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積み重ねたノウハウと技術で「包む」。知られざる段ボール包装の世界

入れるだけでなく、機能や保護も担う段ボール

今井 前回まで日本トーカンパッケージで開発センター長されている佐藤康博さんから段ボールについての話を伺ってきました。段ボール箱の基本のキにあたる「3枚の紙で出来てる」といったお話からうかがってきましたが、私が一番印象に残ってるのは「やさしい」というキーワードでした。いい段ボールってどういう箱ですかと伺った時に、商品をやさしく包みこむということはもちろんですし、開けやすかったりっていうお客さんに対するやさしさもあるし、それからその段ボール箱や梱包する機械を作ったり、機械を設計する人と人との関係みたいなことも含めて、全てにおいてやさしさを持つことがいい箱を作ることにつながっていくんだっていう話がすごく印象に残りました。
 今回からも日本トーカンパッケージから一丸欣司さんにお越しいただくんですけれども、一丸さん、佐藤さんとはどういうお仕事を一緒にされているんでしょうか。

一丸 佐藤は私の職場の直属の上司で、段ボールのパッケージの設計開発を一緒にさせていただいています。

村上 佐藤さんから一丸さんのことを「右腕みたいな人だ」ってご紹介いただいたんですけど、それを聞いてどうですか。

一丸 あの恐縮ですね。そんな存在になってるとはまだ思いません。佐藤のスピードには全然ついていけないんで、まだまだこれからだなと思います。

今井 普段はどういったお仕事をされてるんでしょうか。

一丸 私は段ボール箱の形とか、大きさとか、そういったことを考えることを「包装設計」って言うんですけれども、そういう仕事をさせて頂いてます。みなさん商品とか色々手にされると、必ず最初は段ボール箱で手に届くんじゃないかなと思います。そういったものを私たちの方で考えさせていただいている仕事になります。

村上 いろんな荷物が来て、箱そのものだけじゃなくて、商品が綺麗に段ボールにつまっていてすごいなーって思うことや、箱を開けるときにピーってテープで開いて、そのままパカパカっと開いていくのとかあって、いろんな工夫がきりがないなとおもいますが、そういったところもやられてたりするんですか。

一丸 そうですね。昔は単純に商品が梱包されて包まれている、段ボール箱ってそういうものだったんですけども、やはり今はそういった機能性であったり保護性といったところについてもいろいろ注目されているんじゃないかなと思います。

村上 段ボールの会社の中でお仕事されてる中で、一丸さん設計が一番メインなのかなって思うんですけど、社内でいうと設計を担当されてる人って何パーセントぐらいなんでしょうか。

一丸 そうですね、我々の会社で行くと従業員は1000名を超えるような従業員数なんですが、当然1割も満たないような人数ですね。今、包装技術という私の部隊なんですけれども、全国合わせて30名弱の技術者が全国で同じような仕事してるような環境です。

村上 30名の方で、一年間の間、どれぐらいの箱の設計をされるんですか。

一丸 お客様から依頼をいただくのは、社内の営業担当がお客様からそういう商談を頂いて、我々と技術者にその話がインプットされるわけなんですけれども、段ボールの決まった形もありますので、いわゆる見本を作ることや、あるいは包装設計を含めた依頼の件数で言うと、今私がいる包装開発センターの一部の部隊ですけども、月に150件から180件ぐらいのご依頼を頂いて、その中にいろんな機能性を持たせるような包装設計があるというような、そんな状況かと思います。

村上 なるほど。そう考えると結構スピード感として、その週にもう一つ二つ、同時に案件を進めながらといった感じですか。

一丸 おっしゃる通りです。一人の技術者が同時並行的に設計をこなしていく、そんな環境が日常的かなと思います。

設計事例2


半年がかりの箱設計も


今井 これまで作った箱の中でいろいろな困難もあったんじゃないかなと思います。最近の仕事の中でも、一番工夫が必要だったなって思う案件といえばどういうものがあったでしょうか。

一丸 私自身は今、日々のご依頼案件の包装設計といったところに多く携わってるわけではないんですが、同じ職場の技術者と一緒に最近携わったものでいうと、ある画像を記録するような精密機器があったんですけれども、ちょっとやはりシビアな設計が必要なんです。その開発にはすごく時間を要しているなと思ってます。そうですね、もう半年以上かかってるような案件でした。

