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引き継ぐことと、受け継ぐことの意味

後輩を安心させる言葉ってなんだろう

今井 前回は「変化し続けていくステージ」がキーワードとして出てきましたけど、私は、もう一つ別の質問を村上さんにしてみたいなと思っています。今回の、例えばしまなみ学校のがってんさんが辻亮多さんに見せた、背中の見せ方みたいなところなんです。フタバの安部さんは、いりこの職人さんに自ら学んでいたと思いますが、その背中の見せ方も違ったと思うし、日本トーカンパッケージの佐藤さんは一丸さんの先輩にあたるうえ、佐藤さんご自身もこれまでのキャリアの中で先輩から学んできたスタイルが二つぐらいあったっていう話もされていました。一丸さん自身も佐藤さんの姿を見ながら働いてらっしゃった。それぞれ学ばせ方も違うし、学び方も違ったと思うんですけれども、このあたりで村上さん、何か感じられることはあったでしょうか?

村上 いやあ、難しい質問ですね……。教えるとか伝えるとかですが、僕も例えば南極観測隊にいたりとか、極地の経験をしてきたり、南極以外の火星のミッションとかで伝えるときに、初めての方たちにどう伝えるかというときに、そもそも僕自身もまだ伝える立場になっているのか?みたいな悩みを常に抱えていたりします。でもいつの間にか何か教えなきゃいけない立場になっちゃう。そしてオロオロする、というのが現実なのかなっていう気がするんです。出ていただいた皆さんは、伝わるっていうのと、自ら背中を読み解くみたいなのがありました。これは僕自身の大きなテーマだなと思うんですけど、一方で、大前提として、その世界に長く腰を落ち着けているというか、ある種、腹をくくってその世界にずっといる方々のような気がする。もしかしたら意外と本人はいつでもやめられると思ってるのかもしれないけど、「長い時間」を前提に話してる気がするんです。そう思ったときに伝えるっていう文脈だけで考えると、何か焦らなくていいのかなっていう気が少しするんですよ。

 僕の経験になっちゃうんですけど、南極観測隊の50次隊っていう隊で行ってたときに、次の51次隊が来て、1ヶ月ぐらい引き継ぎがあるんですよ。一緒に生活しながら教える側になるんですけど、自分が苦労してきた分、今後いろんな季節が過ぎていく中でいろんなことが起きるってのがあるわけです。それを自分がいる間に伝えて残しておかないとという焦りが自分にはあるわけです。でも逆に、伝えられる側からしたら、まだ起きてもないことに僕が焦っていたり、ピリピリしていても、それは単なる分断にしかならない気がするんです。
 だから伝えるための時間が短いなって思うし、でもそのなかで伝えなきゃいけないって、やっぱりすごく難しいことです。それを回避するっていう意味ではないんですけど、もうその人にじっくり染み渡っていくようなケースであるとか、自分自身も教科書を読んでるんじゃなくて、自分の言葉をちゃんと紡いでるっていう意識を持つのは、時間がかかるよなって思うところがあるし、だからこそ伝わるんだよなって思います。長く続いてる世界には、そういう時間の感覚がすごく大事なんじゃないかなって思ったりもします。


今井 そうですね。がってんさんのお話のなかで「ドカンと行けば大丈夫」っておっしゃっていたと思うんですが、これは「焦らなくてもいいからとにかくやってみろ、最後はフォローするから」みたいな意味だったと思うんですが、とにかくまずやってみなさいと、やらせてもらえることが、ひとつ安心感を与えるのかなと思いました。
ネイティブのこのシリーズでも、かなり前の方の振り返りになってしまうんですけれども、カンボジアの仏像がある村の話をしたと思うんですけど、あの仏像と同じようにドカンと落ち着いて、長くそこに居座っているような存在が、すごく次の人にとってよりどころとなっているのかななんて私はちょっと感じました。

村上 そうですよね。フィールドに出るのはやっぱり計算通りには行かないし、だからこそ方位磁石みたいなものや、人という存在であるとか、変わらない風景なのかもしれないですけど、いつも通りのものがあるっていうのは、心の根っこの部分ではやっぱりすごい大事な存在なのかなっていうのは、そう思いますね。人ならなおさらのことですよね、人と実際に伝えてくれる安心感のある言葉。
いや~そう言いながら、自分はその言葉を発せてないなって気持ちになりますけど・笑

