12週と3日間~稽留流産を経験して④

手術当日。

8時頃に点滴が入った。「この針入れますから、結構痛いです。我慢してください!」とベテラン看護師さんに見せられた針が、かなり太い!そして長い!え!その長さ入れるの!?完全にビビったし、ヒィィとはなったけど、思っていたより痛くなかった。一発で完璧に刺してくれた看護師さん、最高。

昨日の手術の準備からずっと担当してくれてる看護師さんも来て「8時50分頃に迎えに来ますね」と声をかけてくれた。あと45分…。不思議と落ち着いていたら、「ご気分はいかがですか~♪」といつものようにおちゃらけながら旦那さんが到着。いつでも陽気だな。でもその性格に助けられるよ、ほんと。私のベッドは病室の窓側で、青い空が良く見えた。「これなら、赤ちゃん迷わずに帰れるね」なんて言いながら、あっという間に8時50分。

エレベーターの前まで旦那さんが来てくれた。私は点滴を押しながら看護師さんとそのエレベーターで手術室のあるフロアまで行く。
「じゃ、頑張ってね」「うん、行ってくる」とフィストバンプで別れた。

手術室の手前の部屋についたら、9時手術組が4組座って待っていた。「こんな順番待ちするんですね笑」なんて看護師さんと笑って強がっていたけど、内心すごく不安だった。小さい男の子がお母さんに抱っこされてた。子供用のストレッチャーがあって、手術着ばっちりの先生がニコニコ子供に笑いかけていた。こんな小さいのに、大変だなぁ。と思っていたらその先生が私にも笑って話しかけてくれた。ぼーっとしていてなんて言われたのか聞き取れなかったけど、応援してくれているのはわかった。
そうしていると、手術室の方から看護師さんや麻酔科の先生たちが出てきて、「担当する看護師です。」と私に声をかけて、手術室へ案内してくれた。もう、ドラマさながらのバッチリ手術着。格好だけ見たら怖い。でも、スタッフさんたちのその目はとっても優しかった。
手術室の扉が開いた。ものすごく広い部屋だった。細長い手術台がポツンと1つ。その周りにいろんな機材が準備されていた。

看護師さん「お名前と、
      もう一つ確認させてください。
      今日はなんの手術ですか?」
    私「稽留流産の手術です」

”です”と言った途端、また涙がブワァっとあふれてしまった。

来てしまった。今日が来てしまった。
3日前の今頃、こんなことになると、思ってもみなかった。
でももう戻れないし、仕方ない。
ここで赤ちゃんと別れるしかない。

看護師さんが「辛いのにごめんね」と謝って、背中をさすってくれた。
手術前に本人が手術内容を把握しているか、同意しているかという確認があるなんて思ってもいなかったから、急に自分の口から言う形になって実感させられたと同時に、覚悟が決まった。
私はこれから、稽留流産の手術を受ける。

手術台に寝て、ドラマでよく見る上半身のところにカーテンを作ってくれて、髪が出ないようにキャップをかぶせてくれて、「万が一の時のためにね」と酸素マスクをつけてくれた。手足が動かないように固定してくれた。
ザ・手術の準備をしていたら、先生が来た。「おはようございます。痛いことは、麻酔で眠っていることを確認してから始めますから、安心してくださいね」と言ってくれた。そう、私が心配していたのは、全身麻酔が本当に効くのかということ。手術中、眠ったまま記憶がないなんてありえるんだろうか?そんなことを考えながら、赤ちゃんとの別れが近づく実感のせいで、ずっと天井を見て泣いていた。看護師さんが「緊張してきた?」て私の肩をさすってくれて、ずっと私の涙を拭いてくれていた。
残念だ。本当に残念だ。こんな日が来て、本当に残念だ。

「まず、痛み止めの薬を入れていきますね」と点滴から薬を入れてもらっていたら、すぐに「次、麻酔行きますね。眠くなりますから、そのまま眠ってくださいね」と言われた。その瞬間、視界がフワッとした。でも、眺めている天井はまだフワフワしながらも、私はしばらく瞬きしていた。
「すみません、すぐに効かなくて」なんて言っていたら、急に(話すなら今だ)と思った。


「先生、スタッフさん、今日はよろしくお願いします…」


その次に瞬きをしたら、「終わりましたよ!」と言われた。
え?終わった?
ずっと瞬きしてたんですけど。
さっき、お願いしますって言ったとこですけど。
麻酔から覚めたところで、身体はまだ眠っている感覚があったけど、頭だけは大混乱だった。

