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モノにも人にも「やさしい段ボール箱」とは


段ボールの声を聞くエンジニア

今井 前回まで段ボールができる工程について教えていただきましたが、今回は段ボールづくりにかかわる人、技術者にはどんな方々がいるか、うかがえますか。

佐藤 我々の包装開発センターには、物を作る人よりも、箱を開発する人たちがいます。

村上 開発というのはデザインだったり、テストや検証ということですか。

佐藤 箱ですので、デザインもそうですが、その箱に強度が出るかテストをする人とか、そういう事をやってる人もいます。また私たちのつくった箱をお客様で使ってもらうための機械を作っている部隊もいます。

村上 機械というのは?

佐藤 うちで作ったシートに中身を入れるために箱をつくる「製函
機」と呼んでいますが、そういう機械をつくったりだとか、出来上がった箱に中身を入れる機械、中身が入った状態からふたをする機械もうちで作ったりするんです。

村上 機械設計の方が多いと思うんですが、こういうところに目が効くだとか、どういった方が向いているんでしょうか。

佐藤 そうですね。特殊な能力はいらないのですが、我々は段ボールメーカーですから「段ボールの声が聞こえる」エンジニアがいいですね。

村上 段ボールの声ですか

佐藤 はい。要するに、どのように段ボールを折りたためば段ボールにとってやさしいか、プラス、中身にとってもやさしいか。そういうところがわかる技術者がいいですね。

村上 「やさしい」ですか。まさか段ボールをつくる過程で「やさしい」なんていうキーワードが出るなんて思わなかったです。逆に、やさしくない技術者が機械をつくると、どうなってしまうんですか。

佐藤 段ボールって、折れるところで折れてほしい、という望みがあるんです。それに対してなにも考慮しない人、つまりやさしくない人が機械や箱をつくると、それはやさしくないものになるんです。やはり、いかにナチュラルに包んでいくかというのが、一番求められるやさしさかなって思っているんです。

村上 なるほど。たとえば使い終わった段ボールを捨てるときに折るじゃないですか。そのとき、ここで折ろうと思っていても別の部分が折れてしまうことってあるじゃないですか。みなさん経験があると思うんですが、それは段ボールがわかっていないということなんですね。


佐藤 そうですね。たとえばなみなみに対して垂直に折るか、平行に折るかで違いますよね。

村上 なみなみの方向はすごく大事なんですね。

佐藤 そうですね。

村上 箱を見たとき、なみなみはどういう方向に入っているんですか。それで強度が変わるわけですよね。

佐藤 はい。基本的に、縦方向になみなみがくるほうが強いです。なみなみが立っている状態ですね。それが一番強い箱ですので、そっち方向にもっていくのが一番いい箱です。

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村上 やさしい開発者さんからすると、箱としての完成品のなみなみの方向と、つつむときの折る方向で、折りたい方向と段ボールの向きの都合でジレンマが出てくることがあるんじゃないかと思うんですが、いかがですか。そのあたりどう解決していくんでしょうか。

佐藤 そういうことあります。折りづらい方向に折る場合は、丁寧に折りぐせがつけられるような設計をするんです。

村上 折りぐせとは。

佐藤 1回で折れない場合、2回で折れるようなスジ=罫線を入れたりと
か、そういうこともします。

村上 機械をつくる人と、折りぐせをどこに入れるかを設計する人は別ですか。

佐藤 はい、うちでは別のチームが行います。お互いに話をしながら、「いやいや、ここでは折れないからもうちょっと折れるような箱にして」と機械側の人がいうと、箱をつくる人は「そうだよね、じゃあここはこうするから、そのかわりここは機械でやさしく折ってね」とか、そういうやりとりをしながら箱も機械も作っていく、そんなイメージです。

