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【社会現象の解読】大切なお知らせ

授業で使う僕の小さなMacの提示用素材ファイルを見ると、最初のタイムスタンプ(更新日付)が2012年4月です。つまり今年度の授業で足掛け8年間やってきたということになります。
開始当初、前期は女性アイドルグループ、後期はボーカロイドをテーマにしながら、社会学や社会心理学、さらには市場分析や消費行動分析、カルチュラルスタディーズなどなどの理論やその方法論を、いまセカイで起きていることを現在進行形で(これが学問にとって一番ムズカシイのですが)理解する武器として使ってみることを目標として授業展開を試みようとしました。

思い起こすと開始年度のシラバスには「ももクロはどこまでいけるのか」「初音ミクは世界の何を変えたのか」を前期授業・後期授業のそれぞれのテーマとしたと記憶しています。まず前期はももクロさんの躍進の秘密を普及過程論や消費行動論、行動経済学の理論を応用しながら、数理心理学的な分析予測をメインとした授業をしてみようという(結構)お堅い授業を展開する予定でした(あ、そのころ有安さんはまだ大学生ではありませんでした、念のため)。
ところが初回の授業(あの懐かしの11番教室)で、いざ授業をはじめようにも視聴覚機材が動かない。大教室ですからパソコンで教材提示しながらでないと、とても授業の進行は難しい。教務課のスタッフや学科の技術スタッフまで動員してなんとかしようとするのですが、本来は映画観賞用の11番教室の大スクリーンになかなか映像が出てこない。それ以上に音声が出てこない。なにせ600人の大教室です。ひ弱な僕には、とても地声ではむりです。
みなさんの努力でどうにかこうにか僕のちっぽけなMacから映像と音声が出るようになり、スタッフの一人から「何か映像と音声が同時に出るサンプルがあったら流してください」と言われました。なので、その時僕のMacにあった唯一の動画ファイルを流しました。それが、猛烈宇宙交響曲・第七楽章「無限の愛」のMVでした。
大学キャンパスの通常授業時間に大音響大画面で踊り歌うももクロ。しかしそれを見ている学生さんたちの視線はすさまじく真剣でした。単純に喜んでいる、ウケているのではなく、ももクロさんの表現・パフォーマンスを真剣にリスペクトして見ている、そんな姿に見えました。
僕はその時に自分がやるべきことを一つ見つけた気がしました。女性アイドルやボーカロイド界隈の表現やパフォーマンスをできるだけリアルにとらえて、その意味を社会学的に解析しながら、同じく表現やパフォーマンスを専門として学ぶ学生たちと一緒に考える。そういう授業を作り上げてみよう、と。かくして「世界一マジメなアイドルの授業」が始まりました。

思えば、数多くの方々に助けていただきました。いま生じていることを「リアル」にとらえるには、ボカロ界隈やMMDならいくらでも教室に持ち込めるのですが、アイドルはそう簡単にはいかない。MVやライブ映像を見てもその本当の姿は伝わらない。そこで、でんぱ組さんやアリス十番さん、秋葉原のメイドカフェでアイドル活動をしている方々などに授業に参加していただくようになりました。
もちろん授業ですから当初は「ゲストスピーカー」としてお招きし、あれこれお話をうかがったりしていました。ところがあるアイドルグループにお越しいただくことになった時です。「私たち、しゃべれないんです!」と言われました。おっと、これは困りました。でも

「パフォーマンスを見て欲しいです!それが私たちなので!」

と強く言われました。考えてみればそうです。アイドルはしゃべる仕事ではありません。まずはステージです。そこで教室に音響機器を入れて、ライブをすることになりました。

しかしこれも、考えてみれば実はあたりまえのことです。映画の授業なら主要な映画作品を見せて分析します。絵画の授業なら絵画作品を視覚的に提示して授業を進めます。場合によっては現物を見にも行くでしょう。アイドルの授業ですから現物のアイドルを見ながら授業を進める、それは至極当然だとも言えると思います。特に現代のライブアイドルは、ライブ空間あってのものですから、その空間をできるだけ教室で再現するにはお呼びしてライブパフォーマンスを見せていただくのが一番で、(できればその後、教室で物販できれば)より理解が深まるはずです。

