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溜池を求めて旅する

男は瀬戸内海の某島に旅行で訪れていた。彼は瀬戸内が気候柄、溜池を作ることを思春期に知り得て大学生になった今年ようやく溜池を見ることが叶った。

これが溜池かと頭の中で反芻し、外見は普通の池と変わらずともこの溜池の成り立ちを知っていると感極まっていた。そこへ1人の少女が自転車を漕ぎながらやってきた。

「おじさん見ない顔だね。外の人?」
「おじさんと言われるほど歳は食ってないんだがな。そうだよ、旅行でこの島へ来たんだ。」
「旅行でこの島に来るのも変わってるね。変人てよく言われない?」

「君は名も知らぬ年上に対して少し心遣いを覚えようか。まあ変人は否めないな。俺は瀬戸内地域に見られる溜池が好きでね。名前は裕二だ。」
『裕二さんね。裕二さんは東京の人?」
「そうだな。東京生まれ東京育ちの東京の大学生だ。」
「そうなの。私は聡美。ねえ、東京はとても煌びやかで華やかで素敵な場所なんでしょ?私も高校卒業したら東京の大学に行くんだ。」

聡美は目を輝かせながら未来を語った。

「そっか。俺は東京では見つけられなかった何かをこの島の溜池で発見できた気分になるよ。」
「何かって何?」
「この溜池は瀬戸内の気候柄、雨が降りづらいから人工的に作ったんだろう。先人の知恵というものをこれほど目の当たりにすることは都会では無いからな。無いというよりは分かりづらいと言った方が正しいかもしれない。」

「ふうん、先人の知恵が分かりづらいって言うけど、都会はオシャレなお店や一流企業が存在するじゃない。オシャレなお店で消費するのも一流企業の本社が立ち並ぶのも先人の知恵の結晶じゃないの?」

「そう言えばそうかもしれない。ただ消費とか一流企業とか、そういうものは金銭に結びつくものじゃないか。
それに否定的な意見をもってはいないがどうしてもフィルターがかかってしまう。金銭に結びつかないでただ、先人の知恵を過去から一直線で現代に受け継がれている。
それでいて過去の出来事や先人に思いを馳せやすいのはこの島の溜池ならではと思うよ。」

聡美はどこか納得しない表情をしていた。

「ふうん、やっぱり裕二さんは変な人。」

「はは、女子高生が俺の価値観に共感したらそれはそれで怖いしな。この際変人で構わないな。人間は今不足しているものに憧れを抱くんだろう。聡美ちゃんが都会に生まれていたら田舎に憧れを持っていたかもしれないしな。」

聡美はどこか思い耽った顔をして言葉を並べた。
「そうね。私は田舎の生活しか経験していないから都会に行けば田舎が恋しくなって田舎の良さに気づくかもしれないわ。」

「そうさ、俺も田舎へ行く度に都会の魅力にも気付く。都会の魅力を理解した上で田舎らしい魅力に惹きつけられるんだわ。」

笑いながら話す裕二を見て聡美は笑みが溢れた。
「裕二さん訂正するね。変人というよりは面白い人だね。この島目立つものは無いけど裕二さんの感性で楽しんで。じゃあね。」

聡美は故郷のこの島より一層の愛着が湧いてきてその場を後にした。裕二は溜池とにらめっこしながら満足し都会へ帰るのであった。

※この小説はフィクションですが、溜池に惹かれ、瀬戸内海の島へ行き溜池を見たのは事実です。

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