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夏と秋 Webマガジン 第12号

【はじめに】
こんにちは。本号より秋月祐一のソロ活動となった「夏と秋」です。ひきつづきお楽しみいただければ幸いです。Webマガジン第12号は、瀬戸さやかさんとの短歌推敲セッション「でぐでぐ」を二本立てでご紹介。短歌推敲の過程を、ぜひご覧ください。

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今回のマガジンは、
【俳句「内線かける」/秋月祐一】
【読者投稿欄でぐでぐ(9)/瀬戸さやか】
【読者投稿欄でぐでぐ(10)/瀬戸さやか】
【カピバラ温泉日記/秋月祐一】
という内容でお送りいたします。

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【俳句】

  内線かける  秋月祐一

かはうそと交はす握手や涼あらた

自転車に乗つても猫背花野ゆく

サイフォンを移動するお湯秋の音

朝顔の枯れる力もなく咲けり

冷やかに千のドアノブまはされる

南極に内線かける夜半の秋

肉球をまぶたに当ててゐる銀河


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【読者投稿欄でぐでぐ(9)】

*投稿者の瀬戸さやかさんと、秋月祐一のメールのやりとりを紹介させていただきます。短歌の推敲がどのようにして行われているのか、その様子をご覧ください。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

ご無沙汰しています。でぐでぐの投稿です。

【原作】
私とは違うあなたをわかるわけないではないか妻のトリセツ

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

ご投稿ありがとうございます。

〉私とは違うあなたをわかるわけないではないか妻のトリセツ

作者の感慨+妻のトリセツという歌の作りになっていますが、どちらにも疑問があります。

まず、妻のトリセツですが、流行りものに頼らず、オリジナルで詩的なアイテムを探してみませんか?

つぎに、感慨の部分ですが、字数を大幅に費やしてるわりに、文字通りの意味以上に、読者の想像がひろがりにくいような気がします。

歌のイメージの核は、原作から伝わってきましたので、全体的に、もっと自由にことばを変えてもいいのでは?

のっけから厳しい注文になりましたが、ご検討のほど、よろしくお願いいたします。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

【改作1】
永遠にわかりあえぬと知りながら二人芝居を演じ続ける

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

ご改作、ありがとうございます。

〉永遠にわかりあえぬと知りながら二人芝居を演じ続ける

「二人芝居」という具体が出てきましたが、まだ全体的には、観念的すぎるような気がします。

「二人芝居」をとっかかりにして、さらに生活のディテールを想像してみてください。

「演じ続ける」は省略して、「二人芝居を」を結句してもよいかもしれません。たとえば、○○のような二人芝居を、として、○○の部分にさらに具体を入れるとか。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

全然、観念的の域を出ないのですが、

【改作2】
「わからない」と「わかる」の間ゆらゆらとただよう小舟ふたりで漕いで

観念的ですよね…

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

ご改作ありがとうございます。

〉「わからない」と「わかる」の間ゆらゆらとただよう小舟ふたりで漕いで

思いも喩もわかりやすすぎるような気がします。

「わかりあえない」という思いが、歌の中心であることは伝わってくるので、いったん「わかる」「わからない」という言葉を使わずに、作歌をしてみてはいかがでしょうか?

作者が「わかりあえない」と言ってしまうのではなく、読者にこのふたりは「わかりあえないんだな」と想像させるような感じで。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

【改作3】
タバコごと君はいなくなるタバコごと私のそばにいて欲しいのに

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

いいですね。

〉タバコごと君はいなくなるタバコごと私のそばにいて欲しいのに

「タバコごと」というゴタゴタした音が面白く、「君はいなくなる」という八音をはさんで、二度くりかえしたのも効果ありかと。

瀬戸さんに書き切った感触があれば、最終稿にしてもよいと思います。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

最終稿でお願いします。
「わかりあえない」状態を「わからない」「わかる」という言葉なしで表現する、ということが私にとってはチャレンジでした。が、作ってみると、なるほどの感ありです。「タバコごと」の音の印象は全く考えてなかったです。

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

ありがとうございます。

では、このかたちを最終稿にさせていただきます。

【最終稿】
タバコごと君はいなくなるタバコごと私のそばにいて欲しいのに/瀬戸さやか

タバコより君が大事なのに、上の句の表現からは、タバコにより執着しているようにも感じられる点が面白いと思いました。そこから下の句の切実な思いへの落差、そこがこの歌のポイントだと思います。