かくして、のちにたくさんたくさん参加してくださることになる、あのCovergirlsさんのライブを、授業内で行いました。おそらく日本で初めての通常授業でのアイドル・ライブだと思います。学園祭も含めて毎年毎年Covergirlsさんにはお越しいただきました(同一アイドルグループによる同一大学学園祭への参加連続記録だと思います)。彼女たちもだんだんにしゃべることも慣れてきてくださり、アイドル楽曲の構造を分析したり、振り付けとフォーメーションと歌割りの関係を分析したり、アイドルぶっちゃけトークでは、聞いてはいけないような質問にも真っ向から答えてもらえました。アイドルは「居場所」だというのは彼女たちと見つけ出した、この授業での大きな発見かもしれません。新体制となったCovergirlsさんはいまでは全国レベルのアイドルとして大活躍されていますが、うれしいことです。

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このほかにもスチームガールズさん、BANZAI JAPANのみなさん、めろでぃーリアンさんなどなどにお力を借りました。あのBiSの名曲nerveを作曲したmiifuuさんにはアイドル楽曲の分析でご参加いただいたり、衣装デザインの方々とコラボしていただいたりしました。本学部卒業生として後輩のためにあれこれしてくれて感謝です。同じく卒業生の頃安監督にも自身が作られたアイドル映画の話やアイドルへの想い、pvの話などたくさんしていただきました。感謝感謝です。ツインテール協会の古谷会長にも御登壇いただきました(モデルさん可愛かった)。あらためて御礼申し上げます。

最近のこの授業では、学生のみなさんに本当に「大人気」になったカッコ可愛いアイドルのリーダーともいえるDan te Lionさんにもお世話になりました。3年目を迎えて大きな飛躍が期待されますが、アイドルという枠組みを超えたパフォーマンスができるようになってきたことはすばらしいです。
そして自分たちから事務所をクビにした(!)ともいえるセルフプロデュース・アイドルユニット、むかうところ敵なしのパワフルな幻.no(まぼてん)さん。そのステージの作り方は見事としか言いようがありません。簡単な打ち合わせだけで見事に90分を作り上げる能力は、きっと他にはないと思います。
この二つのグループには、もはやレギュラー講師ではないかというくらい何度も登壇をお願いしました。どちらも企画や制作から実際の現場までをしっかり自分たちで見通せているグループなで、その運営からもステージからもとても勉強させていただきました。学生諸君には申し訳ないのですが、リハを見させていただけるのが僕としてはすごく勉強になりました。そのグループが何を大事にしているのか見えてくるような気がします。

アイドルカレッジ さんもとても印象的でした。もう場数は何度も踏んでいるグループであるはずなのに、それでも本番前最後の一瞬まで確認をし続けるプロ意識は素敵だなと思いました。また楽曲に対する思いの強さもアイカレさんの大きな魅力です。
残念ながら解散してしまったChu☆Oh!Dollyさんのステージもすごかったです。観客席、いえ失礼しました、教室にむけるエネルギーは半端なく、あっというまに何人もの学生をファンにしてゆきました。授業参加の後、学園祭にも来ていただきましたが、その日の夕方解散発表があったときは僕も切なくなって泣きそうでした。
そしてあっとせぶんてぃ〜んさんにも驚かされました。やはりメイドさんとしてのスキルの高さが魅力です。もう何時間でもトークしていたくなるような人たちです。そのあっせぶさん、音楽にもとことんこだわっているところも驚きです。メイド姿&アコギ一本で綺麗なコーラスで歌う姿には眩暈すら覚えました。またあっせぶの故郷、あっとほ〜むカフェからhitomiさんをお招きできたのは本当に本当に嬉しいことでした。hitomiさんのお話から、アイドルやメイドカフェがやっていることが、実は現代のブランディングのキモとなる仕事なのだ、ということも明らかになりました。