村上 こうしたいという思いは、機械側の人も、箱を作る側の人もあると思うんですけど、共通してこれだけは避けなければいけない、という一致点はあるんですか。

佐藤 避けなければならないのは、箱にしないという方向に行っちゃだめですね。箱にするんです。あくまで。

村上 すごく深い言葉のような気がします・笑

ジャストフィットの追求

今井 佐藤さんにとって「これはよくできたな」と思う箱ってどんな箱ですか。

佐藤 いい箱ですか…、ジャストフィットですかね、一言でいうと。

村上 ジャストフィットですか。

佐藤 ひとつは内容物に対してジャストフィットです。またその箱たちが積まれたときに、パレットの上にきれいに積まれていると、これもまたジャストフィットです。そういう意味では一つに対してだけじゃないんです。いろんなものに対してジャストフィットするのが、うれしい箱ですね。

村上 ジャストフィットの箱を作りたいという理想に対するハードルになってくるような課題って、どういうものがありますか。

佐藤 そうですね。中身的なところでいうと、どう見ても箱には入らなさそうなものですね。箱ってどちらかというと、四角いもののほうが入れやすいですよね。それが、例えば外径がジグザグしているようなものだと、それを箱に入れるのはすごく難しいです。手でつくる分にはどんな形の箱も作れますが、機械で箱をつくるとなると、やはり制約が出るんです。その制約の中で、このジグザグをどうやってやっつけるか、それが悩ましいところですね。

村上 そうですね。でも世の中にある製品は、たとえば掃除機ひとつとっても、細いところもあれば太いところもあるので、そういうところに合わせなければいけないということですね。

佐藤 そうです。だから箱を設計する人間から言うと、やんちゃなガタガタのものを自分の箱の中でうまく収められた時には、めちゃくちゃ達成感が得られます。

村上 佐藤さんはセンター長ですので、この箱はよくできたねというとき、どういうほめかたと、どういうポイントを見ているんでしょうか。

佐藤 うならせる箱ってありますね。「え、ここをこういうふうに折ったから、うまく収まったんだね」みたいな。ぼくは設計ではなく見る立場ですから、そんな箱が出てきた日には「すごいな…」と感動してしまいますね。
ひと工夫があるんです。ここにこれが来るのかとか。うまく説明できないんですが・・・
ようするに、くみあわせが絶妙なんです。

村上 僕が気になるのは、段ボール箱は量産するケースが多いと思うんですが、そこでも少し変わってくると思うんです。一つならこうつくるけど、量産を考えると違うとか。

佐藤 アプローチとしては、まずは形にするところから始めるんです。形になった時点で、では今度、どうやって量産しようかということを考え始めるんです。なので、小さなテスト品を何度か重ねていって、形になるということをやっていたりします。そのなかでは1ミリ刻みでサイズを変えてみたりだとか、そういうことを重ねていくんです。

村上 ちょっと変なたとえですが、試作品がたくさんできるということはそこに工数がたくさんかかるし、時間もかかると思います。そこはあまりかからない方がスマートなのかなとも思うんですが、一方で、ジャストフィットを求めていくとエンドレスでもあると思います。そういう意味では試作品が多ければ多いほどいいのかもしれないし、そのあたりはどうですか。

佐藤 私からすると、最終的には一つに決まるんですが、その過程というのは、その製品のためだけじゃないんですね、実は。今回こんなことをやっていたから次に生きてくることもあるので、その体験というのは非常に重要だと思っています。

村上 なるほど、では先ほどのガタガタのような製品は、どんとこいと、そういうことですね。

佐藤 そうですね。

(文 ネイティブ編集長・今井尚、写真提供 日本トーカンパッケージ)


次回のおしらせ

あらゆる商品をつつんで、運び、届けるのに使われる段ボール箱。その開発をしている日本トーカンパッケージの包装開発センター長、佐藤康博さんに登場いただきます。使い終われば捨てられてしまう脇役ながら、なくてはならない大切な存在ですが、どんな思いで箱を作っているのでしょうか。お楽しみに。

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