lie lie lie(映画に関連して頼まれた原稿)

正確なことは覚えてない(テキストの日付は1997年)。映画関連で頼まれたような気がするのが、以下のテキスト。

大手商社の代表取締役を名乗る男が実は稀代の詐欺師だった-豊川悦司演じる相川は胡散臭さたっぷりに登場する。この相川が行った詐欺というのが「取り込み詐欺」である。映画の中で行われた手口をご覧になれば、おおよその見当はつくと思うのだが、そもそも「取り込み詐欺」とはどんな行為をさして言うのだろうか。これは「品物を取り込」んで金を払わずにトンズラすること、と思って貰えばいいだろう。最近では時勢がらか横着な手口が増えているが基本は次のようなものになる。まず会社を作る。本当の、つまり登記した法人であればよりよいが、ペーパーカンパニーでもかまわない。狙うのは売り上げ増を狙って焦っている会社、独立開業して間もない会社だ。なるべくチェックが厳しくない会社のほうがいいということ。取り引きを始めたばかりの頃は当然現金取引となるから、多少の資金が必要になる。相手を信頼させることから詐欺が始まるのはすべての詐欺に言えること。数ヶ月から半年程度、きちんと支払いを行い、相手に信頼されればしめたものだ。事業拡張でも新規獲得でも、理由はなんでもいいから取引高を増やす。そして支払いを手形にする(小切手でもいい)。ようするに現金を渡さなければいい。仮にペーパーカンパニーならば、手形や小切手は難しいだろうから、支払い期限を延ばして貰えばいいだろう。二ヶ月決済、三ヶ月決済など決して珍しいことではないから、相手も疑いはしない。まして今までの取り引きがしっかりしていて、さらに量を増やしてくれるのだから喜んでくれることだろう。これで魚は針にかかった。あとは、納入された品物を売り捌いて、支払い期限到来時に姿を消してしまえばいい。会社ならば倒産させてしまうのが一番。なにしろ法人というのは有限責任だから、会社がいくら負債を抱えようと、法律的には経営者が賠償する必要など「全く」ない。
これがオーソドックスな取り込詐欺である。横着になったと前述したが、これは倒産間近な会社がよく使う手口。倒産が近づいた会社の場合、手形を乱発している例が多いので、手形支払いで足の早い商品-捌きやすい商品をどんどん購入する。そして右から左へと売り払ってしまう。高級外車、カラーコピー、パソコンなど時代によって多少ジャンルは変わるものの「人気商品」が狙われることになる。秋葉原の大手家電店では今年、不良外国人によるパソコンの取り込詐欺が多発したが、これなど世のパソコンブームに便乗したものだろう。手口は単純なもので偽造クレジットカードで購入し、そのまま梱包も解かずに中古買入業者の元へと持ち込むというもの。ノートパソコンが多かったというのは、やはり運びやすいからであろう(笑)。
主人公・相川は巧みな話術を操り、相手を煙に巻いていくのだが、これは現実の詐欺師もまったく同じ。多くの詐欺師に会った人間としての第一の感想は、頭がいいな、であった。学力ではなく知力の高さを感じさせる。論理的思考の持ち主であり、語彙も豊富だ。ただ、その論理が巧みに飛躍しているというのがポイントなのだ。途中までは誰もが考える展開なのだが、結末は予想外のものになる。よくできたサスペンスやミステリーとも似ている。違うのは、気付いた時には懐が空っぽにさせられていることぐらいだろうか。彼ら詐欺師は知力・知能において抜きんでているのだが、その向けどころが「いかに人を騙すか」にあるわけで、そのためには文字どおり全知全能を振り絞る。結果、彼らは相手が何を欲しているのかを見抜くのだ。名誉なのか金なのかそれとも愛なのか。名誉を欲しがっている相手ならば、学位や博士号、勲章などを与えると持ち掛ける。余談になるが、名誉学位、名誉博士号の類は金さえ出せば入手できるものがある。詐欺師が持ち込むのはそれに「似たもの」というのがミソ。仰々しい立派な証明書を持ってくるがもちろんそれはニセモノである。次が金。これを欲しがっている人は多い。いや、多いというよりも資本主義社会である以上、金を欲しがらない人はいないだろう。したがって詐欺の多くはこうした金銭欲に付け込んだものになる。世間を騒がせたKKCしかり、オレンジ共済しかりである。公にはしていないが、実は裏で高金利の貯金を銀行がやっている、一口どうか、などという話は掃いて捨てるほどあるのだ。あるいは、様々に変化しながら戦後まもなくから現在にいたるまで健在な「M資金」。占領軍マーカット少佐が残した闇資金であるとか、山下将軍の財宝、日本海で沈んだ船に残された大量のプラチナ塊、軍が隠した資金など次々に登場する。これは実におおがかりな詐欺であり、一部上場の大企業の役員までもが騙されている。最後の愛だが、これは結婚詐欺である。人間に生まれて自惚れぬものはない、というように、誰にも自惚れがあり、婚期を逸した人間は男女を問わず、その原因が自分にあるとは考えない。「たまたま自分に会う人に出会えなかった」と思うのだ。しかし結婚はしたい、あるいは愛する対象は欲しい。それを見抜いた詐欺師が接近していく。
