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対角化の幾何的な意味

今回は行列の対角化の幾何的な意味について自分なりにまとめてみたので書き残しておこうと思います.
とは言え,よくされている説明とほぼほぼ変わらないと思いますのでご了承ください.

この記事では簡単のためにベクトル空間として$${\mathbb{R}^n}$$(特に$${\mathbb{R}^2}$$)を考えることにします.

基底の変換

$${\R^2}$$をベクトル空間として見るとき,我々は(特に高校数学なんかでは)標準的な正規直交基底(標準基底)

$$
\bm{e}_1 = \begin{bmatrix}
1\\
0
\end{bmatrix}, \quad 
\bm{e}_2 = \begin{bmatrix}
0\\
1
\end{bmatrix}
$$

を基底に取って空間を認識していると思います.しかし基底の選び方はこれだけではありません.$${\R^2}$$で考えれば平行でない2つのベクトルは基底になります.

ではここで問題なのは,標準基底から別の基底に取り替えたときにベクトルの成分はどのように変わるのかということです.

まず前提として認識してもらいたいのは,ベクトルそのものは基底の取り方に依らずに存在していて,基底を取ることでそのベクトルのその基底における成分がわかるということです.

下の図1で具体的に説明します.
赤の矢印で表したベクトルは標準基底で考えると$${\bm{e}_1 + 3\bm{e}_2}$$と表せるので成分表示は

$$
\begin{bmatrix}
1\\
3
\end{bmatrix}
$$

です.ここで

$$
\bm{v}_1 = \begin{bmatrix}
2\\
1
\end{bmatrix},\quad \bm{v}_2 = \begin{bmatrix}
-1\\
2
\end{bmatrix}
$$

とすると,$${\bm{v}_1,\bm{v}_2}$$は$${\R^2}$$の基底で,$${\bm{v}_1+\bm{v}_2}$$と表せるのでこの基底での成分表示は

$$
\begin{bmatrix}
1\\
1
\end{bmatrix}
$$

となります.このようにベクトル自体は同じものを見ていても,基底の取り方でその成分表示は変わるわけです.

図1. 基底の変換に伴って成分表示が変わる様子

基底の変換に伴う成分表示の変化

では基底を変えたときにどのような規則で成分が変わるのか見ていきましょう.標準基底から$${\bm{v}_1,\bm{v_2}}$$に基底を変えることを考えます.ただし議論を一般化するために,この$${\bm{v}_1,\bm{v_2}}$$は先ほどのものではなく,

$$
\bm{v}_1 = \begin{bmatrix}
v_{11}\\
v_{21}
\end{bmatrix},\quad \bm{v}_2 = \begin{bmatrix}
v_{12}\\
v_{22}
\end{bmatrix}
$$

であるとします.

あるベクトル$${\bm{u}}$$が

$$
\bm{u} = a\bm{e}_1 + b\bm{e}_2 = c\bm{v}_1 + d\bm{v}_2
$$

とそれぞれの基底で表されているとすると

$$
\begin{align*}
a\bm{e}_1 + b\bm{e}_2 &= c \begin{bmatrix}
v_{11}\\
v_{21}
\end{bmatrix} + d \begin{bmatrix}
v_{12}\\
v_{22}
\end{bmatrix}\\
&= \begin{bmatrix}
cv_{11} + dv_{12}\\
cv_{21} + dv_{22}
\end{bmatrix}\\
&= (cv_{11} + dv_{12})\bm{e}_1 + (cv_{21} + dv_{22})\bm{e}_2
\end{align*}
$$

となるので係数を比較して

$$
a = cv_{11} + dv_{12}, \quad b = cv_{21} + dv_{22}
$$

であることがわかります.ここでこれを行列の形で表記すると

$$
\begin{bmatrix}
a\\
b
\end{bmatrix} = \begin{bmatrix}
cv_{11} + dv_{12}\\
cv_{21} + dv_{22}
\end{bmatrix} = \begin{bmatrix}
v_{11} & v_{12}\\
v_{21} & v_{22}
\end{bmatrix}\begin{bmatrix}
c\\
d
\end{bmatrix} = P\begin{bmatrix}
c\\
d
\end{bmatrix}
$$

