ブルーリボンバッジ訴訟とレペタ事件

ブルーリボンバッジ訴訟=裁判官が法廷警察権の行使としてブルーリボンバッジの着用を禁止したことを違法として国を訴えた事案について。

9月中旬をめどに「裁判官の直接の説明を求める署名」と「拉致被害者救出のため強い覚悟をもって ブルーリボンバッジを着用する共同声明への署名」が募集されていますが、この訴訟の展開についての予測と私見について補足をします。

ブルーリボンバッジ訴訟の経緯

ブルーリボンバッジ訴訟の経緯は上掲記事でも書いていますが、改めて。
※「フジ住宅裁判」と「ブルーリボンバッジ訴訟」は別件です。

1:フジ住宅裁判の原告従業員の支持者が「ストップ!ヘイトハラスメント!」という文字のある手のひら大の缶バッジを着用して期日に入廷し傍聴
※裁判所は注意せず
※フジ住宅側からやめさせるよう裁判所に要求していた
2:それを受けてフジ住宅を支持する者が富士山の上に太陽が昇っている絵をあしらった同サイズの缶バッジを着用して期日に入廷し傍聴
3:裁判所が両者に「メッセージ性のあるバッジ等は外してください」と指示
4:後日、フジ住宅裁判の原告従業員の支持者が、フジ住宅側が着用しているブルーリボンバッジについても「それもメッセージ性があるから外せ」と要求
5:裁判所が「入廷時はブルーリボンバッジも外すように」(当初は傍聴券抽選時も)と指示。指示は判決の日まで変わらず、理由の説明がなされたことはない
6:裁判所の当該指示命令が違法だとしてフジ住宅会長の今井氏と支持者の南木氏・黒田氏らが国を提訴

さて、法廷警察権の行使が問題となった判例としてレペタ事件がありますが、それとの比較でブルーリボンバッジ訴訟の展開を予想できると思います。

レペタ事件では「合理的根拠を欠いた法廷警察権」と認定も違法性は認定されず

裁判官(裁判所)の法廷警察権の行使が問題となった事案としてメモ採取不許可国家賠償請求事件=レペタ事件があります。米国ワシントン州の弁護士であるレペタ氏が後学のために傍聴をする中でメモをすることを申し出るも却下されたために提訴した事案です。

法廷内で傍聴人がメモを取ることが一般的に禁止、レペタ氏も同様に禁止、ただ、司法記者クラブの記者だけはメモを取ることが可能だったという事情がありました。

そこでは違法性までは認定されませんでしたが、以下のように「合理的根拠を欠いた法廷警察権の行使」があったと認めています。

 七1 原審の確定した前示事実関係の下においては、本件裁判長が法廷警察権に基づき傍聴人に対してあらかじめ一般的にメモを取ることを禁止した上、上告人に対しこれを許可しなかつた措置(以下「本件措置」という。)は、これを妥当なものとして積極的に肯認し得る事由を見出すことができない。上告人がメモを取ることが、法廷内の秩序や静穏を乱したり、審理、裁判の場にふさわしくない雰囲気を醸し出したり、あるいは証人、被告人に不当な影響を与えたりするなど公正かつ円滑な訴訟の運営の妨げとなるおそれがあつたとはいえないのであるから、本件措置は、合理的根拠を欠いた法廷警察権の行使であるというべきである。
過去においていわゆる公安関係の事件が裁判所に多数係属し、荒れる法廷が日常であつた当時には、これらの裁判の円滑な進行を図るため、各法廷において一般的にメモを取ることを禁止する措置を執らざるを得なかつたことがあり、全国における相当数の裁判所において、今日でもそのような措置を必要とするとの見解の下に、本件措置と同様の措置が執られてきていることは、当裁判所に顕著な事実である。
 しかし、本件措置が執られた当時においては、既に大多数の国民の裁判所に対する理解は深まり、法廷において傍聴人が裁判所による訴訟の運営を妨害するという事態は、ほとんど影をひそめるに至つていたこともまた、当裁判所に顕著な事実である。
 裁判所としては、今日においては、傍聴人のメモに関し配慮を欠くに至つていることを率直に認め、今後は、傍聴人のメモを取る行為に対し配慮をすることが要請されることを認めなければならない。る。
 裁判所としては、今日においては、傍聴人のメモに関し配慮を欠くに至つていることを率直に認め、今後は、傍聴人のメモを取る行為に対し配慮をすることが要請されることを認めなければならない。

