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「聞こえないフリ」はネグレクト(介護放棄)?では、どうすれば?

サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)のアーティストレジデンスに参加、つまり、サ高住に滞在しております。4月から3月まで、1年間です。

滞在して2か月目に入ろうかという頃、書道のワークショップ何度か開催しました。

その際、私はワークショップ講師として必要だったのだろうか…と悩ましく思った経験とその後の気づきについては、こちらの記事に記載しました。

今回は、参加者お1人お一人に平等に対応しようと努力しても、特定の方からのお声かけが頻繁過ぎて、他の参加者に対応ができなくなってしまったことと、その改善策をまとめてゆきます。

4人参加のコンパクトなワークショップ

5月でした。
サ高住滞在2か月目です。

まだその頃、私はサ高住に慣れておらず、また、どんな方々がお住まいなのかもわからず、ワークショップにご参加いただく方々は、ほとんどが初めましてです。内心ドキドキです。でも、書道は幼少期から続けており、講師の仕事にも慣れています。慣れている書道であれば、大丈夫なはずと、揺らぐ自信を何とか保ちながらワークショップに立ち向かいました。

その日は、書道のワークショップに4人ご参加くださいました。

準備も後片付けも、講師の役割

準備・後片付けは、居住者様にはお願いしません。全て、机の上に、道具を並べて差し上げて、時間が来たら、私が片付けます。

ですから、参加者の皆様は、書くだけです。

その日は、4人の小さなグループでのワークショップですから、お1人お1人、どんな文字を練習したいか、ご質問させていただきながら、その場で手本を書き、その後、御自身のペースで練習していただけるように進めました。

席のお近くに、半紙を数枚置き、御自身で半紙を変えながら、どんどん書き進めていただけるようにしました。

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分刻み、(秒刻みかもしれません)にお声かけくださる参加者がお1人

お1人ずつ手本を書いておりますと、その途中で、

「せんせーい!」

と分刻み、いや、秒刻みかと思うくらい頻繁にお声かけくださる方がお1人いらっしゃいました。

御自身が一枚書き終わるたびにコメントを求めてくるのです。

お渡ししている手本は、初心者用の簡単なものでしたので、書きあがるのに、1分もかかりません。

私はその時、他の参加者様のために手本を目の前で書きながら、お一人お一人、「ここの筆遣いは、こうして… こちらはこうです… 」などと、一点一画丁寧に説明していました。私が、手本を1枚書き上げるペースよりも、明らかに速いペースでお声かけ頂きます。他の参加者への説明の途中で、何度も「せんせーい!」と遮られてしまうのです。

私は、1人の為だけに講師をしているわけではないのです。
しかし、「せんせーい!」とお声かけくださる参加者様にとっては、講師は私ひとり、自分に教える役割があるのだから、呼んだら来るはずと思ってらっしゃる様子なのです。

講師が他の方に対応しているという状況を理解しているご様子もなく、ただ、自分が必要な時にすぐに対応して欲しいというご様子なのです。

しかも、この方は、御自身で半紙を入れ替えようとしません。書き終わった_半紙をそのまま、目の前に置いたまま、私を呼び、コメントを求め、更に、新しい半紙を目の前にセットするまで待っています。

おそらく、上手く書けた、嬉しい、早く褒めてほしい、早く早くということなのでしょうが、でも、こちらからしてみたら、なぜ周囲を見ないのか、他の参加者様を気遣う気持ちが持てないのはなぜなんだろうと、思ってしまうのです。

その上、同じ手本で練習することに数枚で飽きてしまいます。何枚か書き上げると、「他の文字を書きたい」とおっしゃいます。そうしますと、また、丁寧に手本を書きながら、一点一画解説して、筆遣い、文字の配置等お話しすることになります。