それと、短歌は、なにを語るのかと同じくらいに、韻律や字面が重要です。その点を押さえていただければ幸いです。

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【読者投稿欄でぐでぐ(10)】

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

でぐでぐに滑り込み投稿です。

【原作】
入院の君からかかる留守電は大事に保存繰り返し聞く

そのまんまや!!
これをどういう方向で推敲したらいいか、途方に暮れています。

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

ご投稿ありがとうございます。

〉入院の君からかかる留守電は大事に保存繰り返し聞く

歌にしたい思いは、はっきりしているので、
それを大事にしながら、
大胆に(?)改作してみましょう。

まずは下の句。
「大事に保存繰り返し聞く」を、
時間、季節、場所、シチュエーションなど、
もっと具体的に想像してみてください。

つぎに上の句。
「入院の君からかかる留守電」は、
もちろん、そのままでもよいのですが、
この部分を詩的に飛躍させる手もあるかと思います。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

まずは、下の句の改作を。

【改作1】
入院の君からかかる留守電を星空の下歩きつつ聞く


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秋月祐一→瀬戸さやかさん

ご改作ありがとうございます。

〉入院の君からかかる留守電を星空の下歩きつつ聞く

「入院の」は「入院中の」と初句七音にしたほうが安定するかもしれません。

「星空の下歩きつつ聞く」は、病院にいる君と、星空の下の私という場所の対比ですね。

その構図は上手くいってると思いますが、ちょっときれいにまとまりすぎていて、読者に対するとっかかりが弱いかも。

さらに一、二歩ふみこんでみてください。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

【改作2】
入院中の君の留守電聞きながらユニクロで服を眺めて歩く

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

ご改作ありがとうございます。

〉入院中の君の留守電聞きながらユニクロで服を眺めて歩く

「星空の下」にあった、心もとない場所で君の留守電を聞く、という淡いポエジーがなくなってしまったような気がします(星明かりの下で、携帯電話だけが光っているイメージもいいですね)

ところで、ひとつ質問なのですが、「歩きつつ」や「歩く」には、ベッドの上で動けない君への思いのようなものが込められているのでしょうか?

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

うーん、また改作しますね。
「歩く」についてですが、秋月さんが思っているのとは違いますね。自分が、考え事をしたり、短歌を作ったりするのに、「歩きながら」が多いので、多分それが理由です。だから「歩く」は要らないのかもしれません。

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秋月祐一→瀬戸さやかさん
ご回答ありがとうございます。だとしたら「歩く」は省略可能ですね。

〉入院の君からかかる留守電を星空の下歩きつつ聞く

ひとつもどって、このかたちから「歩きつつ」を省き、留守電を聞いたときにどんな気持ちだったのかをもういちど想像しながら、星空の描写をしてみるとか、いかがでしょうか?

文体としては、ラストに「聞く」が来たほうが、歌のポイントがはきっきりするように思います。

星空とはべつのかたちも歓迎します。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

【改作3】
入院中の君からかかる留守電をメダカの死骸を眺めつつ聞く

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

ご改作ありがとうございます。

〉入院中の君からかかる留守電をメダカの死骸を眺めつつ聞く

いいですね。「メダカ」という小さな生き物の死と、入院中の君という対比がスリリングです。そして、作者の思いが伏せられていることから、あれこれと想像をかきたてられます。

このかたちを今回の最終稿としても、よいと思うのですが、いかがでしょうか?

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

それでは、これを最終稿でお願いします。

【最終稿】
入院中の君からかかる留守電をメダカの死骸を眺めつつ聞く/瀬戸さやか

今回も推敲をお手伝いくださり、ありがとうございました。

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【カピバラ温泉日記/秋月祐一】

8月1日(木)
[日々]各方面から原稿依頼をいただいて、頑張らねばならない8月です。その合間を縫って、妻と夏の計画をあれこれと。

[音楽]スウェーデンの女性ア・カペラ・グループ、クラヤの『ブルサンド・ハヴ』。スウェーデンの伝統的な唱法を取り入れた、ポリフォニックなハーモニーが魅力的です。

8月3日(土)
[日々]就活に関しては一進一退。俳句と短歌に関するエッセーは第一稿を完成。一晩ねかせてから見直す予定です。「夏と秋」Webマガジン第11号も追い込み中。夕食は、太麺の焼きそばを食べました。

