宮務を政治マターにしている現行皇室典範の位置づけ
政府は国会に安定的な皇位継承策に関する検討結果を報告するが、次期衆院選への影響を考慮し、選挙後に先送りする案が有力だ
はい。
現行法体系上の問題がここに凝縮されています。
【宮務を政治マターにしている現行皇室典範の位置づけによる弊害】です。
政務法体系と宮務法体系
現行憲法の改正前は、大日本帝国憲法を頂点とする政務法体系と皇室典範を頂点とする宮務法体系という整理がなされていました。
大日本帝国憲法と皇室典範は上位下位の関係ではなく、それぞれ独立していました。
このことは改正の方法を見れば分かります。
大日本帝国憲法
第73条 将来此ノ憲法ノ条項ヲ改正スルノ必要アルトキハ勅命ヲ以テ議案ヲ帝国議会ノ議ニ付スヘシ
2 此ノ場合ニ於テ両議院ハ各々其ノ総員三分ノニ以上出席スルニ非サレハ議事ヲ開クコトヲ得ス出席議員三分ノ二以上ノ多数ヲ得ルニ非サレハ改正ノ議決ヲ為スコトヲ得ス
第74条 皇室典範ノ改正ハ帝国議会ノ議ヲ経ルヲ要セス
2 皇室典範ヲ以テ此ノ憲法ノ条規ヲ変更スルコトヲ得ス
旧皇室典範
第六十二条
将来此ノ典範ノ条項ヲ改正シ又ハ増補スヘキノ必要アルニ当テハ皇族会議及枢密顧問ニ諮詢シテ之ヲ勅定スヘシ
関与する機関が違いますよね。
皇室の儀に関する議論が政治マターになっている現行皇室典範
現在、旧皇族の皇籍復帰をするかどうか、女性天皇を認めるかどうか、女性宮家を創設するかどうかが問題になっていますが、この話は皇室典範上の問題です。
本則を変えるか特例法を設けるかという方法論の違いがありますが、いずれにしても「第一義的には」国会の政治家らが決定する話です。
現行皇室典範はその附則に「この法律は、日本国憲法施行の日から、これを施行する」とあるように、「法律」と同じ扱いです。
日本国憲法では、法律の改正(「〇〇法を改正する法律案」という形になる)は第59条で「法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる」と定められています。
現行皇室典範は、形式上、日本国憲法の下位規範の位置づけです。
具体的な事項に関する解釈について日本国憲法と皇室典範が干渉しない関係になっていることは多いのですが、「手続」の場面においてはこのことが深く影響します。
譲位から2年遅れて議論された「皇位の安定的継承」
皇室の儀が政治マターになっているから、選挙に悪影響が出る議題についてはずっと避けられてきた。
悠仁親王殿下ご誕生で議論を止めてしまった政治家たち
上皇陛下が譲位を申し出なかったら、今も議論は進んでなかった。
現在の有識者会議の根拠が「退位特例法の附帯決議」という事実。
「第一義的には」国会の政治家らが決める話になっていると書きましたが、最終的には立法によって皇室会議に権限を委任することが考えられます。
皇室典範
第三十七条 皇室会議は、この法律及び他の法律に基く権限のみを行う。
たとえば、「皇位の安定的継承に関わる皇室典範改正の検討をすすめるための皇室会議の権限に関する法律」みたいなのを作って、そこで議論していただくという方法。(そんなことが可能なのか、という議論が出てこようが、国会が決めるんだからいいだろう。)
もっとも、この方法も問題があります。
皇族会議からは皇族のイニシアティブもプレゼンスも低くなった皇室会議
旧皇室典範の【皇族会議】は、天皇が親臨し、天皇が皇族に議長となるよう命じる権限があり、基本的な構成員は皇族方となっていました。
ところが現行皇室典範の「皇室会議」は、2名の皇族と8名の「臣下」ら(衆参議長・副議長、内閣総理大臣、宮内庁長官、最高裁長官及びその他の最高裁裁判官、)で構成されることとなっています。
上掲記事で指摘していますが、天皇には皇室会議に関わることが許されていません。
皇位の安定的継承にかかわる皇室典範の条項の改正について、国会で決めるのか皇室会議で決めるのかにかかわらず、自身の譲位に関する事柄ではなく、皇室全体の話であるはずなのに、天皇がここに加われないというのは奇妙なことではないでしょうか?
ここで、日本国憲法「第4条 天皇は,この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ,国政に関する権能を有しない」という条項に気づくでしょう。
(流石に「法律」の改正について国事行為でも私的行為でもない公的行為として許されるとはならないだろう)
天皇が関与できないことなのに、皇族2名は関与できるという奇妙な仕組み。
真に皇位の安定的継承を考えるなら、こういう歪みを正していかないといけないでしょう。
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