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変えてはいけないこと、変わらなければいけないこと

信州・松本の森には、寒い冬に耐える赤松や唐松といった木が多く植えられてきました。その木を切って、運び出し、製材所に渡す「素材生産」の仕事を続けてきたのが株式会社柳沢林業。代表取締役の原薫さんに、信州の林業の仕事と、これからの未来について聞きました。

これまでを振り返り、山作りを問いなおす

今井 これからの木材の使われ方について聞かせてください。原さんはこれから木の使われ方はどうなっていくと思われますか。

原 私は今(森に)ある木を、なるべく活かしたいなと考えて工夫しているわけです。日本ではこれまで、あらゆる場所にスギやヒノキといった同じ樹種が植えられてきました。そしてその木が成長したにも関わらず、使われていない現状があります。でも逆に今の森を見ると、どこに植えてはいけなかったのか、あるいはどこに植えたらすごく成長する、ということが分かると思います。木が使われなかったことにも意味があると思うんです。
 木が成長してきたいま、「またどんどん使いましょう」「林業成長産業化」「木の街を作りましょう」という動きなんですけど、それは大事なことですが、山を作るという観点からすると、もう一度同じ木ばかりが植えられたことによってどんなことが起きて、どんなことを今後に生かさなきゃいけないのか検証すべきだと思ってるんです。
 人間の都合だけで山を作り変えてしまったことは反省しなきゃいけないと思っています。山にはほかの生き物もいますし、災害も起きます。じゃあこれからはどんな山作りをしていこうか。私は、山にはそこに合っている木が生えてくるはずなので、だた同じように木を植えるのではなく、多様性を考えながらその土地に合ったものを育てていく山作りもやっぱしていくべきじゃないかなと思っています。

村上 検証するにしても、一つの山だけはダメで、日本全国の山も検証しなきゃいけないでしょう。もっと木を使いましょうということも含めて、一人ではなく全体で考えなきゃいけない未来になると予想されているのでしょうか。

原 林野庁が考えるのはやっぱり国の政策なのでマスで物事を考えなきゃいけません。ただ、日本ってこんなに小さい国でありながら、ものすごく多様なんです。北海道から沖縄まで同じところは一つとしてないぐらい。だから私はそれぞれの地域にあった山づくり、山の活かし方、木の活かし方をもっとしていった方がいいんじゃないかと思います。その土地をよく知る人が、自分の思いで作られる山があることが大事なんじゃないかな。それが自ずと多様性になると思います。こうじゃなきゃいけないってことは多分ないと思うんです。国の政策で一斉にスギ、ヒノキ、唐松が植えられちゃったというのは事実としてあるので、そこから出発しなきゃいけないんですけど、それを経てこれからどんな山作りをしていくかです。
私たちは唐松も否定していないです。去年、一昨年植えたところは、山主さんに理解いただいた上で、ここはもう一度から唐松を植えませんかという提案をして植えたんです。 ただそこは唐松だけを育てるこれまでのやり方を踏襲せずに、間に生えてきた広葉樹も高木性になるものは唐松と一緒に育てようかなと思ってます。ある時期にどっちを切ったらいいんだろうということを見極めなければなりません。唐松という木は必ず真っ直ぐ育ってくれるので、その間に生えてきた広葉樹も同じように光を求めて上に空間を目指すので、まっすぐ育ってくれるんです。それは材木としての価値も出てくる広葉樹になります。
広葉樹だけを育てると結構難しいんですけど、唐松と混交させていく中で、唐松もいいものは残しつつ、広葉樹もまっすぐ伸びてくれたものは残しながら、しかも多様な山作りになっていくので、そんなことをこれから生きている限り見届けていきたいなと思っています。

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次世代の担い手たち

今井 植林にも多様性が出ると、日本各地の山の風景も多様になりそうですね。ところで山の仕事の担い手という点では、いまはどんな状況なんでしょうか。

原 全体的には林業の従事者はかなり減ってきてはいるんですけれども、若い人たちからのアプローチはむしろ増えていると感じています。

村上 若い人というのは、もともと近くに住んでいた人なんですか。それとも全くこれまで木と触れていなかったけども興味を持った方なんでしょうか。

原 うちの社員が今、正社員は25名ぐらいいるんですけど、そのうちの地元出身の人は10人ぐらい。残りがIターン。お父さんとかおじいちゃんが同じような仕事をしてたとかっていうわけではない人たちですね、地元であっても。

村上 その人達は、林業のどういうところが面白いと思って関わっているんですか。

原 私もそうなんですけど、結構お勉強をしてくるので、環境に対して何か自分ができることがないか、あるいは山が荒れてるのを地元の人だったら普段から目にするので、それを何とかしたいと考えてくる人が最近は多いですね。
山の中に入って林業の仕事はしたいんだけれども、私たちはそれを売らないとお金にならないわけです。補助金があるから何とかなるというのもありますが、本当は生業とするならば木を売らなきゃいけないんです。木を売るためには材木のことを知らないといけない。でもそこに興味がないのをどうしていくかが、会社の中でも難しかったりします。