とかけます.ここで

$$
P =  \begin{bmatrix}
v_{11} & v_{12}\\
v_{21} & v_{22}
\end{bmatrix}
$$

とおいています.やっとこれで目標にしていたものが求まりました.すなわち標準基底から$${\bm{v}_1,\bm{v_2}}$$に基底を変えると,成分表示は$${P^{-1}}$$をかけたものになるというわけです.ここで$${P}$$は基底のベクトルを並べた行列$${P = [\bm{v}_1  \bm{v}_2]}$$で,基底の変換行列と呼ばれます.

$$
\begin{CD}
[標準基底での表示] @>{P^{-1}\times}>> [(\bm{v}_1, \bm{v}_2)での表示]\\
@|                                                               @|\\
[標準基底での表示] @<<{P\times}< [(\bm{v}_1, \bm{v}_2)での表示]
\end{CD}
$$

(注)$${P}$$の逆行列$${P^{-1}}$$が存在することは,$${\bm{v}_1,\bm{v}_2}$$が一次独立であることから従います.

また,$${\R^n}$$でも同じことが同様に言えます.つまり,$${\R^n}$$の標準基底$${(\bm{e}_1, \cdots, \bm{e}_n)}$$から別の基底$${(\bm{v}_1, \cdots, \bm{v}_n)}$$へ基底を変えたとき,基底の変換行列は$${P = [\bm{v}_1 \cdots \bm{v}_n]}$$で,ベクトルの表示は$${P}$$や$${P^{-1}}$$をかけることで得られます.

対角化と基底の変換

本題の対角化に入ります.対角化とはどのような操作だったのか振り返りましょう.

定義
$${n}$$次正方行列$${A}$$は,$${P^{-1}AP}$$が対角行列となるような正則行列$${P}$$が存在するとき,対角化可能であるという.

そして対角化可能な正方行列$${A}$$に対して,上のような正則行列$${P}$$は$${A}$$の固有ベクトルから求めることができるのでした.

つまり,対角化可能な$${n}$$次正方行列$${A}$$の$${n}$$個の固有値$${\lambda_i\, (1 \leq i \leq n)}$$に対応する固有ベクトルを$${\bm{v}_{i}\, (1 \leq i \leq n)}$$として,$${P = [\bm{v}_1 \cdots \bm{v}_n]}$$とすれば

$$
P^{-1}AP = \begin{bmatrix} \lambda_{1} \\
& \lambda_{2} & & \text{\huge{0}} \\
& & \ddots \\
& \text{\huge{0}} & & \ddots \\
& & & & \lambda_{n}
\end{bmatrix}
$$

と対角化できるのでした.

(注)ここでは分かりやすさのために実対角化可能な行列を考えることにします.すなわち,上の固有値は全て実数で,固有ベクトルも実数を成分に持つベクトルであるとします.

ここでこの$${P^{-1}AP}$$の意味を考えてみます.
$${A}$$が

$$
\begin{CD}
[標準基底での表示]\\
@V{A\times}VV\\
[標準基底での表示]
\end{CD}
$$

であるのに対して$${P^{-1}AP}$$は

$$
\begin{CD}
[(\bm{v}_1, \cdots, \bm{v}_n)での表示]\\
@V{P\times}VV\\
[標準基底での表示]\\
@V{A\times}VV\\
[標準基底での表示]\\
@V{P^{-1}\times}VV\\
[(\bm{v}_1, \cdots, \bm{v}_n)での表示]
\end{CD}
$$

であると考えることができます.

つまり対角化とは$${A}$$を掛け算する定義域側と値域側の基底を"うまい基底"に取り替えることで,$${A}$$を対角行列とみなすという操作だと思うことができます.さらに,そのときの"うまい基底"が固有ベクトルからなる基底だということになります.


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