しかし、こういう話は今これを読んでいても、あるいはこの映画を見た後でも「なんであんな話に引っ掛かるのか」と誰もが首を捻るだろう。確かに詐欺というのは、事件発覚後に第三者が見た場合、騙される人間がいることが不思議に思える。ところが実際にはコロリと騙されている。それはなぜだろうか。主人公・相川同様に詐欺師の多くは憎めない風貌・人格をもっており、その上抜群に演技がうまい。彼らは役者同様にありとあらゆる人間になりすまして見せる。大企業の重役、議員秘書、政治家、銀行マン、元華族、弁護士…なれないものはない。そのために常日頃、新聞を精読し、専門誌を熟読している。何故かと聞いたことがあるが、「専門用語を知らない専門家はいない」ということらしい。少年審判の関係者に化けては、少年院送致にならないようにしてあげると持ち掛ける場合などは少年法を徹底的に頭に叩き込むという。その努力を他に向ければ…とは言うてもせんないことになる。驚くのは、彼らに言わせると本物に化けるには、本物を観察しても駄目だということだ。では何を観察するのか。それはテレビドラマだという。つまり、我々はあらゆる職業について知っているつもりになっているが、その職業とはテレビドラマで役者が演じているものに過ぎない、と彼らは言う。刑事も政治家も大企業の重役も、そのイメージはテレビドラマから得ているというのだ。言われてみると確かにそういう側面はある。普通の生活をしている限り、本物に出会う機会はすくない。うまいことを考えるものだ。
詐欺師とて人間だから結婚しているやつもいる。子供がいるのも珍しくない。伴侶はうすうす感じている人もいるものの、多くはまったく知らない。家族を持っている詐欺師は定刻に「出勤」することが多いからだ。その上、身分保証会社の連中とも「仲間」だから、給与も振込まれ、呆れたことに健康保険だって国民健康保険ではなく社会健康保険という場合すらあるのだ。これでは気付けというほうが無理というものだろう。知能犯である詐欺師は独身の場合は別として、結婚していれば得た金の多くは架空口座や秘密口座に貯金していることが多い。仮に捕まってもさほど長い懲役になることもないし、何より出所した後の軍資金が必要だからだ。もちろん、家族が生活できるようにもしている。
詐欺の手口をこの紙数で語るのは無理があるが、ひとつ言えることがある。それは簡単な話を複雑に語るということだ。儲け話があるから金を出しませんか、とは言わない。確実に成功する事業を現在行っているのだが、やや資金が足りない。実は来年にはアメリカの某財団から多額の資金援助が決まっている。それまでのつなぎ資金を出して貰えないだろうか。とこうくるわけだ。ちょっと尾鰭をつけてもっともらしい書類を用意しているに過ぎないのだが、人はこういう話こそ信じる。
なぜ信じるのか、つまりなぜ騙されるのかだが、先にも書いたように演技力があり、人品骨柄があり、そして話の出来の良さがある。が、これはあくまでも事象として見た場合であって根源は騙される側にある。つまり、自分にだけいい話がいつかくるのではないか、という思い込みだ。結婚詐欺のところで書いた「自惚れ」とまったく同じだ。相場などに手を出して大やけどする人もこの範疇に、もちろん入る。したがって騙されないことは難しくない。つまり「赤の他人が、自分に有利な話を持ってくるはずがない」ということだ。相手も儲かり自分も儲かるという話しは存在しても、自分だけが儲かるなどということは金輪際絶対にないことを肝に銘じておいて損はないだろう。
以上、縷々詐欺師について書いてきたが、ふと考えてみると、この世の中自体が詐欺で満あふれているような気がしてきた。アメリカだけに多発する「多重人格」を作り出している精神分析医、税金に払うぐらいなら広告しましょうよといって人のフンドシで相撲を取る広告代理店、相手にしゃべらせておきながらずばり当てたかに見せる占い師やリーディング…。すべてではないにしろ、詐欺的とでも言うしかない事例も多いとはお感じにならないだろうか。
人は嘘をつく生き物だという。誰にも覚えがある。人を騙して「してやったり」と思った経験を持つ人も多いだろう。ある詐欺師は言っていた。
「詐欺っていうのはね、知恵の勝負なんだよ。集団で脅すわけじゃなし、無論血なんか流しやしない。ねずみ講やマルチ紛いとは違うんだよ。完成度が高いものはね、もはや芸術といってもいいと思うよ」

