反社会的勢力の定義を政府が決めているとしたらどうなるか
7月29日の木原誠二官房副長官の発言でまたメディアが騒いでますが…
金融機関など業界企業の立場になってみよう
政府は反社会的勢力の定義を最初から示していない
「反社会的勢力の定義」についてメディアが騒いだのは2019年の桜を見る会の際の話。「政府の文書中に反社会的勢力が定義されているだろ!それに当てはまる連中が呼ばれてないのか?」という指摘に対して、反社会的勢力の定義は困難とする閣議決定(質問主意書に対する政府答弁書なので必然的に閣議決定になる)が為されました。
このときに以下まとめていました。
①文書の中での位置づけが定義文とみることは困難
②桜を見る会問題の前にも内閣官房は定義困難と認識していた
③金融庁の平成25年答弁も「反社会的勢力の統一的な定義は困難」
④業界団体(みずほ銀行)も政府の文書中の説明は定義ではないと認識
⑤「経済的利益を追求する」が一般的定義として存在していたらまずい
⑥実際に政府文書中の説明では把握が困難な形態の組織があるとして独自の基準を設けている企業もある
細かい話は上掲記事で書いてますが、ここでは⑤⑥に関連した内容を書きます。
金融機関等各業界において反社組織の該当性判断は行われている
平成25年のみずほ銀行の不祥事に関する検証委員会の記述ですが、反社組織該当性判断は各業界にゆだねられている、それは政府指針でもあるし、そうせざるを得ない、と書いています。
もっとも、「異なる企業間での「反社会的勢力」情報の取扱いの相違も解消されず、容易に情報を共有する態勢の構築が進むとみることも困難と思われる。」とも書いているように、反社会的勢力の定義が各業界乃至は各企業においてバラバラになることのデメリットも意識されています。
みずほ銀行は反社会的勢力の定義に「暴力団員等が経営を支配していると認められる関係を有する者などのいわゆる共生者」を追加することなどを内容とする改正を行っています。https://www.mizuhobank.co.jp/release/2013/pdf/news131028.pdf
反社会的勢力の定義をすると規制逃れが横行、政府定義では対象外となる組織が多すぎることに
よく言われるのが、政府レベルで定義をしてしまうと、その定義に該当しないようにして様々な手口が行われ、規制の実効性がなくなるというもの。
そして、政府の指針にある記述が定義だとすると本質的な問題が生じます。
政府指針の文言を確認します。
「経済的利益を追求する」という文言、これは反社組織の典型例であり特徴であるとは言えますが、これが定義でよいんでしょうか?
必ずしも経済的な利益を追求しないような組織、たとえば一定の権利能力なき社団・一般社団法人・NPO法人については、この要件があるだけで反社認定の対象外になります(そんな組織が法人認証を受けていることの問題は措いておく)。
確かに経済的な利益を生んでない組織に対して反社会的勢力と認定して種々の制限をかける実益があるのかどうか、という問題が出てくるかもしれませんが、実際には朝鮮総連という最大の権利能力なき社団があります。
こうした組織が、現在も公安調査庁の調査対象団体となっています。
他にもたとえば「違法薬物の使用を愛好しているサークル(団体名は別)」なんかは、「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求」ではないでしょう。
ここまでくれば、【政府の指針にある説明が定義だとすれば対象外となる組織が多すぎる】ことに気づくでしょう。
金融機関とは異なる業界の雇用にあたって「反社会的勢力に属していない・親族も関係者ではないこと」という条件がある世界があったとしましょう(大手警備会社などは実家に電話して確認するなど厳しく見られることがある)。このような場合に「経済的利益を追求する組織」というものを要件とする意義は無いですよね?
しかし、「反社会的勢力」という言葉の意味について何もコンセンサスが無ければ、各者の判断が著しくバラバラになってしまう。だからこそ「指針」と言う形で政府が代表的な性質を提示することの意味があると言えます。
実際には、反社組織かどうかはわかりにくく、そのために細かい分析の観点を自ら設定している企業がありますし、ざっくりと「社会の秩序・安定性・公正性・経済活動や国民生活に対して脅威を与えるような勢力」といった表現で反社会的勢力を想定し、そうした組織に利益を与えないようにする、というように広く捉えた方が自らの財産・権利利益を守ることに資すると思います。
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