村上 昔はすごくたくさんいらっしゃったと思うんですが、木材のベテランは今もいらっしゃるんですか。

原 なかなかいないですね。でも今後の人材育成の中で、材木をお客さんに届けるまでの過程だとか、お客さんが何に喜びを感じてくれるのか、どんなことを求めているのか、そこを知ってもらう機会を作らなきゃいけないと思ってます。
あの、社員が家を建てたのですが、あまり木材を使ってくれるようなお家ではなかったんです・・・。まず自分たちがその良さを知らなきゃいけないと思うので、これは将来の夢ですけど、なるべく遠くないところで社屋を建てたいなと思ってます。

村上 若い人たちも興味は持ってくれてはいるものの、実際、木を知ってる人から学ぶ機会というかノウハウというか、持っていた知恵みたいなものが、途切れちゃうかもしれないという危機感を原さんはお持ちということですか。

原 私は材木屋の職人さんから林業の世界に興味を持って、そこにはまった過去があるので、材木としての木もすごく好きです。やっぱり人間は本来、自然の一部であったからだと思うんですけど、そういうものが心地いいと感じるんだろうなと思うんです。

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村上 今の話を伺いながらふと思い出したのが、宇宙ステーションってロシア流というものと、アメリカ流みたいな設計哲学みたいな大きな二つがくっついている「宇宙のお家」なんですよ。宇宙って厳しい環境なので、どんな国が作ったって結局似たようなものになっちゃうと思いきや、かなりロシア流とアメリカ流は違うんです。ロシアは内装材に昔から結構、木を使ってるんです。アメリカの方は火災の原因になるものを徹底的に排除していくから木材なんか入るわけがないんです。まあ、これは聞いた話ですけど、ロシアの宇宙飛行士は能力がある人たちだと。でも宇宙に行くと当然ストレスもかかるし、すごい宇宙飛行士であったとしても実力が発揮できない。でも実力さえ発揮できれば火事ぐらい消せるよ、ということらしいんです。ようするに火事を起こさないためにどうにかするのではなく、火事を消せる実力がある人たちの能力をいかに100に近づけるかということのようです。やっぱり快適にするとか、空間も木材だよねみたいな感じの、そこまではっきり書いてあるわけではないんですけど、どうもそういう哲学があるように僕には見えるんです。 西洋的な分析からすると、ちょっと不思議だなといつも思ってるんですが、原さんのお話を伺って、やっぱり本当にそうなんじゃないかなって思いましたね。

原 村上さんが設計されたとして、どうされますか。

村上 与えられたホテルに住むとかじゃなくて、一緒に自分達も作る人であり、住む人であり、考える人でありっていうところを依存させたくないんです。そういう意味では組みやすさ、ばらしやすさ、あるいは直しやすさ、あとは慣れているという点で、日本人がたくさん行くんであれば少なくとも木にもうちょっとなじんでいるよねという考え方なのかなって思います。

原 いまはショップボットっていう3 D プリンターの木材版があって、誰でも自分で設計したものを木にすることができるものも出てきています。木材の世界とか自然素材というと、やっぱり熟練の人たちが必要だというところもありますが、それがなくなることがいいのか悪いのかみたいな議論も起きたりするんです。老舗が残っている理由は、変えてはいけない部分と、変わり続けたことの結果だと言われたりしますが、たしかに変わらなきゃいけないこともあると思うんです。変わることを受け入れるというか。まさに木は動けないがために、そこで適応して捻れたりするわけですけど、そういうふうに抗わずに受け入れて行かなきゃいけないことも大事なのかなって思ったりもするんです。


村上 原さんの話を伺っていて、木の話を今してるんですけど、この構図っていろんなところにもあるよなと思わせてくれました。また木の寿命の長さが、こうやっていろんなところに繋いでくれる。それが良い悪いとかの話じゃなくて、やっぱり木ってすごく長く生きてるんだなーって改めて感じました。 
(文・ネイティブ編集長今井尚、写真提供・吉田亮人)

次回のおしらせ

長野県松本市の柳沢林業・代表取締役の原薫さんに、信州の山で先人たちが育ててくれた唐松、赤松といった木を届ける仕事について聞きく最終回。最後は原さんがどうして林業の道に進んだのか、これまでの経緯についてもたっぷり伺います。お楽しみに!

The best is yet to be!

すぐに聞く

ラジオネイティブ「変えてはいけないこと、変わらなければいけないこと」 は こちら から聞けます。

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