8月7日(水)
[壁球]妻といっしょに、スカッシュ教室の2回目へ。とっても楽しかったけど、そろって筋肉痛に。明日が思いやられます。

8月8日(木)
[立秋]立秋の文字を目をすると、おのずと立原正秋を思い浮かべてしまう愛読者です。8月12日は立原の命日。

8月9日(金)
[日々]夕食はタコライスです。

8月10日(土)
[日々]病院、区役所に行ったあと、俳句と短歌についての評論の仕込み作業を。この評論書きは、夏の大仕事です。

8月11日(日)
[日々]横須賀へ。山道の細くて長い階段をのぼったり、用を済ませたあと、大きな穴子が乗った天丼をいただいたり。

8月14日(水)
[壁球]スカッシュ教室3回目へ。お盆だからか生徒が少なく、ぼくと妻ふたりきりで、一時間みっちりと先生に指導していただきました。そして、やっぱり筋肉痛に。

8月16日(金)
[読書]大山美鈴さんの漫画『ぎんちゃんとわたし』。猫好きにとっては、たまらない1冊です。

8月17日(土)
[錆猫]サビ猫くうちゃんは、動物愛護センターからもらい受けた保護猫なので、誕生日はわかりませんが、この8月で2歳になりました。くうちゃん、おめでとう。これからもよろしくね。

8月19日(月)
[日々]短歌と俳句に関する評論の、初稿を書き上げました。他にも、選句と講評、歌集の校正など、さまざまなお仕事をいただいて、大いそがしの残暑です。

8月20日(火)
[日々]俳句の選句と講評書きを。このところ、締切つづきなので、前倒しのペースで、こつこつと作業をしております。

8月21日(水)
[壁球]スカッシュ教室へ。サーブやレシーブの練習に加えて、ラリーの初歩を教えていただきました。打ち合いがつづくと、楽しい。

8月24日(土)
[日々]短歌と俳句についての評論を脱稿。個人的には、この夏の大仕事でした。ほっと一息。

8月25日(日)
[音楽]いろんなためいきの2枚のアルバム『まじまじ』『そわか』を聴いています。肩の力が抜けたクラリネットのサウンド、大好きです。

8月26日(月)
[糠床]無印良品のぬかどこを入手。まずは胡瓜を漬けることに。明日が楽しみ。

8月27日(火)
[糠床]胡瓜は大成功でした。今日は茄子とチーズを仕込んでみました。

8月28日(水)
[糠床]茄子とチーズ。激ウマです。 今日はプチトマトを漬けこみました。

8月29日(木)
[展示]歌人・寺井奈緒美さんの「アーのようなカー展」@西荻もりのこと。室外機の上にいる猫の土人形を購入。『夜のかんづめ』というマンガが、とっても素敵でした。

8月30日(金)
[糠床]プチトマトは、ぬか漬けにすると、酸味が消えて、甘くなることが判明。

9月1日(日)
[短歌]

なくなれば美しくなる でもぼくは電線越しの空が好きです/寺井奈緒美『アーのようなカー』

電線をあへて入れこみ空を撮る 雨のにほひのしてきた空を/秋月祐一

9月3日(火)
[演劇]TLに感想が流れてきて面白そうだなと思った、劇団どくんご。9月下旬の大宮公演のチケットを予約しました。

[演劇]akakilike(アカキライク)という演劇ユニットの名前もおぼえました。今回の東京公演は1日だけの上演だったらしく、観ることができなかったのが残念です。

9月4日(水)
[壁球]スカッシュ教室へ。前へ後ろへ、コートを移動しながら打つ練習など。

9月6日(金)
[演劇]七里圭『清掃する女』@早稲田小劇場どらま館。母と娘の関係性をモチーフに、演劇・ダンス・映像・音楽が有機的に絡みあい、能の現代化や映画の舞台化が高度に達成された、すこぶる刺激的な作品でした。安藤朋子さん、黒田育世さんの卓越した身体表現に、紗幕に投影された映像が、幾重にも重ね合わされることによって、生と死の境があいまいな、幽明の世界を現出していたように思います。

