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「探偵倶楽部」第1話(創作大賞2023 ミステリー小説部門応募作品)

鏡琥珀かがみこはくは、趣味のミステリー好きが高じて、あらゆる謎を好む者が集う掲示板「探偵倶楽部たんていくらぶ」を立ち上げる。
そこでsnsで他人の相談に乗るおせっかいアカウント「メローペ」の存在を知り、巷でおこる女性失踪事件との関連性を疑い、調べることに。失踪した女性の中には、掲示板で知り合った新渡戸茉莉にとべまりの同級生もいるという。茉莉の協力も経て、メローペとの接触を果たした琥珀だが、なんと連れて行かれたのは、電波も通じない山奥の、怪しげな施設だった。そこで待っていたのは怪しげな白装束の男スバル。「この世は間違っている、そう思いませんか」スバルの持つ不思議な魅力に引き込まれそうになる琥珀。その施設とは一体……?

あらすじ

プロローグ

 自分は警官になるのだと思っていた。

 悪を取り締まる正義の光に憧れた身として、その職を目指すことは至極自然なことで、あえて逆らうまでもないと、そう思っていた。  

 しかし、人生、どうしても叶わないこともあるわけで、それが自分にとっては、幸か不幸か、警官になることだったらしい。


—Mary
ロゼさん、ロゼさん今若者の間で人気の「メローペ」ってご存知ですか

ーミチ
学校で、女子が話してた気がする 

ーMary
ミチオには聞いてない

-3時はおやつの時間
www

ーミチ
掲示板は、誰もが自由に発言できる場所だかんな?

-3時はおやつの時間
ちな、メローペって何?

—Mary
snsのアカウントらしいです。本当にどんな相談にも乗ってくれるとかで。あるインフルエンサーがメローペに相談に乗ってもらって、悩みが解決したって言って、話題になったんです

-3時はおやつの時間
へぇ。どんな相談にも、か。これは、オレになぜ彼女ができないのか聞くべきだな

ーミチ
それは、悩みではなくだる絡みでは?

-3時はおやつの時間
ぴえん

—Mary
恋愛相談で使う人が多いらしいので、あながち3時さんの使い方も間違ってないと思いますよ

—Mary
でも私「メローペ 」のこと、いまいち好意的に受け止められないんですよね。少し気持ち悪いなって

ー3時はおやつの時間
というと?

—Mary
一体、なんのために相談にのってるんですかね

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

「終わった…」

 ドライアイと、片頭痛で死にそうになりながら

鏡琥珀かがみこはくは、たった今書き上げた原稿を、担当編集に送った。

 ビュンと、紙飛行機マークが飛んだのを見送ると、緊張の糸が解けたように、机に突っ伏す。琥珀こはくは、今が何時なのかも分からず、閉じた瞼の裏で、最後にいつ食べ物を口にしたのか思いを巡らせた。何も思い出せないということは食べてないのかもしれない、その事実に気がつくと急にお腹が空いてきたようなきがして、だるい半身を起こして、のろのろと台所に向かった。

 買いだめておいたカップラーメンを手に取ると、ピリリと袋を開けて、開けたカップの中に冷蔵庫から取り出した卵を落とし、湯をケトルにセットした。

 一人暮らしをするということは、何もしなくても決まった時間に食事が用意されなくなるということで、琥珀こはくはせめて食べたいと思った時にすぐ食にありつけるようインスタント商品を溜め込んでいた。

 卵を追加したのは、少しでも栄養素を上げるためだ。これは、以前、ネットの知り合いに食を心配され、自分ができる範囲での改善策ということでとられるようになった措置だった。

 湯を注ぎ、3分を待つ間、琥珀こはくは電源を切っていた自身のスマートフォンを起動した。

 金曜日の12時半。無論、夜の方である。

 起動した途端、鬼のように表示される通知。

 琥珀こはくは思わず眉を顰めた。

 案の定、それは個人的な連絡ではなく、掲示板の通知だった。

 アプリを開き、グループを見る。

__探偵倶楽部たんていくらぶ

 これは、琥珀こはくが3年前に趣味で作った掲示板上のグループ名だった。謎や不可解な出来事に関する情報を交換し、解決することを主旨に立ち上げた掲示板グループ。初めは、数人集まればいい、そんなふうに考えていたグループだったのだが、思いの外、需要があったのか、今では99人ほどメンバーがいる。掲示板には、フリートークができる場と、内容ごとにスレッドを立てて会話ができる場所の二つがある。99人もいれば、フリートークは一見成り立たないように思えるが、同接は5,6人程度で、よく発言するメンバーも固定されているので、とくにコミュニケーションに困るということはない。

 今日もいつもの数人が、フリートークで発言をしていた。

 そのなかに、自分に語りかけたメッセージを見つける。琥珀こはくは話の展開を知るべく、画面をスクロールしていった。

「メローペって、なんだ?」

 自分しかいない室内に、やけに大きく独り言が響く。無論その問いに答えてくれるものは生身にはおらず、琥珀こはくは黙々と画面をスクロールした。

(メローペといえば、俺には、おうし座を構成する六連星のうちの一つしか思い浮かばないが……)

 そして、カップラーメンを食べ始める頃には、その概要がつかめた。

 Maryによると、メローペとはネット上で、悩みを抱えた人の相談に乗る「お人好しアカウント」らしい。なぜ無償で世話を焼きたがるのか、真意が分からず、気味が悪いと、彼女は思っているらしい。

 一体、どんなアカウントなんだ?

 琥珀こはくは興味本位で、snsを開くと、「メローペ」というアカウント名を検索した。

 しかし、無数のアカウントが表示され、一体どれが例のアカウントなのか琥珀こはくには検討がつかなかった。

「やめた」

 いちいちプロフィールを見ても、分かるわけがない。何より、今は1週間ほど自宅に缶詰状態で、ずぅーっと、パソコンと向き合っていたのだ。ちまちました、画面に目を凝らしていると、頭がガンガンしてくる。

 もう寝よう。

 琥珀こはくは、リビングに置かれたソファに身を預けると、すぐに意識を手放した。



第2話:https://note.com/natsumegu0_0/n/n7ed46e8b546c
第3話:https://note.com/natsumegu0_0/n/n386d5b3f1a4a
第4話:https://note.com/natsumegu0_0/n/ncee67c1d45a5
第5話:https://note.com/natsumegu0_0/n/nf621f730ce5b
第6話:https://note.com/natsumegu0_0/n/n8e7339afb49d


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