公平で残酷な業界

 皆さんご存じの通り、私はもともとフリーランスのライターです。いわゆるノンフィクション系ライターと呼ばれるジャンルで、別冊宝島を中心に多くのルポを書きました。単著もあります。

 その後、漫画の原作・原案を依頼されるようになりました。私の一番最初の漫画作品は、白泉社ヤングアニマルに連載された「事件屋 征四郎」という作品です。一巻分で終わりましたが、その後、コンビニ版単行本にしていただけました。

 この仕事は単発でして、基本的には物書きの端くれとして過ごしていましたが、その後、大きく舵を切ることになったのは、「伝説の頭 翔」(少年マガジン・講談社)の原作依頼、さらには、あまり時期がずれない段階で「クロサギ」(ヤングサンデー・小学館)の原案依頼でした。

 漫画業界やルールなどまるで理解していないまま、メジャーな雑誌で同時に連載をしていたわけですが、その時に分かったこととして「これほど公平な業界はないな」ということでした。残念ながら、物書きの世界、特にノンフィクションの世界では「名前」が物を言います。

 若手が育たない原因でもあります。そこを打ち破ってきたのが別冊宝島でしたが、ムックの低迷時期を迎えることになって、結局のところ「昔の名前で出ています」な書き手が幅を利かすようになりました。もちろん、私もそのひとりです。

 一方、漫画はどうでしょうか。「クロサギ」は幸いにして評価を得ることができました。漫画家は連載が初めてで、無名に近く、私自身も漫画界ではほぼ無名です。しかし、結果を残せば評価は大きく上昇します。つまり、漫画界は「結果がすべて」なんです。大ベテラン、大ヒット作連発、という過去があっても、現連載作がダメなら評価されません。

 これほど公平な業界は、少なくとも出版界では希有です。もちろん、それだけ厳しい面もあり、連載中は毎回(週刊なら毎週、隔週なら月二回、月刊なら毎月)人気投票が行われます。また、雑誌中の順位も明かされますし、言うまでもなく単行本(今は電子が中心ですが)の売り上げも重視されます。

 作家や編集者が「この作品は素晴らしい」といくら強弁したところで、読者がついてこなければ、終わります。

 私は漫画界においては、ひよっこですが、いくつか関わって思うのは「自分たち(創作者・編集者)が面白いと思うことは大切だが、その面白さが広く伝わることはもっと大切だ」ということです。そこを理解しないと、失敗の連続になってしまいます。私も複数の作品で失敗しました。

 これから漫画や創作世界に参加する人たちに分かって欲しいのは、これらノンフィクション世界は、驚くほど「公平」ですが、同時に泣きたくなるほど「残酷」だという現実です。大御所と新人が同じ土俵で争える公平性、同時に人気のない作品は容赦なく終わるという現実。

 あらゆる圧力からも一番離れていることも付記しておきましょう。ノンフィクション業界の諸先輩には申し訳ありませんが、さまざまな圧力に屈しやすい業界でもあります。しかし、漫画業界においては、人気作品に対してそうした圧力はまったく効果がありません(拙作でもいろいろ抗議や圧力はありましたが、編集部が毅然として跳ね返し、それを出版社も認めてくれました)。

 一寸先は闇、かもしれませんが、これほど刺激的で蠱惑的な業界は、個人的感想で申し訳ありませんが、私には見当たりません。

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