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チームでステージに立ち続ける

村上 これまで話していたのは教える側、伝える側だと思うんですけど、逆に引き継ぐ側にも、何かそこには教えられる側の持つドーンとした安定感が必要な気が僕はするんです。というのも僕が伝える側になったときに、時間があれば、真剣に伝えたいことっていっぱいあるんですが、でも、なんか言いすぎると意味わかんないだろうなと思う瞬間がいくつもあるし、自分がいくら真剣にヒートアップして言ったとしても(そこは僕の修行でもあるんですけど)、逆に引かれちゃって去っていっちゃったりとか、そういうことも頭によぎるんですよ。そうなったときに、伝える伝わるってキャッチボールだと思うので、新たにその世界を教えてもらう人にも、何かしら知らないなら知らないなりの、何か安定感みたいなのって必要なんじゃないかなと思うところがあるんですよね。

今井 なるほど。自分も駆け出しの記者だったころ、いろんな先輩に出会うわけなんですけれども、たとえば先輩が5人いれば、多分全員言うことは違うわけですよね。矛盾するじゃんっていうことも結構あるわけです。そういうときに、全部をそのまま受け入れるというよりは、その中で、受ける側は共感する部分だけをストックして、やっぱり共感できないところは、受け流す力っていうのも、どこかで必要なのかなって感じることはありますね。

村上 うん。がってんさんが言ってたと思うんですけど、まず自分の身は自分で守れなきゃ駄目よと。そこさえできればフィールドに立って、いろいろ学びなさい。でもそこの線引きは、駄目ならもうあんた死ぬよみたいな感じで結構厳しかったですって、(弟子であった)辻さんが言ってたと思うんですけど、そういう部分があるような気がするんですよね。
その世界に入っていくときに、前回は「ステージ」というキーワードが出ましたけど、ステージに立ったときに、ステージではもう間違えましたっていってもNGとかできないと思うんですよね。だから間違えようが何をしようが、アドリブでも何でも自分の身は自分でまず守るし、それがあるからこそ周りも、こういう状況なのかっていって何かしら経験でもって手助けができるのかも知れないですが、でもやっぱり基本はステージに立つ場合、新人さんであろうとベテランであろうと、ステージはステージですから、そこの聖域っていうとこに対して最後は自分の力で立つ必要がある気がするんですよね。

今井 そうですね。私は、例えばフタバさんの話の中で、いりこに関するベテランの職人さんがいるんだけれども、気候変動とかで、脂肪分がこれまででは考えられないくらい低いものも出てきていて、それにすごく高脂肪のものを混ぜて均一化しなければいけないというような話がありました。多分おそらくベテランの人たちにとってもこれまで想定できなかったような事態も出てきて、どんどん変わってきてると思うし、ベテランの人にとっても常にチャレンジだと思うんです。
教える側、教えられる側っていうのは多分あるんでしょうけれども、実はその教える側も常に進化し続けていっているところを見落としちゃいけないのかなって感じました。

商品

村上 そうですよね。あと経験を積むっていう世界だけではなくて、環境っていうものがあると、そこには体力であるとか、あるいは精神力とか集中力みたいなものも絶対付随してくると思うんですね。
長くやっていけば、いいことばっかりじゃなくて、毎日同じものを見ていると、鈍感になっていくってこともあると思うんです。そうなってくると、必ずしもそのベテランがいいかって言ったら、ベテランも違う意味で苦しんだりするフェーズがあるような気がしてるし、初めて見た人の方が新鮮で、何のフィルターやバイアスもなくて、初めての状態を見られるっていうのはポジティブな要素だと思うし、若ければやっぱり体力も充実してると思うんですよね。そういった中でいえば、それぞれの人がそれぞれの時代の中で、己の心や体に向き合いながら、その中で何とか、1人でやるんじゃなくて、新しい人たちも来る人たちも一緒になって、同じステージに立つことを模索してる状態なのかなと思います。そういった意味では、このネイティブのような長く続いている世界って、やっぱりそこにうまく付き合ってる感じがするんですよね。
そこには無駄も多いんだと思うんですけど、日本トーカンパッケージの佐藤さんが、いろいろやってみなさいとかっていう話をしてたけど、それが実際商品になるかどうかではなくて、その見本品やテスト品がたくさんどんどんどんどん出ちゃっても、それを通して育成みたいなのに繋がってくるからという話をされてたと思うんですけど、やっぱり「無駄だけど無駄じゃない世界」がちゃんと残っていってるっていうのが、チームとして長く続いていく秘訣なのかなと思いますね。

(文 ネイティブ編集長・今井尚、写真提供 辻亮多さん、日本トーカンパッケージ、フタバ)

次回のおしらせ

次回から再びゲストをお呼びして、長く暮らしをつなぎ続けるネイティブとは何かに迫っていきます。お呼びするのは、山岳を専門とするドキュメンタリーフォトグラファーでありながら、ネパールでアウトドア用のバッグなどをつくるブランドも立ち上げている門谷 "JUMBO" 優さんです。なぜネパールでアウトドアバッグをつくるのかというお話を通して、ネパールの抱える問題や、門谷さんの向き合い方を聞きました。お楽しみに!

The best is yet to be!

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