劇団伽羅倶梨「あっぱれ!コトブキ写真館」感想(2023/10/28&30)

28日に、大阪にある劇団伽羅倶梨さんの公演「あっぱれ!コトブキ写真館」の観劇に行った。あと、想像以上に面白かったので、千秋楽も見に行った。

他の劇団さんの公演を見に行ったことはあったが、劇団伽羅倶梨さんの公演は初めてだ。私の推しの1人である古林裕貴さんが出演するので見に行くことにした。

全体の感想

タイトルで示されている通り、写真館を題材としたストーリーだ。
写真館での出来事を通して、家族それぞれの仕事ややりたいことへの向き合い方が描かれていた。
私自身が浪人を経て大学や大学院に行って散々好き勝手に過ごした後、同年代よりも随分遅い今年から社会人になったということもあり、改めて仕事との向き合い方について考えるきっかけになった。

冒頭の通販のシーン

最初は、青山雅子という人の通販番組のシーンから始まる。写真館ではない場所から始まるのは予想外だった。
通販番組が終わった後、青山さんがマネージャーか誰かと趣味である古本屋巡りの話をしているのだが、裏に「コトブキ写真館」という判子と名前が書かれた写真が古本に挟まっていたという。ここからストーリーが動いていく。

この通販では「21世紀の始まりを記念して50%オフ」というとんでもない値段設定のセールをしていて、この描写で2001年の話であるというのをサラッと伝えるのが面白いなぁと思った。
携帯電話を使うシーンで使われているのがガラケーだったり、写真館で働いている吉井がモー娘。の集合写真を撮る妄想をするシーンがあったりする。自分はその頃は小学校低学年ぐらいだが、確かに2000年代だなぁと感じられて面白かった。

就活用の写真撮影

場面が変わって、コトブキ写真館へ。
吉井という人が開店準備をしているところに、急いだ様子の就活生・森直哉が飛び込んでくる。(この就活生を演じているのがこばさんだった)
しかし、写真を撮るのは吉井ではなく外出中の店主・寿真一郎なので少し待たなければならなかった。「先生はすぐ戻りますのでー」「病人ちゃうよ!」のやりとりがちょっと面白かった。
あと、この写真館では写真の使用目的によって撮り方や用紙などを変えているという。例えば証明写真やオーディション用写真を撮る時は「本人を1.5倍良く見せてくれる」というのが重要で、2倍だと本人と写真の差がありすぎるが、1.5倍なら本人の努力でそれに近づけることができる丁度いい塩梅ということだ。
コトブキ写真館では写真の仕上がりには数日かかるので森はその日の面接には行けなくなるのだが、それもそういう縁ということで吹っ切れた様子なのが良かった。

「やりたいこと」と「仕事」

寿家には長女のひかると次男の正一郎がいる。
正一郎は大学に行くために予備校に通っているはずなのだが、小さい頃からしていた空手も続けていることで、真一郎と揉めている。ここからは、このことがこのストーリーのメインとなっていく。
真一郎は空手を仕事にして生活していけるわけじゃないということで辞めさせようとしているが、正一郎は客が滅多に来ない写真館を続けている真一郎に反発する。

ところが後の展開で、今の正一郎と同じように、真一郎もかつては父に小説家になりたいという夢を反対されていたということが判明する。そして真一郎は写真館を継ぐことになるが、こうして写真館の仕事が好きになっているので、やってみたら楽しくなってくるというパターンもあるなぁと思った。

真一郎は結果的に写真を撮ることが「やりたいこと」且つ「仕事」になったが、正一郎の「やりたいこと」である空手を「仕事」にするのはかなり難易度が高いだろう。仕事以外の時間にやりたいことをすればいいが、1週間のうち大体8時間×5日が仕事に持っていかれるため、やりたいことに割ける時間はかなり限られてくる。(これは自分自身が就職して痛感していることだ)
最終的に正一郎は空手を続けることを改めて宣言し、真一郎もそれを認めた。だが、おそらくこの後、正一郎は就職するぐらいの年齢の時にまた空手との向き合い方に悩むことになるんだろうなぁと思った。それをどのように折り合いをつけていくのか見てみたい。

また、最後に場面は2023年に移り、年老いた真一郎が小説を書いている。
やりたいことはいつ始めても遅いということはないというメッセージなのだろうと感じた。

父・祖父とのやりとり

真一郎がアルバムを開いた時に、真一郎の父・幸一郎や祖父・源一郎が出てくるところは個人的に全体の中でも特に好きなシーンだった。
そこまでは真一郎は「厳格な父」という印象だったのだが、幸一郎に写真館が潰れそうだと伝えたら「あぁ、良いよ別に」と軽く返された時の「良いよ別にィ!?」とか、幸一郎がダメ元で真一郎に写真の技術を仕込んだと言った時の「ダメ元だったんか…」とか、祖父初登場時の「おじいちゃん!?」というような反応がそれまでのイメージとギャップがあって良かった。

いくつかあるやり取りの中でも特に印象的だったのが、幸一郎の「ひかるちゃんや正一郎くんはこれから自分の道を勝手に歩いていくだろう」というところだ。

私は大学進学を機に実家を離れたのだが、卒業時に戻ると思いきやそのまま関西で就職してしまった。大学は志望校が県外だったのでやむを得なかったのだが、就職が関西になったのはたまたまここに残りたい理由が見つかってしまったからだ。両親との関係は悪いどころかむしろ良い方なのでどうしても実家を離れたいというわけでもない。結果的に実家を離れることを選んだことに若干の後ろめたさを感じていた。
でもこの台詞を聞いて、親がどうこうというのではなく自分の道を進んでいけば良いんだって子供側の立場として勇気付けられた。

古本屋の本に挟まっていた写真の真相

青山雅子がコトブキ写真館にやってきたシーンで、古本に挟まっていた写真が真一郎のものであったことが判明。
そういえば幸一郎が本を全部売り飛ばしてしまったことを謝っていたけど、青山の古本屋巡りがここに繋がるのかって1回目の観劇の時に凄く驚いた。通販のマッサージ機の商品番号(確か135789)は覚えてたのに写真のことは何故か忘れていた。今思えば明らかに写真の方が重要アイテムになるのに。

千秋楽で改めて見ると、実は普通に冒頭の通販番組終了後のシーンで「しんいちろうくん」って言っていた。1回目の観劇ではすっかり記憶から抜け落ちていたので気づけなかった。あと、千秋楽の時は意識的に聞くようにしていたが、中盤以降で幸一郎が登場するまでは「先生」や「真ちゃん」、「お父さん」という呼ばれ方をしているので、「真ちゃん」でピンとこない限りは気づけないようになっていたんだと思う。

その他の感想

この公演は写真館が題材となっているので、もらったパンフレットに出演者さんたちの幼少期の写真が載っていた。これも面白いなぁと思った。
あとプロフィールも載っているのだが、作中で通販番組をしている青山雅子を演じた小笠原さんの主な出演作にタローマンって書いてあって滅茶苦茶びっくりした。ググってみたらマミ隊員を演じられていた方だった。まさかあのタローマンに出演されていた方をあんなに間近で見られるとは。ちょっとタローマンの円盤見返してくる。

あと、終盤に正一郎が空手の大会に出るシーンがある。
このシーンでの音の響き方が体育館の中の響き方そのものだと感じられたのだが、あれはどうやっているのか物凄く気になった。
自分の想像力か何かで補正がかかっている可能性も否めないが、確実に他のシーンとは音の響き方が違った。

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