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ハイヒール恐怖症

皆さんは『ハイヒール恐怖症』というものをご存知ですか?

知っているわけがありません。
私が今考えたからです。

というのも、私には
“ヒールで歩く音(コツコツ音)が聴こえると、途端に気持ちが落ち着かなくなり、ソワソワしてしまう”
という謎の持病があります。

思い返せばこの症状が出始めたのはここ数年でしょうか。
元々私はヒールの靴が大好きでした。

靴擦れするわ走れないわ捻挫するわで
ハッキリ言って不便でしかないのですが、
それでも女性の足を長く美しく見せるアイテムとして、ヒールのパンプスやサンダル、ブーツを好んで履いていました。

つま先や踵には、靴ずれによって出来た水膨れやカサブタ。
応急処置で雑に貼られた絆創膏が痛々しく被せられていたけれど、
それは当時の私が理想とする“女”である為に必要なキズなのでした。

いつもより10cm近く高くなった視界はより鮮明に見えている気がするし、
なによりヒールの靴を履けば、たちまちシンデレラの魔法のように
私をほんのりイイ女にしてくれる、そんな気がしていました。
そう、気。すべて気です。


そんな私ですが、今ではすっかりヒールを履く機会は無くなり、
気づけば靴箱の中はスニーカーやノーヒールのサンダルのみ。
ヒールなんて履こうものなら まるで掴まり立ちを覚えた赤ん坊のように、
なんとなく店を出た時にはまだいけると思っていたのに駅に向かうまでの間に突如訪れた尿意を気づかぬフリして、駅のトイレに寄る事なく終電に乗車したけど車内で尿意が限界を迎え、極限まで我慢しながら家路を急ぐ飲み会帰りのように、おぼつかない足取りとなります。


なぜ、私はヒールを履かなくなってしまったんだろう?
思い返してみると大きく分けて2つの原因が考えられました。

一つはプロレス業界に入ったから。
練習生時代、遠征時にブーツで巡業バスに乗ったら先輩にスニーカー履いてこいと注意されました。
しかし当時の私は恥ずかしながら謎の抵抗から、後日インヒールのスニーカーを購入し遠征を廻っていました。
そこまでしてヒールにこだわる理由はなんだったんでしょう。今となっては要らないこだわりでした。

もうひとつは付き合った男性の影響が大きい気がします。

何の因果か、私は背の低い男性とばかり付き合ってきました。
決して狙って背の低い男性と付き合ったわけではありません。
付き合った男性が何故か皆、揃いも揃って背が低かったのです。

165cmの私と同程度であるか誤差程度の身長差であったため、
私が10cmのヒールを履こうものなら余裕で相手を見下ろしてしまいます。

相手も自身が低身長である事を気にしていたので、目線の差を実感する時はやけに気まずく、
信号待ちの時はわざと1段上の段差に登り
「身長じゃなくて高いところにいるから見下ろしてるんだよ」アピールをするなど
なんとか相手よりもデカく見えないよう誤魔化してきましたが、
ふと鏡に映ったときに露わになる明らかな身長差は誤魔化しようがなく、
次第に私はデートの時にヒールを履いていかなくなりました。

踵の付いているブーツは必ず高さをチェックして、なるべく低いものを買うようになり、
これまで履いていたヒール達は外に出かける機会を失い、
いかに低くて履き心地が良いか、そんな靴ばかり集めるようになりました。

そうなると私のヒール離れは着々と進み、
気づいた頃には1人になってもヒールの履けないカラダになってしまいました。

私はもう舞踏会に行けないし、
パリコレのランウェイも歩けない。

どっちにしろ行く事はないですが、いざ無理となると落ち込んでしまう。
それは人生の選択肢が狭まってしまったからでしょうか。

しかしヒールを履かなくなった事で、大きな利点も生まれました。

とにかく足が綺麗になったのです。
蓄積した靴ずれにより茶色く燻んでいた爪先も、万年絆創膏がレギュラーとなっていたアキレス腱も、
ヒールを履かなくなった事で傷つく事が無くなり、
今ではまるで赤ちゃんのような、そのまま焼いてパンとして食卓に並べたら間違えて食べてしまうのではないかと思うほど綺麗な足へと生まれ変わりました。

これは脱ヒールを果たした事による最大の功績です。

スニーカーでいいじゃん、楽だし。
サンダルでいいじゃん、楽だし。

お洒落や色気なんて事は一切考えない。
楽か、楽じゃないか。
その1点だけに絞って物を選ぶシンプルな考え方に、私はようやく辿り着けたみたいです。

そんな私を悩ませているのが冒頭に記した
「ハイヒール恐怖症」です。

脱ヒールを果たした今、私は道を歩いている時にヒールを履いた足音が聞こえてくると、
たちまちソワソワとした気持ちになり落ち着かなくなります。

ヒールの音に心が追い詰められているような気持ちになり、息苦しさすら感じさせるのです。
とにかくその音から離れたくて仕方がなくなります。

ヒール音を街の雑音の一部としてではなく、一つの独立した音として認識してしまうようになったのは一体何故なのか、いつからなのか、そういった部分は覚えていません。
明確なキッカケも特にありませんでした。

ただただ気づいたらヒール音が不安の対象になっていたのです。

私と同じような人は他にもいるのか…
そう思い、私はネットでこの症状について調べてみる事にしました。
ですが、調べ方が悪かったのかあまり有力な情報を探し出すことができませんでした。

ヒール音が怖い。これは私だけなのでしょか?
一人で頭を抱える中で、
私はある一つの仮説を考えました。

ハイヒール恐怖症の原因。
それはもしかすると、もうヒールを履けなくなってしまった自分に対し、
過去の自分から何か訴えかけられているのかもしれない、と。

目を閉じて、背後から聞こえるヒール音に耳を澄ますと、
そこにはハイヒールを履いた当時の自分が立っていました。

「ジーパンにスニーカー。
家に帰ったら誰と遊ぶわけでもなくゲーム。
今のあなた、それでいいの?」

あの頃の私が、今の私にそう訴えかけてくるのです。
それは私にとって、非常に耳の痛い言葉でした。

そうか。私にはまだ楽しむ余地がたくさん残っているんだ。
引きこもっている場合じゃない。

色んな出会いを通じて、
もう一度“楽しい”を取り戻さなきゃ。
そして、
忘れかけていた“女”を取り戻さなきゃーーー。

ヒール音が、私にそう教えてくれました。

ありがとう。
私もう一度ヒールを履くよ。
そしてもう一度、女になる。


ということで来年あたりに
このnoteでお馴染みの親友Yを召喚して、
女性用風俗体験ツアーを実施したいと思います

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