しかしこの授業で一番活躍してくださったのは、なんと言っても学生さんであろうと思います。いえ受講生ではございません。何度も何度も僕の無理をかなえてくれました。そうです。ドルクラ☆のみなさんです。
ドルクラ☆さんについてはあらためて書こうと思いますが、歴代のみなみなさまには、常に無茶なことばかりお願いをしました。
なにしろアイドルの主要な武器はダンスです。振り付けとフォーメーションにはそれぞれのグループの個性がとても出るわけです。その多様性や差異をはっきりさせるためとはいえ、一回の授業に5グループ10グループを呼ぶわけにはいきません。ところがドルクラ☆さんは様々なアイドルダンスを(本当に様々すぎてついていけない時もあるくらいに)次々と披露してくださいます。たった1グループであらゆるアイドルグループを網羅することができます。ハロプロと48系を比べるとか、坂道と本家はどう違うとか、キモかわいいとカッコかわいいはどう違うかとか。僕は実に便利にドルクラ☆さんを使いまくりました。本当にありがとう。
のみならずハローウインやってくれとか、ボカロを踊ってくれとか、あげくにはAさんとSさんのコンビのパフォーマンスが見たいなど誰得だか不明なお願いまで聞いてくださって、ただただ感謝です。ありがとう、そしてあれこれごめんなさい。

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というわけで大切なお知らせです

これだけたくさんのみなさんに支えていただきましたが、やはり懐かしのキャンパスのあの600人という「箱」があってこその授業だったかなと思います。現状での300ちょっとしか入らない教室ですと、多くの学生さんにアイドルの生の姿を伝えることは難しくなります。今年1年間やってみましたが、規模を小さくすると来ていただくアイドルさんに申し訳なくなることもあります。

小生もいい歳になりました。こうした挑戦的な授業をやるには、やはり学究的なエネルギーのある方にお任せしていかないといけないかなと思います。今年は学生さんにむけて分析を披露してみても、学生さんからのおおきな反応がなくなってきました。授業開始の頃と大きく違うのは、もはや子供の頃からアイドルがいるのが当たり前、なおかつ身の回りにアイドル活動をしている友人もあたりまえのようにいる、そういう世代になってきたこともあります。いままでの僕のスタンスでは、イマの学生さんにイマのアイドルのリアルを伝えるには少々、切れ味が悪くなったのかなと感じます。
そこで思い切って、この科目そのものを若手の新進気鋭の社会学者にゆずることとしました。彼は彼でさまざまなテーマを持っていると思いますので、まったく違うテーマや角度にはなるかと思いますが刺激的な授業をしてくれると思います。一瞬イケメンにみえますが実は優しいお兄さん、です。授業もうまいし、研究もエネルギッシュです。

僕の方は、いままでお世話になった方にちょっとずつ恩返ししていこうと思います。何ができるのかわからないですが、まずはみなさんのライブにお邪魔させていただき、差し入れしたり、物販できるだけ買わせていただきながら考えていきたいと思っています。
残念ながらドルクラ☆さんの発表の機会が減ってしまいます。これは本当に申し訳なく思っています。年に最低でも2回はお呼びしてきたのに本当にごめんなさい。なんとかしたいと思います!何か考えます!どうか、みなさんもドルクラ☆さんをよろしくお願いします!!!

というわけで、小生は「社会現象の解読」を卒業いたします。長らくのご愛顧、本当にありがとうございました。
一番最後になりましたが、まめさん、わかさん、みさきさん、ねねさん、れいなさんはじめ、歴代shakagen音響ガールズの皆さん、そしてコウジさま、みなさま無しでは何もできませんでした。本当に本当に本当に、ありがとうございました。

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とてもぐうたらな社会学者。芸術系大学にいるがこれでも博士(社会学)。