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【徴用工】韓国裁判所が第三者弁済要件不足で供託不受理:解釈論と手続論の問題

韓国の司法がまた暴走

おさらい:いわゆる「徴用工問題」

いわゆる「徴用工問題」とは…

・朝鮮半島出身の戦時労働者(募集工)が、日本企業における労働が非人道的であったなどとして日本政府や日本企業に賠償を求めた
・1965年の日韓請求権協定によって日本側の責任が問えないようになっているため訴えが排斥されてきた
・しかし、文在寅(ムンジェイン)大統領政権時代の2018年に韓国大法院が日本企業に対して賠償命令を下し、財産差押えが為されてきた
・これは日韓請求権協定に違反する状況
・その後、尹錫悦(ユンソギョル)大統領下の韓国政府が2023年1月12日に、「財団による賠償肩代わり」案を公式表明、韓国政府傘下の「日帝強制動員被害者支援財団」が賠償金を第三者弁済をする目途

こういう話でした。日韓請求権協定の効力に関しては以下。

で、今現在の動きですが…

・賠償金債権者である原告ら4人が財団からの賠償金の受け取りを拒否
・財団が裁判所に供託の手続を申請していた
・ところが、なぜか韓国の複数の地裁が「第三者弁済」の要件充足せずとして供託の申請自体を不受理
・外交部が裁判を受ける権利の侵害だとして怒り

この話は以下でまとめていますが、やはり、「仕方ないことなのかな」と思わせる報道があるので、ここでは別角度から論じていきます。

債権者が第三者弁済を拒めない日本の改正前民法と韓国民法の解釈問題

https://www.moj.go.jp/content/001255632.pdf

日本の改正前の民法の規定では、債務者との合意がなければ、債権者は第三者弁済を拒めないようになっていました。

韓国の現行の民法の第三者弁済の規定は、その日本の改正前民法と全く同じ規定文言です。

日本の改正前民法
第474条①債務の弁済は、第三者もすることができる。ただし、その債務の性質がこれを許さないとき、又は当事者が反対の意思を表示したときは、この限りではない。
②利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。

韓国民法(現行)
第469条(第3者の弁済)①債務の弁済は,第3者もすることができる。但し,債務の性質又は当事者の意思表示により第3者の弁済を許さないときは,この限りではない。
②利害関係を有しない第3者は,債務者の意思に反して弁済をすることができない。

この規定から直ちに導けるかはともかく、日本の場合、「債権者は第三者弁済を拒めない」という解釈が為されてきました。それは本項の冒頭画像にある通り、公権解釈でもありましたし、学説の通説でした。

②当事者の反対の意思の表示 当事者が反対の意思を表示したときは、第三者の弁済が許されない(474条1項但書)。利害関係を有する第三者であっても、同様である。当事者とは、契約であれば当事者双方、単独行為ならその行為者である。この意思表示は、債権発生後であっても、第三者が弁済の提供をする前であれば、することができる(大決昭7・8・10 新聞3456号9頁参照)。したがって、不法行為債権など法定債権でも、債権者と債務者の合意によって、第三者の弁済を禁止することができる

債権総論 第三版 中田裕康 324頁
※民法改正前の版の記述
※※書き方は慎重になっている点に注意

(ⅱ)第三者弁済の効果 第三者弁済が認められる場合、第三者の提供は弁済の提供の効果をもち、債権者は受領を拒絶できず(拒絶すると受領遅滞となる)、債権者が受領すれば債権は消滅する。

債権総論 第三版 中田裕康 326頁
※民法改正前の版の記述

今回の日本企業に対する自称徴用工の原告らが有する債権は、(判決によって確定された)不法行為債権であり契約ではありませんが、仮に日本の改正前民法であれば「債権者と債務者の合意によって、第三者の弁済を禁止することができる。」と同様に考えられるはずということです。

で、韓国の法律は、日本の法律をそのまま写したような規定が多いです。
解釈や運用も似通ったものがあります。

よって、第三者弁済に関しても同様の解釈運用が為されてきたハズです。

日本の場合、法律改正により債権者が拒否すれば第三者弁済ができなくなることが法文上で明確になり、解釈の余地がゼロになりました。債権者が勝手に出て来た第三者と関係を持ちたくない場合(反社会的勢力など)の保護が主な理由です。

