星を掴む。

また冬が来た。
オリオン座、冬の大三角形、空を見上げては指差し呟いてみる。

いつかの夜、真っ白な息を吐きながらあの人が教えてくれた。だから代わりに、一番輝く星の名前を教科書で調べたんだ。
「シリウスって言うんだよ」
あの人は空を見上げて「シリウス」と呟いた。それから振り返って「きれいだね」と笑った。

街灯の少ない道だって怖くなかったのは星が照らしていたからじゃない。あの人が前を歩いていたからだ。揺れるその右手をいつでも掴むことができたから。

街灯だらけのこの街は星が遠くなった。鮮やかなイルミネーションに背を向けて、今日も裏路地を選ぶ。
オリオン座、冬の大三角形、シリウス。空を見上げて呪文のように呟いた。
いつだって星は世界を照らす。仄暗い心の内さえ、そっと。

いつかの夜、真っ白な息を吐きながらあの人は教えてくれた。
「今しか見えない光もあるんだよ」
かじかんだ指を空に伸ばして、握りしめる。今見えている光は、きっと今しか掴めない。

誰もが知っている星じゃなくたっていい。誰かが知っている星を掴みたい。掲げていた手を下ろし、そのままポケットにしまいこんだ。
光は今、この手の中にある。


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