村上 半年間というのはテストが多いんですか。

一丸 そうですね。そのテストに行くまでに、やはりお客様の中で、テストを実施するに値するかといったところですね。いろんな緩衝材をダンボールで考えるんですけれども、その構造であったり、商品を固定する位置や硬さであったり、そんなところがお客様の技術ノウハウの中で分析されますので、そのレベルに到達するかしないかっていったところに、すごく時間を要しているような、そんな感じだと思います。

村上 設計の流れとしては、どんな感じで完成までたどり着くんですか

一丸 はい、これは直近の事例ではないんですが、私が過去に携わった商品で行くと、一時期、発泡スチロールで梱包されたものをダンボールに置き換える流れがすごく盛んになった時期があったんですけれども、発砲スチロールの緩衝性と、段ボールでの緩衝性は、やはり全然能力的には違いますので、トライアンドエラーで、お客様も我々もそういうデータの蓄積がなかった時代でしたので、形を作っては強度的に問題ないかというテストを繰り返して、最終形に仕上げていく、そんな流れがありました。

村上 緩衝材を発泡スチロールから紙の段ボールにって、単純に考えると段ボールって厚いものでも5 mm とか8 mm とかなので、重ねていくのか、それも切り込みを入れてプラスのようにしてボリュームを取るのかとか、いろんなのがあると思うんですけど、置き換える作業はどう解決していったんですか。

一丸 そうですね。3枚の紙が張り合わされて一つの段ボールシートになるんですけれども、厚みの違いであったり、原紙自体の厚みの違いとか色々あって、用途があるんですね。商品が重量物であれば、厚みのあるものを積み重ねといいますか積層をしてクッション材にすることもありますし、いわゆる段ボールのなみなみを垂直方向に向けるのが一番強度を発揮するんですけども、そういう使い方をする事が一つとか、先ほどお話しさせていただいた通りすごくを精密な商品についてはダンボール自体を積層であったり段目で受けてしまうと言ったことではダメになってしまいますので、箱状といいますか、空間を持たせるような緩衝材を考える、そんな内容かもしれません。ちょっとイメージしづらいかもしれませんけども。

村上 段ボールって、どうしても変更が効かない所って、そんな並み目の方向で随分強度が違うって、素人的にはすごくよく分かるんですけど、今一丸さんの言葉から、その違いがかなり大きいなと。段ボールのポテンシャルでもあるけど、そこを組み合わせるのがやっぱり大変なんですかね。

一丸 はい。村上さんから言葉にしていただいてすごく嬉しいんですけど、そこの難しさですね。梱包設計の中にも緩衝設計っていう仕事があるんですけども、それを得意とする技術者と、いろんな機能的なところを得意とする技術者がいるんですけれども、私は長く緩衝設計に軸足をおいていましたので、断面の使い方、厚みの使い方、そんなところは経験値の中でいろんなノウハウを積み上げてこれたんじゃないかなと思います。

村上 なるほど。あとさらに難しいなって思うのは包まなきゃいけないものが段ボールの厚みより大きいわけですよね。ようは積層だけだったら材料がすごくたくさんになっちゃうし、ある意味、無駄だったりとか、運ぶ時にそれが重量にも変わっていくと思うんですよね。削らなきゃいけないみたいなところも、やっぱりせめぎ合いになっていくんですかね。

一丸 はい。おっしゃる通りです。いたずらに段ボールの使用量を増やすわけにはいかないんですね。やはり資材ですから当然、コストとのバランスもありますし、いかに少ない材料で要求される強度を発揮させるかといったところが技術者の腕の見せ所なんじゃないかなと思いますね。

村上 僕は多少ちょっとかじってるので、なんか一丸さんが苦労されているポイントとかも多少は想像していましたが、今井さんはどうですか。お話を伺って。

今井 商品そのものじゃないところに半年も時間をかけて開発をしている人がいるっていうこと自体がまずおそろきですし、最後「コスト」と言われてしまうところも少しちょっと悲しさも感じるんですけれども、それがないと商品が結局届かないわけなので、自分の気づかないところにそんな技術が使われているということに本当に驚きました。
(文 ネイティブ編集長・今井尚、写真提供 日本トーカンパッケージ)

次回のおしらせ


次回も段ボール箱や、紙で作られる容器などの開発をする日本トーカンパッケージえ段ボール箱の開発をする一丸欣司さんに登場いただきます。一つの箱ができるまでに経る過程や工夫、開発の難しさなどを聞きます。お楽しみに。

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