が、韓国の場合、未だに「解釈論の問題」になっているということです。
究極的には文言や文理の解釈では決着が付かないところです。

韓国側の報道では、さも「法律に書かれているから第三者弁済ができないのは当然だ」というような論調が生まれかねない報道があります。

強制徴用第三者弁済供託、裁判所で相次ぎブレーキ…韓国外交部「類例ないこと」ⓒ 中央日報/中央日報日本語版2023.07.06 07:21

5日の法曹界によると、光州(クァンジュ)地裁は3日、強制徴用生存被害者である梁錦徳(ヤン・グムドク)さん、李春植(イ・チュンシク)さんに対する日帝強制動員被害者支援財団の賠償金供託申請をそれぞれ不受理と差し戻しとした。財団は日本の被告企業の代わりに賠償金を弁済するための手続きを進めた。梁さんの件は「当事者の意思表示により第三者の弁済を許容しない時には第三者は債務を弁済できない」という民法第469条が、李さんの件は書類不備などがそれぞれ不受理と差し戻しの根拠だ。

こうした報道はいわゆる「徴用工」に関して幾度となく行われてきました。

なお、日帝強制動員被害者支援財団は、日本法においては「利害関係を有しない第3者」です。「利害関係を有する第三者」=改正後は「弁済をするについて正当な利益を有する者」というのは、弁済をしないと債権者から執行を受けたり自己の債務者に対する権利が価値を失う地位にある者の2類型であると整理されているところ、当該財団は、いずれでもありません。

供託に際して第三者弁済要件で不受理とすることで裁判を受ける権利の侵害に⇒憲法問題

他方で、「供託できるかどうか」と「第三者弁済ができるかどうか」とは、別個の問題です。

にもかかわらず、なぜか第三者弁済できない者は「弁済者」ではないから供託の要件をみたさないことが明らかであるとする論法が出ているようです。

韓国民法(現行)
第486条(弁済以外の方法による債務消滅と代位)第3者が供託その他の自己の出財によって債務者の債務を免れさせた場合においても,前6条の規定を準用する。
第487条(弁済供託の要件,効果)債権者が弁済を受領せず,又は受領することのできないときは,弁済者は,債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免かれることができる。弁済者が過失なく債権者を確知することができないときも,同様とする。
第488条(供託の方法)①供託は,債務履行地の供託所にしなければならない。
②供託所について法律に特別の規定のないときは,裁判所は,弁済者の請求により,供託所を指定し,及び供託物保管者を選任しなければならない。
③供託者は,遅滞なく債権者に供託通知をしなければならない。

が、見ての通り、韓国民法でも第三者の供託による弁済は想定されており、しかも「債権者が弁済を受領せず」の場合が供託の要件となっています。

そもそも「供託」という制度は、主に「債権者が弁済を受領拒絶している場合」にこそ使える制度です。

https://houmukyoku.moj.go.jp/sapporo/content/000134783.pdf

それを、「債権者が受領拒絶してるから供託できない」としているのは、本末転倒です。供託制度が存在していることと背理する論理です。

供託後に供託の基礎となった債権の不存在が判決で確定する場合も想定されているので、債権の扱いに関する判断を先行して行うというのは、債務者の便宜を図りこれを保護するという供託制度の趣旨に悖る行為でしょう。

同時にそれは、第三者弁済が有効かどうかにつき、裁判所が訴訟をせずに裁量で勝手に決め、供託の法定要件には無い理由で、形式不備が無いにもかかわらず供託を不受理としたわけですから、財団の「裁判を受ける権利」を侵害していると言えるでしょう。

要するに「憲法違反」です。

韓国外交部もその点を指摘しています

またしても、2018年の大法院判決のように、【韓国の司法が暴走している】という事件だということです。

「日本企業側=債務者の意思に反しているから第三者弁済できない」という詭弁

[社説]強制動員被害者の権利を踏みにじる判決金供託は中止すべき
登録:2023-07-06 02:26 修正:2023-07-06 08:33 HANKYOREH