他の参加者の皆様も平等に時間を割きたい、そう思っていても、「せんせーい!」に反応しなければネグレクト、無視になってしまいます。

なんとも、悩ましい時間を過ごしました。

そこでベテラン先生の技から学ぶことにしました。

月に2度、このサ高住で開催される絵手紙教室の先生のご対応を見学しました。

ベテランの絵手紙講師、工夫がスゴイ

先程の、分単位、秒単位で「せんせーい!」とお声かけくださる居住者様、絵手紙教室にもご参加されていました。そこで、絵手紙教室を見学しました。

すると、ベテラン講師の先生の工夫がスゴかったのです。

ベテラン先生の工夫、参加者1人ひとり、対応が違いました。

参加者の数だけ、工夫が有りました。

絵手紙教室は1時間程度です。
参加者の皆様は、この1時間で、たいてい1枚か2枚仕上げて行かれます。
その1枚か2枚をどう仕上げるか、参加者により違いが有ります。

お1人お1人のニーズに合わせ、参加者が座る机ごとに配置してあるものが違いました。
お教室開始前に、予め準備してありました。

村岡さん絵手紙 (3)

①参考になる絵を見て、そのまま写す方には、手本になる絵を沢山、数十枚置いておく。毎回同じ手本ですが、沢山あるのでしばらく大丈夫です。

②自分が気に入った絵をスマフォで撮影して持ってきて、その写真を写生する方には、絵を描く道具だけ準備。

③先生が持参する生花、季節の野菜などを写生する方には、花瓶に花を生けたり、季節の野菜を置いておく。

➃そして、先ほどの何度も「せんせーい!」とお声かけくださる方のお席を見ますと、なんと、5枚ほど、あらかじめ先生が下書きをして、あとは塗るだけの状態になっているハガキが並べてあります。何色も使わず、簡単な塗り絵にしてあります。難しすぎず、でも、色を変えないと仕上がらない、少し時間がかかりそうな塗り絵です。それが、5枚。
他の人たちは1時間で1枚、多くて2枚仕上げるところ、5枚も仕上げられるという満足感を刺激しています。

そして、何より、5枚塗りきるまでは、「せんせーい!」と呼ばれずにすみます。

そして、呼ばれたら、一度添削して、「今日は、もう、終えて帰って良いですよ~」と申し上げれば、良い状態になっているのです。

他の方が1~2枚のところ、5枚も書き上げたんですから。十分すぎるほど、沢山仕上げたんですから。
その日のノルマは十分に達成していますから。

学校の授業では、途中退室は許しませんが、これは大人の教室です。
終わったら退室して、自由に過ごして良いのです。

先回りして準備しておけることを考える

つまり、ベテラン先生のスゴイところは、参加者お1人お1人の特性をきちんととらえて、先回りして準備しておくことだったのです。

皆様が集まってから、あたふたすることなく、お1人お1人の満足度を保ち、平等にお声かけ、机間巡視して行かれます。

ですから、私の書道のワークショップの場合でしたら、次のようにすれば良かったのです。

予め、お1人お1人のニーズを知って、手本を十分に用意しておく。
お1人お1人、書き上げる半紙の枚数を予め決めておく。
終わった参加者から、どんどんお帰り頂く。

そうすれば、あたふたすることなく、対応できたのではないかと気付きました。

おまけ、ベテラン先生の魅力

絵手紙の先生は、大柄な男性です。おそらく50代と思われます。
居住者様の平均年齢は85歳ですから、皆さまからすれば、ずっと若い先生です。

この先生は、とっても温かい言葉をお1人お1人にかけてくださいます。

参加者の中でお1人、認知症を自覚されている方が「前の方が描けたの、今は上手く描けない。先生、(沢山添削してもらって)迷惑かけてごめんなさい。」と何度も何度も嘆いてらして、

先生は、「迷惑かけてよ~」

とカラカラと笑いながら、添削、加筆して絵手紙を仕上げてゆかれました。

この居住者様は、自分のできないことが増える不安があり、短期記憶が弱くなっていますから、自分が描いた作品かどうかも忘れてしまうことも有ります。だから、先生は、思い出せるよう工夫をします。その方のルーツの地名を絵手紙に書きこんだり、雅印、落款でその方のお名前を入れるなどし、御自身が描いたと思い出せるキッカケを盛り込んていました。

また、先生を亡くなった旦那様のお姿を重ねる居住者様もいらっしゃるようです。
繰り返しますが、この先生は、男性で大柄です。
その方々にとっては、絵手紙の時間は、旦那様との思い出を懐かしむ時間となっているご様子です。

懐かしい記憶をたどること、それは、嬉しい時間を過ごすことなんですね。

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