のひとつです。

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【編集後記】

労働に関するムーブメントは着地点を迎えました。
10号発行と同時期でめでたいです。
とわさきさん有難うございます。ぶわあ、ぽっ(夏)

「夏と秋」Webマガジンが10号を迎えました。
これからも気負わず、自由にやってゆきたいと思います。
読者投稿欄でぐでぐの常連で、ぼくらの活動を応援してくださっている
瀬戸さやかさんに、心から感謝の意を表します(秋)

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「夏と秋」Webマガジン 第10号
2019年7月1日発行
夏と秋:こうさき初夏・秋月祐一
発行人:秋月祐一
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