 政府が推し進めている判決金の供託は法理的に問題が多い。政府は、ヤン・クムドクさんら4人の原告が日帝強制動員被害者支援財団の肩代わりをする判決金を受領しなかったため、「すでに政府から弁済金を受領した11人の被害者との公平性などを考慮して」供託を行うことになったと主張する。最近まで被害者の説得を優先する態度を示していた政府は、判決金の受領を拒否する被害者が少数になったことで態度を変えたのだ。だが、「第三者」による供託は債権者が同意しなければ効力が認められないというのが多数説だ。さらに、被告である日本企業は強制動員被害者に対する債務の存在そのものを最初から認めていない。「1965年の韓日請求権協定ですでに解決済み」というのが彼らの一貫した立場だ。したがって、政府の供託は債務者である日本企業の意思にも反するものだ。韓国の民法(469条)では「利害関係のない第三者は債務者の意思に反して弁済することはできない」となっている。

もう一つ、「日本企業側=債務者の意思に反しているから第三者弁済できない」という詭弁があります。

曰く、「日本企業は自称徴用工らに対する不法行為乃至はその法的責任を認めていないのだから、「債務者の意思」に反している」と。

しかし、本件では既に大法院判決によって韓国国内法においては日本企業の自称徴用工らに対する不法行為債権の存在が確定されており、これを争う手段が存在していません。

日本企業が認めようが認めまいが、債務の存在自体は韓国国内法的には強制的に決まってしまっているという状況にあります。

このような状況における第三者弁済の場面での「債務者の意思」とは、「債務の存在それ自体を否定している」という要素を捉えるのではなく、【誰が弁済するのか】という事柄に係る意思であると考えるほかない。

特に、財団は韓国政府傘下なので、日韓請求権協定の観点からは原告らと同じ「韓国側」の立場であり、純粋な第三者とは異なると言い得る

「韓国側」である自称徴用工原告らの債権の満足を「韓国側」が行う、という客観的な状況は、日本企業側にとっては、債務の履行の相手が小手先で変わるだけで、日韓請求権協定の次元からは、実質的には同じことです。
(第三者弁済をした者には通常は債務者への求償権が生じるので債務自体がが無くなるわけではない。ただし求償権を生じさせない合意がある場合は除く)

したがって、本件のような場合は、誰が弁済するかにつき日本企業=債務者が反対をすることは通常は無いと考えられ、債務者の意思に反するとは言えないと判断される、という解釈が正当でしょう。

ただ、現行の日本民法の規定における「第三者が債務者の委託を受けて弁済をする場合」には当たらないとは言えるでしょう。

現行 日本民法
(第三者の弁済)
第四百七十四条 債務の弁済は、第三者もすることができる。
2 弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは、この限りでない。
3 前項に規定する第三者は、債権者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、その第三者が債務者の委託を受けて弁済をする場合において、そのことを債権者が知っていたときは、この限りでない。
4 前三項の規定は、その債務の性質が第三者の弁済を許さないとき、又は当事者が第三者の弁済を禁止し、若しくは制限する旨の意思表示をしたときは、適用しない。

日本企業と財団が履行引受契約を結んでいるという事情は見当たりませんし、それは履行をすること自体を日本企業が容認していることになるので、日本側の立場からは相容れない事情だからです。

民法改正か特別法か

仮に現在の紛争によって債権者が受領拒絶してるから第三者弁済できない、という解釈が韓国民法に関する司法判断で出たとしましょう。

その場合、日韓請求権協定違反状態の解消のために取れる手段は、民法改正や特別法の制定になってきます。

この場合の民法改正は、日本の改正した方向とは真逆になるわけですが。

特別法は検討はされたが政治的ハードルから断念されたようですが、今後の情勢で韓国の政界が腹をくくるのかどうか。

日本国民としてできることは、韓国側の第三者弁済に反対する勢力の論法に惑わされないこと、その意思を示すことだろうと思います。

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