武士道入門5 平清盛と「武士道の起源」

『武士道』の1章で、新渡戸稲造さんは「武士の起源」の話を少ししています。
基本的には平安時代の後期だけれども、その前から、武士のもとになった人たちは歴史に登場してきていた。
そのころから「武士道」の考え方も、徐々につくられてきていた......ということですね。

平安時代の末期で、何より「武士として初めて大きな権威を手にした人」と いえば、平清盛さんです。
かつて2012年には大河ドラマで『平清盛』が放映されました。
その中では松山ケンイチさん扮する清盛が、玉木宏さん扮するライバルの源義朝と一騎打ちする場面がありましたね。
けれど、 そんなこと、ホントにあったのか?

まさか、ありえません。
このシーンは完全なドラマの創作で、当時の記録にも残ってはいないとのこ と。史実は1160年の「平治の乱」ですが、すでに合戦で勝利が確定した清 盛。ここであえて命を賭ける理由はありません。
 破れた義朝は裏切りによって捕まり、処刑されます。

ただ、こうした「一対一で武士が張り合うシーン」というのは、当時の『平 家物語』などにも随所に出てきます。合戦の前に那須与一が弓の勝負で勝つ話は、有名ですよね。

『武士道』のなかでも、武士の英雄談としては、案外とこのころの話が多く紹 介されています。
逆に言うと、戦国時代や江戸時代より、武士が生まれたころの平安・鎌倉の ほうが、ヒーロー伝には溢れていたりするのです。
裏を返せば、「武士」という「ヒー ロー」を民衆が求めた時代でもあったんですね。

そもそも、どうして武士が生まれたかといえば、奈良・平安というのは「貴 族の時代」です。
貴族というのは、戦いません。歌などを歌いつつ、「マロは 戦などきらいじゃー」と言っていたわけです。

それで国が治まるかといえば、そんなわけがない。
私設軍のようなものはあっ たのですが、機能しなくなれば、都はともかく、地方は荒れ放題になる。
......ということで、地方ではどんどん「オレが故郷を守る」と立ち上がる人々 が出てきます。これが武士の始まりですが、ある意味「マフィア」みたいなも のですね。

やがて都でウダツの上がらない貴族が、なら地方で力を伸ばそうと、財力をもって「オレも武士をやるぞ」と、こうしたマフィア連中と手を組み出します。
それが平氏や源氏なのですが、やがては源頼朝が政権をとり、貴族から武士 が政治を担うようになりました。 
するともう、「マフィア」ではいられませんよね。
民衆はもっと崇高なものを、 武士たちに求めるようになります。 そこで英雄たちの物語が多く、語られるようになったわけです。

有名な「平家物語」は、まさしく琵琶法師という放浪の詩人が、民衆に語っ て伝えたストーリーでした。
まさに内容は「武士たる本質を忘れた平氏が滅び、 源氏が世を平和にする」という話になっているわけです。
ヨーロッパ中世では、吟遊詩人たちが騎士の格好いい物語を民衆に語りまし た。ここまでは日本とよく似ています。 

ただ日本ではやがて武士が、戦わないのに高い地位を持つようになる。だからやがて「英雄物語」が、生き方の見本たる「道徳規律」になっていく......。
これが「武士道」と呼ばれるものになっていくんですね。

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