大阪放送劇団「冬の馬」感想(2023/10/27&29)
27日夜と29日昼の大阪放送劇団さんの公演を見に行った。
去年の春、秋の公演を見ているのでこれで3回目になる。
全体の感想
このお話は、かなり複雑で不思議な人間関係と、心の支えとなるもののお話という印象だった。
まず、主な登場人物は以下の通りだ。
息子と夫を捨てて再婚した時計店の店主、波子
↑の再婚相手の息子、研一
(即ち義理の息子、ただし店主と同い年)店主の実の息子、通
↑の実の息子と別れた元妻、美枝
(行き場がなく今は波子と一緒に住んでいる)
自分でも書いててだんだん混乱してくるややこしさである。(1回目の観劇では人間関係がややこしくてその把握のために頭の容量をかなり持ってかれてた)
波子と研一は7年ぶりの再会、波子と通は中学の時以来、通と研一は初対面とかなり繋がりが希薄なところからスタートするが、後述するように通が元気を失っている時には4人で食事をして元気づけてあげようとするなど、劇中の様々な出来事を通してどんどん人間関係が深まっていく様子が描かれていた。
あと上記の4人以外に、最近引っ越してきたという隣の家族がちょいちょい登場する。
しばしば時計店を窓から覗き込んでいて、本人曰く「何か困っていないか気配りをしている」とのことだが、現代でやると不審すぎて通報されそうだ。あと滅茶苦茶タイミング悪く入ってきて、その時に見たものだけで思い込んで判断するので状況がえらいことになっていくというコメディ的な場面が多い。この隣人家族との、現実ではそうそうないような濃度の関係性も不思議なものだった。
「冬の馬」とは
軍用馬の産地である木曽で、戦争中に馬が徴用されて一頭もいなくなってしまい活気を失ってしまった人々が、空想の馬を世話することで活気を取り戻していったというお話があるそうだ。
それと同じような感じで、波子は亡くした夫がいるように振る舞い、作業場の電気スタンドや道具を置いている場所に話しかけたりしている。このことを研一に否定された時にはひどく狼狽えていた。
波子にとってはこれが大事な心の支えとなっていたのだと思う。
かなり状況は違うが、自分もある意味これに近いことをしているのかもしれない。友人にどうして部屋を綺麗に保てるのか聞かれた時、「推しのフィギュアを部屋に置いてるから、推しを汚い空間に居させるわけにはいかないだろう?」と答えたら理解できないものを見る顔をされたことがある。
何か大事にしたい存在がここにいると想定することできちんとした振る舞いをしなければと気が引き締まるというのは確かにあるなぁと思った。
実の息子と義理の息子
通は波子の実の息子、研一は波子の義理の息子だが、研一は波子と同い年なので、通と研一は親子ぐらい年が離れている。
波子の「冬の馬遊び」の一件をきっかけに研一が通に手紙で連絡を取り、出会うことになる。
会ったばかりなのに、この2人は色々な場面でちょっと似通った部分があるというのも面白かった。
研一は翻訳を、通は俳優をしており、エデンの東という作品の話で盛り上がって一緒に演じるシーンが凄く良かった。
隣人のおせっかい
波子、研一、通、美枝の4人がそろっている時に、隣人の4人家族が入ってきて、「何か事情があって普段離れて暮らしている家族が珍しく揃っている」と勘違いする。
この場を早く切り抜けるため、通がその勘違いに便乗し始めるところが個人的に一番面白かった。ところどころに事実は織り交ぜつつも当然ほぼ全てが嘘なので、だんだん家族の設定が滅茶苦茶になっていく(だいたい研一のせい)。それをなんとか他の人が軌道修正しようとするのが面白かった。
特に一番好きなのが、通と波子だけの思い出だと思っていた腕相撲を研一もしたことがあるということが判明したシーンだ。通は体育座りでいじけてしまう。(2回目の観劇ではこれが一番よく見える位置を狙って座ったぐらい好きなシーンだ)
設定もどんどんハチャメチャになっていき、通はそのいじけたままのテンションで「どう収集付けていいか分からない」って言ってたのも面白かった。お前が始めた物語だろ(突然の進撃の巨人)
4人での食事中に隣人が入ってきた時には、研一はワインを飲んでいたこともあり、より一層設定がカオスになっていく。
通の「父さん忘れないで!俺息子だよ!」のところで滅茶苦茶笑った。
死の恐怖と人間関係
通が急に時計店を訪れるシーンがある。
葬式が近くであったから寄ったということだが、この葬式は通の友人の葬式だった。
この友人と通は10年前に事故に遭って頭を打っており、検査では問題なかったのに10年経って友人は突然亡くなったという。そこから、通も突然死ぬかもしれないという恐怖を抱えることになる。
そんな通を元気づけるために波子は研一を呼び、4人での食事の場を設ける。一度離れた家族ではあっても、死の恐怖に苛まれた通のために何かしてあげたいという波子の優しさがよく表れていたシーンで、すごく好きだ。また、少し前まではほぼ他人だった研一や一度別れた美枝もこの時には通を気にかけており、物語の開始時点から考えると物凄く人間関係が深まっているなぁと思った。
個人的に、このシーンの前後で通の雰囲気が変わるのがすごく良かった。前半と同じように振る舞っているように見えても、どこか無理してる感みたいなものが感じられる。
身近な人にそうなってほしいわけではないが、フィクションの登場人物ではこういうの結構好きだなと思った。
※ちょっと脱線
(ここまで考えてから妙な既視感を覚え、最近読んだ「ハンサムマストダイ」という漫画のラスボスが言っていた「悲しみを背負い迫り来る死を想う時…美しく儚く刹那的な存在となる そこでようやくハンサムガイが完成するのです…!」ってのと本質が同じだなって気づいてちょっと面白くなってしまった。確かにそういうのあるなぁって思った)
まとめ
大阪放送劇団さんの公演を見るのはこれで3回目だ。
普段自分が触れることが少ないジャンルのお話が多いため、毎回新鮮な気持ちで公演を楽しませていただいている。
今回はお話が割と複雑だったことと、ダブルキャストだったこともあり、2回見られて良かったなぁと思う。
また次の公演も楽しみだ。
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