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私が芳香剤です

ホワイトムスクの香りって、大体の人が好きだと思う。

しつこくない甘さで、ふんわり香るとちょっと良い女感も出る。
結婚するときに、家の芳香剤としてホワイトムスクの芳香剤を購入した。
引っ越したところは新築アパート。
白基調の家になんとなくピッタリだった。

この芳香剤は蓋をせず、木の棒を差しっぱなしにしておくタイプのものだった。
玄関の棚に1つ置いて、出かけるときや、帰宅した時に癒されていた。

そんなお気に入りのホワイトムスクでとある事故を起こしてしまった。

ある日、仕事に遅れそうになり慌てて玄関で靴を履いていた。
お弁当を玄関の棚に置き、靴を引っ張り出して履き、鍵を持ってお弁当も持って、さて行こうとした時によろけて棚に激突してしまった。

それだけなら気にせず家を飛び出せたのだけど、なんとその激突した勢いでホワイトムスクが私に向かって倒れた。

蓋があるタイプならあーあだけで終われたのに、悲しいかな蓋なし。

瓶の中身が全て私の肩からお腹にかけて降りかかってしまった。

私の左半身はホワイトムスクでびしょ濡れに。
しかし、こんなことで仕事に遅刻なんてできるはずもなく、私は濡れたまま家を飛び出した。

慌てて駅へ向かい、電車へ乗り込むと、ハンカチで濡れた部分を拭いた。
水気は取れたものの匂いは取れない。
どんなにいい匂いでも、どんなに好きな匂いでも自分の体から強く匂うとなると
どうにも臭かった。
あと匂いキツすぎて喉が痛くなり、心なしか声も枯れた。

当時接客業をしていたので、職場につくなり「私、臭くないかな」とか「私臭うかな」とその日出勤のスタッフさんたちに聞いてまわった。

一応香水のつけすぎというくらいの匂いと言われ、そのまま仕事できると上長にも判断してもらい、仕事をいつも通りにした。

まあ、お客さんの中には顔を顰める人も居たけども。

そんなこんなで一日の仕事を終え、私は足早に駅へ向かった。
私が使う駅は利用客がとても多く、夕方はいつもぎゅうぎゅう詰めだった。

(あー、私めっちゃ臭うよなぁ…ごめんな……)

と心で謝罪しつつ、電車を待つ行列に並んだ。
案の定振り返る振り返る。
おじさんもおばさんも私をじろじろじろじろ。

すまんの。
臭いよな。
いい匂いも強すぎると臭いんよな。
分かるよ。

私はあまりの恥ずかしさに下を向いた。
早く、早く電車来て、早く最寄り駅に……!!

その時遠くから声が聞こえた。

少し離れた列に並んでた高校生くらいの女の子たちだった。
きゃあきゃあはしゃいでる女の子たちの1人が

「あれ??なんか匂いするね」

と言ったのだ。

はい、終わったー。
若い女の子たちに臭いだなんだ香水マジやばたにえんだなんだ言われるわー。

私はもう今一瞬でいいから台風来て暴風域に入れ!と強く願っていた。

すると女の子たちは

「えー?あ!ほんとだ!なんか匂いする!」
「うんうん!いい匂い!」
「この匂い好き〜!」
「え〜こんないい匂いの女になりたい!」
「頑張っていい匂いの女になるぞー!!」
「おー!!!」

と盛り上がっていた。

そうか。
列が離れている彼女たちには程よい香りが届いていたのか……。
女の子たちは1層きゃあきゃあはしゃいで、到着した電車に乗っていった。
私も自信満々に「私、いい匂いの女です」という顔をして電車に乗り込んだ。


あの時の女の子たち……。
ありがとう。


乗り込んだ電車で「くっさ、香水つけすぎ」と言われたのはまた別の話。

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