見出し画像

ポスター制作力向上道場

◆大島依提亜さんを検索

大島 最近は忙しくてなかなか映画館に行けないんだけれど、行った時は、隅から隅ま
で気になるチラシをバーっと一気に抜いていきます。そうやってごっそり持ち帰る。で
も、それはとっておくためではないんです。というのは、映画のチラシって、「何とな
く気になって手に取った」という“瞬間の動機づけ”が重要だと思っているので。それが「
何でなのか?」という。

大島 僕は、デザイン的に優れているか、という観点ではあまり見てないんです。見知
った監督や俳優の作品でも、「なんか、これまでと違う」と思うことってあるじゃない
ですか。そのように、デザインとは違うインパクトがどこかにあると、気になって手に
取ってしまいます。

大島 そういうことで言うと、海外作品のビジュアルを手がける際、日本人の中におそ
らく潜在的にある、「洋画文化への憧れ」を意識的に引き出す時があります。

大島 そうやって、日本人の頭の中に潜在的にある「洋画への期待」をデザインに込め
たり、あとは、ファンの「監督への期待」を込めたりすることもあります。例えば、僕
はアキ・カウリスマキ監督の映画を、『過去のない男』(2002)から『街のあかり』
(2006)、『希望のかなた』(2017)と、ポスターデザインを続けて手がけているん
ですけど、ファンがカウリスマキ監督作品に抱いている期待というのがあると感じて
いて。

大島 今回、ビジュアル素材は海外でポスター撮りされたものをそのまま使っています
が、タイトルの書体は海外版から大きく変えました。海外版は、もっとオーソドックス
な明朝体だったんですが、前作の『たかが世界の終わり』の雰囲気に少し寄せたアプロ
ーチにしています。

-『たかが世界の終わり』のポスターには、黄色い手書きの書体で“It’s only the 
end of the world”とレイアウトされていますね。『ジョン・F・ドノヴァンの死と
生』も、手書きのロゴが印象的です。

大島 手書きの書体にしたのはもうひとつ大きな理由があって、映画のストーリーと重
ねているからです。今作は、英国に住む11歳の少年と、NYに住むひとりの映画スター
の間で交わされる“秘密の文通”を通して、様々な人間ドラマが描かれ、“手紙”が重要
なモチーフになっています。

-映画スターのドノヴァンが少年ルパートに送る手紙には、緑のインク文字が使われて
います。これをモチーフにした手書きの書体が、ポスターやパンフレットの表紙にデザ
インされたんですね。文字がところどころ滲んでいるのも、大島さんのアイデアですか
?

大島入稿直前に、急遽思いついたアイデアなんです。実は途中まで普通の手書き文字だ
ったんですけど、ある登場人物が手紙を読むシーンで、便箋の文字の上に涙がこぼれた
ことをふいに思い出して、「これを入れよう!」と。インクが滲んだかどうかは、作品
内ではわからないんですけどね。

大島 あ、僕は普段からデジタル加工というのは極力やりたくないというのがあって。
ボカす時も、デジタル加工せず、写真で撮ってわざわざピンぼけさせたりとか…。

大島 例えば、写真の上に文字を載せる時、読みやすくするために“座布団”といって文
字の背面にボカシのような素材を敷く加工方法があるんですけど、あれも絶対やりたく
ない。

-「絶対にやりたくない」のは、なぜですか?

大島 偶然性を大事にしたいんです。作為的になりすぎてしまいたくない。今は映画も
デジタル撮影が増えましたけど、基本的にはフィルムで撮られるものですよね。だから
、アナログ感をなるべく大切にしたくて、よほどの理由がない限り安直にデジタル加工
はしたくないんです。デジタル加工が上手な人だと、アナログ感が出るように巧妙にも
できると思うんですけど。

-作為的と偶然性…それは、デザインだけでなく、どんな創作にも繋がることですね。
大島さんは、宣伝物という、広く開かれたものをデザインされる時に、「個人的に込め
たい想い」と「客観性」の兼ね合いというのは、どうやってバランスを保っているので
しょうか?

大島 ああ…なるほど…。多分、僕は信じているんだと思います。

-信じている?

大島 僕は、その“映画らしさ”が出ていることが一番理想的だと思っていて、あくまで
も、その映画にフィットしたデザインなのかどうか、ということだけを考えているんで
す。そういう感覚は、もしかしたら映画が好きだから出てくるのかもしれないし、自分
のその直感を信じているんだと思います。

-大勢の人との創作が苦手だったんですか。

大島本当にだめなんですよ、僕、人と意思の疎通を取るのが(笑)。あと僕は、劇映画
を撮りたくて入学したんですけど、実際に入ってみたら、その当時は講師陣や周りの学
生も筋金入りの実験映画志向、ストーリーよりも純粋な映像表現としての可能性を探る
ための作品が求められる環境だったんです。だから、ドラマ性のある作品を撮りたいの
は僕一人で、映画って組織で撮らないといけないのに孤立するという(笑)。

-わかりやすいのに、オリジナリティがある。

大島流麗というよりは、いろんなものが混在している“いびつさ”がある。僕は、そうい
う表現が好きなんですよ。

-檜垣紀六さんは、『時計じかけのオレンジ』(1971)や『ランボー』(1982)など
数々の映画ポスターをデザインしてきた伝説のデザイナーですね。

大島 はい。檜垣さんが手がける描き文字が好きで。あと、『ロードショー特別編集 
チラシの本』や『少年マガジン特別別冊 実物大 ’80映画チラシ全集』といった当時の
ムック本を、今でも資料として結構観るんです。

-絵コンテを切ったカタログとは?