9月7日(土)
[映画]『火口のふたり』。面白かったです。ラストの展開には驚いたけど、あれは絶望のなかの希望みたいなことなのかな? 柄本祐さんと瀧内公美さんが素敵でした。濡れ場の合間のちょっとした会話のおかしさや、食べ物がおいしそうなとことか。

[俳句]

岩波俳句(「世界」10月号)
池田澄子選・佳作

梅雨寒やシュークリームの前にひとり/秋月祐一

9月8日(日)
[短歌]「短歌研究」9月号。短歌研究賞と短歌研究新人賞の発表号です。佐藤弓生さんと千葉聡さんの連載「人生処方歌集」で、拙歌をご紹介いただきました。ありがとうございます。

「生涯にいちどだけ全速力でまはる日がある」観覧車(談)/秋月祐一『迷子のカピバラ』

[映画]『霊的ボリシェヴィキ』をBlu-rayで再見。韓英恵さんがとびきり怖くて、美しい。

9月9日(月)
[日々]台風に備えて、物干し竿を室内にしまいました。

[読書]立原正秋の『春の鐘』を再読中。最初に読んだのは高校生のときで、それ以来、なんど読み返したか分からない本です。いつのまにか、主人公より、自分のほうが年上になりました。ヒロインの多恵は、現在の妻と同い年。

9月10日(火)
[電視]樹木希林さんの追悼番組。
「おごらず、人と比べず、面白がって、平気に生きればいい」という言葉、いいですね。

[読書]俳句誌「船団」第122号に掲載されている、坪内稔典さんと池田澄子さんの対談「ピーマンとたんぽぽ」(司会・小西昭夫さん)がおもしろい。


9月11日(水)
[壁球]スカッシュ教室へ。壁に当たって跳ね返ってきたボールを、ノーバウンドで打つ「ボレー」の練習など。

[日々]「やたがらす吉野物語くり」という栗のリキュールを飲んでいます。これはおいしい!

9月12日(木)
[日々]大江千里さんのニューアルバム『Hmmm』を聴きながら、大阪の美酒「秋鹿」純米・無濾過生原酒を。いい夜です。

[糠床]今日は大根をいただきました。すこぶる美味。

9月14日(土)
[糠床]今日は山芋を仕込みました。ガスコンロの火でひげ根を焼いてから、縦半分に切って、皮ごと漬けこみ。食べごろは1日から2日後とのこと。

9月16日(月)
[演劇]iaku『あつい胸さわぎ』のチケットを取りそこねたのが残念。次回公演を楽しみにしています。

[音楽]yukaD の『Soul in the Loop』。滋養のある音楽という感じで、じわじわと沁みてきます。

9月17日(火)
[糠床]山芋、とても美味しかったです。またやりたい。

9月18日(水)
[壁球]スカッシュ教室へ。コートを左右に移動しながら、打つ練習を。

9月19日(木)
[音楽]吉田慶子さんの『カエターノと私』。カエターノ・ヴェローゾの曲を、ピアノ・ベース・ヴォーカルの編成で、ひっそりと表現した名盤です。

9月23日(月)
[日々]アパートの窓に、やもりが初登場。わりと大きめ。

窓ごしにやもりの指の数かぞへおんなじだよとおどろいてゐる/秋月祐一

9月24日(火)
[演劇]劇団どくんご『誓いはスカーレットθ』大宮公演。野外テントで、ド派手な扮装をした俳優さん達が、さまざまな物語の断片を次々と演じてゆくスタイル。笑いながら観ているうちに、かなり遠いところまで連れてゆかれました。自由さがいいですね。

9月25日(水)
[壁球]スカッシュ教室へ。ラリー(打ち合い)をできるようになるための練習など。

9月26日(木)
[日々]ギックリ腰の前兆のような腰の痛みがあり、夕刻、指圧を受けてきました。このまま治ってくれるとよいのですが…。痛みをまぎらわすために、立原正秋の『残りの雪』を再読しています。

9月27日(金)
[糠床]今日は、アボカドを仕込んでみました。


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【編集後記】

日記にも書きましたが、無印良品のぬかどこ、手間がかからず、おいしいぬか漬けが食べられて、おすすめです(秋)

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「夏と秋」Webマガジン 第12号
2019年9月28日発行
発行人:秋月祐一
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