このように最高裁は、「本件措置は、合理的根拠を欠いた法廷警察権の行使であるというべきである。」とハッキリ指摘しています。

そのため、その後は一般的に傍聴人がメモを取ることが可能になりました。

ただ、それに続く判示では国賠請求を認めるための違法性は認めることはできない、としました。

 もつとも、このことは、法廷の秩序や静穏を害したり、公正かつ円滑な訴訟の運営に支障を来したりすることのないことを前提とするものであることは当然であつて、裁判長は、傍聴人のいかなる行為であつても、いやしくもそれが右のような事態を招くものであると認めるときには、厳正かつ果断に法廷警察権を行使すべき職務と責任を有していることも、忘れられてはならないであろう。
 2 法廷警察権は、裁判所法七一条、刑訴法二八八条二項の各規定に従つて行使されなければならないことはいうまでもないが、前示のような法廷警察権の趣旨、目的、更に遡つて法の支配の精神に照らせば、その行使に当たつての裁判長の判断は、最大限に尊重されなければならない。したがつて、それに基づく裁判長の措置は、それが法廷警察権の目的、範囲を著しく逸脱し、又はその方法が甚だしく不当であるなどの特段の事情のない限り、国家賠償法一条一項の規定にいう違法な公権力の行使ということはできないものと解するのが相当である。このことは、前示のような法廷における傍聴人の立場にかんがみるとき、傍聴人のメモを取る行為に対する法廷警察権の行使についても妥当するものといわなければならない。
本件措置が執られた当時には、法廷警察権に基づき傍聴人がメモを取ることを一般的に禁止して開廷するのが相当であるとの見解も広く採用され、相当数の裁判所において同様の措置が執られていたことは前示のとおりであり、本件措置には前示のような特段の事情があるとまではいえないから、本件措置が配慮を欠いていたことが認められるにもかかわらず、これが国家賠償法一条一項の規定にいう違法な公権力の行使に当たるとまでは、断ずることはできない。

裁判官・裁判所の法廷警察権というのは、これほどまでに強力なものだということです。ここで引用した以外の部分でも、法廷警察権の性質・意義について語っている部分があります。

では、フジ住宅側が提起しているブルーリボンバッジ訴訟でも、違法認定される可能性は無いのでしょうか?

メモ禁止は当時は一般的に禁止・ブルーリボンバッジは一般的に認められていた

本件措置が執られた当時には、法廷警察権に基づき傍聴人がメモを取ることを一般的に禁止して開廷するのが相当であるとの見解も広く採用され、相当数の裁判所において同様の措置が執られていた

これが適法認定の事情として記述されていることに着目すべきでしょう。

対して、ブルーリボンバッジは、他の法廷で着用することが禁止されるようなことは一切なかった、というのが事案の違いとして指摘できます。

メモ禁止の場合は以下の事情があったために一般禁止されました。

過去においていわゆる公安関係の事件が裁判所に多数係属し、荒れる法廷が日常であつた当時には、これらの裁判の円滑な進行を図るため、各法廷において一般的にメモを取ることを禁止する措置を執らざるを得なかつたことがあり

もはや、そういう日常はないですよねと。

ブルーリボンバッジの禁止も、原被告の支援者同士の争いを防ぐという目的で行われたと考えられますが、他の事案(法廷でなくともよい)において、ブルーリボンバッジを着用していることだけで何か争いを生じさせる蓋然性が高いという事実は存在しません。

そのため、フジ住宅裁判における裁判所の措置も、「法廷警察権の目的、範囲を著しく逸脱し、又はその方法が甚だしく不当であるなどの特段の事情」のうち、「その方法が甚だ不当である」と言える可能性が出てきます。

