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伝統職“金彩”とそれを生業とした私達。

母娘二人で立ち上げた工房

私の母は若い頃、友禅の工房で働いていました。当時は仕事もたくさんあって、反物を家に持ち帰って作業することもあり、私はその作業風景を見て育ちました。後に母は金彩工房に移り、その工房で長年雇われの職人として勤めておりました。しかし不景気や着物離れの波、さらに困ったことに当時母が勤めていた金彩工房での作業量に見合わない低い賃金。どんなに数をこなしても職人がまともな給料をいただけることはありませんでした。幸いにも私の父は企業勤めのサラリーマンでしたので家族が食べることに困ったなんてことはありませんでしたが、技術もありこの仕事を天職のように思っている母を何とかしてあげたい。この先いつか「私の職人人生最高だった!」と思ってほしい。そんな思いから、随分と遅くなりましたが私は勤めていたアパレルメーカーを退職し、母と共にたった二人で「金彩 上田」を立ち上げ、同時に私も職人となりました。しかし組合にも属さず右も左も分からず、頼る人もいない。そして何よりここは京都。老舗だらけのこの土地で新参者が入る隙は無いに等しく、仕事がなく苛立ちしょっちゅう母と大きなケンカをしていた時期もありました。今でも相変わらず細々ではありますが、母の技術を高く評価してくださる企業様からお仕事をいただいたり、私も常に誰かとコラボしたりと、自分たちなりに少しづつ金彩上田を育てています。

金彩って?

金彩とは金や銀の箔、金属粉等を接着加工する技術を言います。技法もたくさんあり、一つの着物にたくさんの技法が詰め込まれることも珍しくありません。古くは安土桃山時代から存在していたと言われている金彩ですが、現在では当時に比べ箔の色数や種類も昔とは比べ物にならないほど増えており、表現できる内容も変化してきました。古くから伝わる技法と新たな材料などにより、実は今も金彩は進化しているのです。
【金彩技法一部 ↓】
★糸目箔技法 ⇒ 糊で筒描きをし、その上に箔を貼り付けて金線を表現する方法です。箔の光沢により筒描きした線が美しく光ります。
★砂子技法 ⇒ その名の通り箔を竹筒に入れ砂子状にして振り落とすので「振り金」とも呼びます。
★押し箔技法 ⇒ 「ベタ箔」と呼ばれ加工する部分全体に箔や砂子を施します。
★摺箔技法 ⇒ 「型押し」や「小紋押し」とも呼ばれ、桃山時代から江戸前期にかけて多くの衣裳がこの技法でつくられたという、最も古い歴史があります。
★たたき技法 ⇒ 砂子よりも粗く、迫力ある仕上がりになるのが特徴です。刷毛などでたたくように施します。
★盛り上げ技法 ⇒ 刺繍のように盛り上がりのある立体感を表現する方法です。

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職人の現状

金彩に限らず、伝統職を続けて行く中で、うまく時代の流れの舵取りができなかった職人は高い技術を持ちながらも廃業するしかなかったり、前にも後ろにも身動きが取れない者は貯金を切り崩したり年金を頼りに生活をしながら僅かな仕事をこなしています。これでは後継者を育てるどころか自分達の明日をも危うい状態です。職人一本で何十年も生きてきた先輩方の中には「営業なんてしたことない」「デザインなんてしてみようと思ったことすらない」「これしか知らないから」「新しいことなんて」「SNSってなんだ?」と思っている職人が山のようにいて、その大半が60代オーバー。これではたくさんの素晴らしい技術が彼らの代で途絶えてしまう・・・これが現状です。

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新しい波

金彩上田としても上田奈津子個人としても今までたくさんの方々や企業とコラボレーションをさせていただきました。

そしてまた新たに2019年冬より株式会社DODICI様が展開されているブランド、“renacnatta”とのコラボレーションがスタートしました。“renacnatta”は「文化を纏う」をコンセプトにイタリアのデッドストックシルクと日本の素材を組み合わせた巻きスカートをメインに展開されているブランドです。そしてこのブランドの新しいアイテムとしてイタリアンシルク×金彩のイヤアクセサリーが誕生しました。

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ファッションと流行に敏感な女性達が、金彩が施されたアイテムを手に取ってくれること、そしてそれを気軽に日常に取り入れてくれることが今は本当に嬉しく、この取り組みこそが私の大きな一歩となっていることは間違いなく、更には金彩としての可能性を今まで以上に引き出せているのではないかと感じています。

次世代のための金彩

金彩を始めた頃は「母に幸せな職人人生を歩んでほしい」ただただそれだけを願っていました。しかし仕事を続けるうちに「自分たちの金彩を途絶えさせたくない!」「若い職人を育てたい!」と気持ちにも大きな変化が現れました。それにはもっともっと金彩職人の地位向上を目指す必要があります。この仕事には可能性と未来が見える!そんなふうに思えなければいくら金彩に興味があってもそれを生業にしたくても、その一歩を踏み出すことは難しいでしょう。まずは私自身が若者達の受け皿になれるまで成長しなければいけません。そのために引き続きコラボのお仕事、更には現在自身のブランドづくりを計画しています。伝統の金彩から“今を生きる金彩”への成長をたくさんの方々にご覧いただけるよう前進していきます!

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