終わった。
終わったんだって。
終わったんだ。

先生が私の横に来て、優しく声をかけてくれた。
「すごく心配していたんだけれど、子宮の中はきれいにとれましたから、安心してください!頑張りましたね!それと、とれたもの、確認しますか?」

これは初めて外来に来た時から、何度も確認されていた。思っているような面会にはならないと思うけれど、赤ちゃんが出て来たら、会いたいかどうか。私は、どんな形でも会わないと後悔すると思ったから「会います」とお願いしていた。

先生が手のひらにガーゼを二つ折りにして持っていた。
そのガーゼが開いた。真ん中に、5cmほどの赤ちゃんがいた。
私の赤ちゃんだ。3か月間、お腹にいた子だ。よかった。ちゃんと会えた。

最初に目に飛び込んできたのは、肋骨だった。しっかり骨が出来上がっていた。顔にも目がしっかりできていて、小さい手足もあった。人間だ。ちゃんとした人間だ。子宮の中が見えない中行われる手術だったのに、どうしてこんなきれいな姿で出てこれたんだろう。可愛い。会えてよかった。最後に会えてよかった。本当に良かった。
「骨までできてる…すごいですね」と言ったら先生が、「そうですね。ここまで頑張りましたね」と言ってくれた。
この子は生まれてこれなかったけど、こうして生まれてきた。日本語が変だけど、ちゃんと生まれてきた。私に姿を見せてくれた。原因はまだわからないけれど、この子はここが限界だったんだ。限界まで頑張ったなら、それでいいじゃないか。自分の手で抱くことはできなかったけど、会えただけで十分幸せだ。。本当に会えてよかった。こんなきれいな姿で会えると思っていなかった。ありがとう。最高の親孝行だよ。

「ありがとうございました。先生で、本当に良かったです。」
「では、病理検査に行きますね」といって、その子は検査へ行った。
ずっと原因が気になっていた。この子の染色体異常で仕方のないことだったのか、それとも私が悪いのか。でもそんなこともういいやと思った。

このあと、まっすぐ検査へ行ったわけではなく、先生は赤ちゃんを連れて、旦那さんに説明に行っていた。旦那さんも赤ちゃんに会わせてくれていた。
旦那さんはさらに胎盤やら何やら全部確認できたらしい。私も見たかったなぁと思ったけど、旦那さんがこんなんだったよ、と言葉で説明してくれた。本当に最初から最後まで、私と一緒に流産を体験してくれて、ありがとう。あなたがいてくれるから、早く立ち直れそうだよ、私は。

赤ちゃんと別れたあと、急にまたフワフワした感覚に戻った。
「隣のストレッチャーに動ける?」と看護師さんに言われたけど、答えられなかった。「大丈夫、こっちでやるね」と言ってくれて、手術台からストレッチャーに「せーのっ」で移してくれた。ぼーっとしながら頭では「うわぁ、医療ドラマでみるやつじゃん」と思った。至れり尽くせり…とは違うか。

手術室の前で旦那さんが待ってくれていた。「旦那さん、横にいてくれてますからね!」と先生がストレッチャーを押しながら教えてくれたけど、これも答えられなかった。ごめんよ旦那さん(笑)

病室へ戻る途中、先生が話しかけてくれた。
「眠っているのを確認してから処置を始めたんですけれど…。夢見てるような感じでしたか?大丈夫でしたか?」
もちろん私は術中の記憶がまったくないのだけれど、ずっと涙を流していたらしく、もしかしたらちゃんと麻酔が効いていなかったのかもと心配してくれていたらしい。
先生にお願いします…って言ったら、手術が終わっていて、拍子抜けしたことを答えた。「そうですか。それを聞けて安心しました。」と先生が言った。手術する方も辛いんだろうな、と思った。でも、先生は母体を助けるために、また次のステップへ進むために、私を助けてくれた。私は先生に心から感謝しています。


手術室から戻ったら、3時間の絶対安静。
「頑張ったね」と旦那さんがずっと手を握ってくれていた。
お腹の子はいなくなった。でも不思議と寂しくなかった。
終わっちゃったな、残念だったな…とは思うけど、この人と生きていたらきっと大丈夫だと、窓から見える青空を見て思った。大丈夫だ、きっと。また前を向いて生きていける。一蓮托生だもんね、私達。

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