そして、次項で述べるような本件の事実経過からは、さらに違法性が認定され得ると考えられます。

一方当事者の難癖に偏頗的に加担してブルーリボンバッジの着用禁止措置を採った裁判所

1:フジ住宅裁判で禁止されている「メッセージ性のあるバッジ」というのは、「一見して本件訴訟に関連するメッセージがあるかの判別が困難なデザイン」を禁止する趣旨と考えられる
2:現に、フジ住宅の社員バッジ(富士山をモチーフ)は禁止されていない
3:ブルーリボンバッジは【北朝鮮による拉致の被害者らの生存と救出を信じる意思表示】のために着用されるものであり、その理解は一般的に周知されている
4:よって、「一見して本件訴訟に関連するメッセージがあるかの判別が困難なデザイン」には当たらない
5:また、原告は在日韓国人であり、北朝鮮人・朝鮮籍の者ではないことから、原告を非難するメッセージがあると理解することはできない

なぜ裁判所が「メッセージ性のあるバッジ」を外すように命じたのかと言えば、それは原被告とその支持者らの間で無用の争いが生じるのを避けるためでしょう。それ自体は理解します。フジ住宅側もそれ自体には反対していません。そのため、「法廷警察権の目的、範囲を著しく逸脱し」には当たらないと思います。

一般的に広く周知されていないデザインの場合、その意味内容・メッセージ性がどういうものなのかの判別が困難なため、相手方を刺激する要素がある可能性が拭えない上に、着用側がその意味をいくらでも操作することが可能です。対してブルーリボンバッジは、フジ住宅裁判の前から存在しているために本件訴訟とは無関係である上に、その意味内容も客観的に定まっており、当事者の恣意によって意味を定義・付加することは不可能なものです。

例外的に、北朝鮮に縁のある者だと客観的に認識されている者に対して揶揄する目的・攻撃的な趣旨で着用されている可能性が拭えないような場合には、格別の意味が付加されているとして着用禁止もやむを得ないと言えるかもしれませんが、本件ではそういう事情はありません。

そのため、ブルーリボンバッジの着用についての扱いは、社員バッジと変わらないものと言えるでしょう。

そして、広く周知されているために、メッセージの誤認は客観的に起こり得ない。

つまり、ブルーリボンバッジについて相手方が不快感を示して争いが生じるとしても、それは「難癖をつけて来た」以外にあり得ません

結果的に、それに裁判所が加担したということ。

しかも本件では、先に従業員支援者側が手製のバッジをつけ、フジ住宅側がそれをやめさせるよう求めていたが裁判所は応じず、フジ住宅支援者が手製のバッジをつけた段階でようやく両者に対して手製のバッジの着用を禁止したという経緯があります。

この際、裁判所は、ブルーリボンバッジについては何も言いませんでした
フジ住宅側は、それ以前からブルーリボンバッジを継続して着用していました

ところが、従業員支援者側が「ブルーリボンバッジも禁止しろ」と言ったとたんに裁判所が禁止措置を採るようになりました。

その後、裁判所は、なぜブルーリボンバッジ着用禁止なのか説明を求めても「法廷の指示に従ってください」とだけ言い、説明をしてきませんでした

こうした経過からは、裁判所の措置は言い掛かりをつけてきた相手方支持者らの要求を一方的に認めるという偏頗的な行為であると言われてもやむを得ないでしょう。

したがって、本件の裁判所の指示命令は、原被告とその支持者らの間で無用の争いが生じるのを避けるためという正当な目的のもとに行われたものであるとはいえ、ブルーリボンバッジの禁止はその目的達成に必要なものではなく、しかも、一方当事者の要求があってはじめて行われたものであり、かつ、他方当事者の主張を無視し続けた偏頗的なものであるから、「その方法が甚だ不当である」という特段の事情があると言えるのではないでしょうか?

元となったフジ住宅裁判について

ブルーリボンバッジ訴訟の元となったフジ住宅裁判については、高裁判決が出ており、原告従業員が勝訴しています。判決文も原告支援者らがUPしています。

私は、特定の思想に基づいて営業するいわゆる「傾向企業」ではないフジ住宅において、過度な思想教育をすることが労働契約上の義務違反=職場環境配慮義務違反となるとし、本件でそれを認定した裁判所の判断自体は妥当だと考えています。
※裁判所は「差別」や「差別助長」とは認定していないし、「歴史修正主義」や「国粋主義」に当たるなどとも言っていない。

ただ、代理人弁護士の主張のなかで「日本人を称賛し又は優位性を説くことは…過剰に流布されれば人種差別助長表現となる」というものがあり、そういった論に与するものではありません。

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