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【小説】 紅茶

ホットティーを飲みたくなったら秋だと、勝手に思い込んでいる節がある。
引き出しの中に仕舞われていたティーパックを取り出し、コップにセットするだけで気分は浮かれる。まだ序の口なのに、勝手に頭の中でレコードをセットして音楽を流してしまったりして。
ケトルのお湯が沸いた合図がしたら、そっとコップへお湯を注ぐ。
部屋いっぱいに広がったアールグレイの香りが豊かで、秋めいている。
やはり初めの紅茶はアールグレイでないと。
これから徐々にアップルやはちみつ系の甘いものを試して、最後は睡眠効果のあるハーブティーにまで手を伸ばしていきたい。
なんて妄想をしながら、ケトルを置いてカップを回す。
紅茶パックを取り出して、ティースプーンでまた回す。
回って回って、途中で入れた角砂糖も紅茶と混ざって回ってく。
そうして混ざった紅茶を一口、口に含む。
熱い!と叫び出さないでいいような暑さを目安にカップを持って確認したから大丈夫。
のはずだった。
結果は失敗だ。相変わらず「あつっ」と独り言を漏らしながら紅茶を飲んだ。時計の針が22時を指した。
湿度のせいで熱い室内と、涼しい夜風が窓から入って混ざり合って、心地いい。ゆらりとはためく湯気の色も、漂う紅茶の香りも全て秋初め。
今度スーパーへ行ったらりんごを買って食べたいな。
そんな週末の予定を考えながら、私は紅茶を飲んで外を見る。
何口も運ぶたびに変わる茶の渋みと香りと味わいが、移りゆく季節のように感じられて、随分と裕福な時間を過ごさせてもらっていると思う。
たった数百円の紅茶でも、秋を感じるお友となるだけで幸せだ。
棚びく雲の合間から覗かせた月が煌々と輝いて、美しかった。

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