「白蟻商法」

 白蟻の無料調査です、と現れる。縁の下や天井裏などを調べては「大変ですよ、白蟻がだいぶ増えてます。このままでは家が崩れます」などと脅して、駆除作業を依頼させるというもの。悪質なものになると、自分たちで羽根蟻や白蟻を用意しておいて、家人に見せるものまでいる。

「見本商法」

角地にあるやや古めの家を狙う。外装リフォームを目的としている。お宅は立地条件が抜群にいいから、我が社としても宣伝になるので、特別料金でできる、などと持ち掛ける。相手が値段に興味を示せばしめたもの。「本当はこれが精一杯なんですが、何とかもう少し下げてみます」などと言い、目の前で上司に電話をし「あと50万円なんとかなりませんか」などと交渉してみせるが、無論電話は繋がっていない。さんざ安くしたという値段も同業他社の標準値よりも高い。

「身分保証業」

古くは吉原・堀ノ内などで働く女性を対象にしていた。不動産を借りる際に会社員であることを証明してくれる。値段は10万円ぐらいから。これが進化して、現在ではちゃんと法人登記されている会社が多い。法人登記といっても休眠会社を30万円くらいで買い取ったものだ。給与明細を発行し、社会保険までやってくれる場合もあるが、その場合には毎月料金が発生する。クレジットカードを入手できるので、詐欺師にとっても便利な会社ということになる。

「パクリとサルベージ」

手形を騙しとるのがパクリ。その手形を回収するのがサルベージ。特別に銀行などに顔が利くと称して、億単位の額面の手形を発行させて騙しとることが多い。手形は一度発行されてしまえば、盗まれようが騙されようが一切抗弁はできない。期限に金がなければ不渡りになり、二度目には銀行取り引き停止となり会社は倒産してしまう。サルベージ業は暴力団が得意とし、暴力を背景にパクリ手形を持っている人間と交渉する。ところが、この両者が裏で繋がっていたりするから、被害はさらに拡大してしまう。

「篭抜け詐欺」

パクリと密接に関係する。銀行支店長・次長などに話をつけてある、などと言って手形を用意させる。銀行に行った相手は次長や支店長に面会を申し込む。きちんとした会社ならば銀行も応接室に通してくれる。そこで本物の次長などが現れる前に名刺を持って登場。手形を確認させて欲しいなどといって、持ち去ってしまう。後で本物が現れたところで発覚するものの後の祭り。この他舞台となるのは、高級ホテルの一室、工事現場(施主のふりをする)、名前の通ったビルのレンタルスペースなどがよく使われる。

「導入預金」

会社であっても当座預金を持つことは難しい。当座がなければ手形も発行してもらえない。そこで普通預金口座を作り、有名企業名で大金を毎月振込む。しばらくして銀行に口座解約を伝えに行く。相手が止めたら、「取引先に当座も作って貰えないようなら、銀行を変えたほうがいいと言われた」などと吹っ掛ける。取り引き実績などを勘案した銀行が当座を開いてくれる可能性は高い。当座ができたら手形を乱発、取り込詐欺を行ったのちに倒産させてしまう。

「集金詐欺」

新聞などの集金人に扮して料金を徴収する。正式な伝票が入手できなくても、「今回から伝票が変わりました」ですませてしまう。一件あたりの料金が安いので問い合わせる人間はまずいない。後で本物が来た段階で発覚することになる。亜種として、勝手に出版物を送付し、小さな字で「不用の連絡なき場合は定期(全巻)購入と判断します」などと書いておき、後日集金する。

「同窓詐欺」

同窓会事務局などを名乗り、電話連絡。相手の個人情報を聞き出す。後日、同窓会名簿料金という振り込み用紙を送る。気付かずに払う人は5割近くになるという。さらに、入手した個人情報のほうは、別途名簿屋に売り飛ばしてしまう。名簿屋とは、年齢・職業・趣味嗜好などで分類した個人名簿を企業等に販売する商売のこと。

「当選商法」

電話で「おめでとうございます、あなたが選ばれました(当たりました)」と連絡してくる。後は相手に電話を切る暇を与えずしゃべり、呼び出す。この手の商売は池袋のSビルや新宿の高層ビルに事務所をかまえていることが多い。来るだけで○○をさし上げるなどと持ち掛けてくるが、実際には英会話セットの販売だったり、役に立たない高価な会員権の販売、化粧品セットの販売などが待っている。現場では海千山千の販売員数人に囲まれて説得させることになる。

「資格商法」

 公的資格の取得をすすめる。資格の名称が○○士であることから「士(さむらい)商法」とも。電話勧誘の場合は「結構です」と応えたり「いいです」では、OKと判断され入会したとされてしまう。また新手のものは役に立たない民間資格を取らせることでやる気を起こさせ、蜿蜒と講座を受講させる。企業がリストラ時代になり、資格のない人間はスポイルされるというイメージに乗り、最近猖獗を極めている。

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