大島冊子の真ん中に手紙を仕掛けとして仕込み、表紙と裏表紙のそれぞれから二人のモ
デルさんを見せていって、順番にページを進めていく。そして冊子の真ん中でぶつかっ
た時に、二人が手紙を受け取る、というストーリー性のあるカタログです。

表紙と裏表紙、両方向から見せていくことで雰囲気の違う洋服も紹介できるし、なかな
かいいじゃんと思ったんですが、それをカメラマンの方に提案したら「ファッションフ
ォトは現場の雰囲気で流れを作っていくことが大切で、あらかじめ用意されたストーリ
ーに沿って映画のように写真を撮っていくのは違うと思う」と言われたんです。

-焦点を当てるべきところが違うと。

大島その時にはたと気づいて。自分の仕事と「映画」は全く別物だと自分でもわかって
いながら、僕はいつもデザインの中に、映像的な表現やストーリーなど、映画的なエッ
センスを込めようとしていたんだと。それ以降、映画のパンフレットをつくる時も、動
くとか映像的とか、そういう視点だけではだめなんだと思うようになりました。

-それは大きなターニングポイントですね。

大島でも、自分が“映画脳”であることが、映画以外のデザインの仕事に橋渡しされる、
ギフトみたいな瞬間もあるんです。例えば、小説の装丁を手がける際、普通は扉を開け
てすぐにタイトルが入るところを、あえて第1章が終わった時にタイトルを挟むのはど
うだろう、とか。

大島 そう言ってもらえるのは、とても嬉しいです。ですが、やはり僕の仕事は映画本
編に属するものではなく、その断絶があるからこそ、橋渡しの役割が担えるのかもしれ
ません。

◆次にやること

・他の参考文献を読む。いかに参考文献を示す。

●参考文献
【単独インタビュー】グラフィック・デザイナー大島依提亜が語る映画ポスターとパンフレットへの思い
映画ポスターを作るモチベーション。大島依提亜が開く可能性
デザインという摩訶不思議。
ポスター一覧
デザイナー大島依提亜を特集、映画パンフ専門冊子の創刊号が明日発売
映画ポスター&パンフ好き必見! 大島依提亜×気鋭の韓国デザイン会社「Propaganda」チェ・ジウンがデザインを語る
『PATU MOOK』で、グラフィックデザイナー大島依提亜さんとのお仕事について語りました!
BRUTUS 関連記事
グラフィックデザイナー・大島依提亜と探る、絵本作家・石黒亜矢子のルーツ 【プロフェッショナルストーリーズ Vol.11】
大島依提亜×ロッキン・ジェリービーンが手がける『デッド・ドント・ダイ』のビジュアルが公開
【CSA 2nd 特別審査員】アートディレクター/グラフィックデザイナー 大島 依提亜さんを密着取材しました!(表彰式編)
【今夏公開】グラフィックデザイナー大島依提亜さんと語り合うウディ・アレン映画の魅力。
PATU MOOK 創刊号「大島依提亜と映画パンフ」
岡田秀則×大島依提亜、新刊書籍「映画ポスターの歴史」掲載ポスターの魅力を語る
大島依提亜さんに聞きました!『今日の人生』の秘密など
「おらおらでひとりいぐも」大島依提亜がディレクションしたポスター公開
絵本『九つの星』トーク 石黒亜矢子×大島依提亜×辻山良雄(Title)
第198回審査 大島依提亜さんの審査
すてき!ウディ・アレン新作ポスター、木内達朗&大島依提亜がタッグ
木内達朗描き下ろし&大島依提亜デザイン『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』日本オリジナルイラストポスター完成!!
知られざる映画タイトルデザインの世界
映画ファンよ集まれ!「時代と作品で読み解く映画ポスターの歴史」先行発売記念 岡田秀則さん×大島依提亜さんトークショー開催
Twitter
第5回 大事なことを伝えるために、神聖な気持ちで紙を選ぶ。(2021年02月07日 追加)
【第3刷】PATU MOOK 創刊号「大島依提亜と映画パンフ」(2021年02月08日 追加)
「大島依提亜と映画パンフ」の創刊記念イベント(2021年02月08日 追加)

・Twitterで関連する情報を探す。(映画ポスターの話よりになりそうだな…まあ、とりあえず、映画ポスターの世界をのぞいてみよう。)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?