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【SS】何度も出すよって

ショッピングモールの中にある映画館で待ち合わせた。

アプリでは、明度の低い目元のみの写真だったからちょっと地雷かなぁとは思いつつ、提案された映画が見たかったものだったので誘いに乗った。

実物は、プロフィール写真よりも爽やかだった。プロフィール写真の撮り方が悪い、逆詐欺の典型的例。「アプリ始めたばっかりで、本当に会えるんだねこういうの」と言われて、逆にこの日の流れが心配になる。

レイトショーを見て、23時すぎ。これからどうする?となった時に、「何も考えていない」と言われて、「は?」と思うよりも先に、「やっぱりな……」と思ってしまった。

そちらがここまで来いと言うから亀有までわざわざ足を運んだというのに、レイトショー見て終電が間に合うわけがないと1mmも予想しなかったのだろうか。当たり前に釣れる餌としてのこのことやって来てあげたのに、実に腹立たしい。

「家は?」と単純に聞いてみる。そんなパスを与えてみてもどうせ無駄だろうと察しはついていた。「ルームシェアしてて、同居人がいるから」と言うので、「彼女?」と聞くと、「男、男。」と大きく首を振っていた。だろうな。レイトショーを見ようと誘っていて次の展開を考えていないなんて、女がいるわけがない。必死で否定などしても、そこには興味ない。

ゆくあてもなくしばらく歩かされた。「カラオケは?」と提案されるが、カラオケみたいな狭い場所に横になりたくもないし、セックスもしにくい。「カラオケ苦手なんだよなぁ」と歌う意味でない方で解釈してくれと心で頼みながらそう答えて、本当にホテルに行く気はないのか試していく。

歩いていたら川に着いた。「ねー!ここ歩こうよ」と言われて、叢がたくさんある細い川までの通路を見て、最悪……と思う。こんな虫も多いところ歩きたいわけがない。早くベッドに寝そべりたい。夜中に川で佇むなんて青春ごっこみたいなこと、さすがに中学生くらいで卒業してるからやめてくれ。

「ごめん、サンダルが痛い」と言ってそろそろ察してもらう。さすがにこれ以上深夜あてもなく歩かせるのはやめてほしいし、どうにかしてほしい。「どこかで休みたい」と言っても話が通じないので、「眠たい」と直球を投げつけた。

ラブホがなかなか見つからず、ビジネスホテルか民宿かわからない小さな宿泊施設にたどり着く。とりあえず、助かった。わたしは難民かよ。

こんなにラブホテルがないことも、こんなにラブホテルを考えていない男がいることも想定していなかった。今まで直ホしてくれた男がなんと有難いことかと手を合わせたくなる。

シャワーを浴びて、脚の疲れが癒されていく。温まった身体で布団の中に潜るとすぐに寝てしまいそうだった。男は、「明日6時から仕事だし、起きれなさそうだから寝るのはやめておく」と言う。あっそ、と思ってわたしは布団から顔を出し、すやすやと眠る姿勢をとった。

しばらく時間が経つと、男が布団の中に入ってきた。シャワーを浴びたようだが、服は着ていたもののままだったので些か不快だった。

コンドームはあるの?ないの?と聞いて、買ってきたと言っている。そこはちゃんとしてるのかよかったと思いながらも、少しでもその可能性を考えていたのだったらレイトショーに誘った女をどう誘導するか事前に考えとけとイライラした。

変な男だった。「イクよイクよ」と言うので、「うん」「イッて」と返すが、ピストンを早めては止めて、「イクよ」と言うのを何度も繰り返した。「え?イッたの?」と聞くと、「うん」とは答えながら抜こうとせず、またピストンを早めて「イク、イク」と言い出す。

あれか、抜かずの何発かできる人なのかと思って、すごいなぁと思いながらも朝5時くらいに先に出ていった男がゴミ箱に残したコンドームを摘んでみると、白いものは何も入ってなかった。


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