『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』は名作になり損ねた名作である。(中編)

 そしてココからが本番である。前では後編に続くとしたのに中編になってるのは想像以上に長くなったからだ。許せサスケ。いくつか部分があると思うので箇条書きで列挙していこうか。

・鉄華団の壊滅という『犬死の物語』という余分。
・クーデリアという『戦いの女神』の加護
・ダインスレイヴという『機械仕掛けの神』の使い魔
・厄祭戦とモビルアーマーという『最高の舞台』の放棄
・バエルという『神格の象徴』の失墜
・ガエリオという『生きてはならなかった英雄』の話

 いろいろ思う部分はあるがざっとこんなところか。一つずつやろうね。


・鉄華団の壊滅という『犬死の物語』という余分。

 実際のところこれが一番大きいか。後の部分と被るところではあるけど、「鉄血のオルフェンズ1期ラストから鉄血のオルフェンズ2期ラスト」に直接繋げたとしても物語として成立してしまうのである。

 鉄血のオルフェンズ1期ラストは「鉄華団の決死の突撃作戦で議事会堂まで蒔苗とクーデリアを辿り着かせて、火星の現状を訴えかける」というゴールに辿り着いた。その結果議長蒔苗の返り咲き、クーデリアとのコネクション、鉄華団も華々しく地位を得た……という流れだった気がする。
 で鉄血のオルフェンズ2期ラストでは「火星の自治権を手に入れたクーデリアとギャラルホルントップのラスタルとで、子どもたちが戦争の道具として使われないよう条約を結ぶ」というラスト、だった気がする。もう一度見直さないと正確ではないかもしれんが大体こんなところだ。

 ……お気づきであろうか。これそのまま繋がるんだ。

 鉄血のオルフェンズ1期ラストから「それから数年後」とくっつけて2期ラストくっつけても得に問題がないだろう? これの成立条件が「ラスタルがトップになる」「クーデリアがいる」ことでしかないんだな実は。ラスタルがトップになるには云々という部分もあるが単なる運命論になってしまうので割愛。
 鉄華団の壊滅は全く必要ではなくて、むしろ鉄華団が存続してようとこの結果に辿り着くことはできたのである。主人公サイドが犬死も同然のシナリオになってしまってるわけだ……なんとも悲しく虚しいストーリーテーリングだと思わざるを得ない。
 ではどうしてそうなったのか? さぁ次のセンテンスだ。


・クーデリアという『戦いの女神』の加護

 クーデリア・藍那・バーンスタインとは火星の独立自治都市クリュセの代表首相の娘であり、火星の惨状を地球に訴えかけるために鉄華団に依頼する、という第一期の物語の目的でありストーリーを展開させるための重要人物である。彼女は火星への旅路で大切な人の喪失や成長を経て、童話に描かれる『戦いの女神』に例えられるほどの、気高い意志と行動力を持つ女傑になった。
 第二期では火星でアドモス商会を立ち上げて、火星の経済的独立のために活動をすることになる。終盤で不利な状況に追い込まれる鉄華団を支援しつつ、鉄華団の壊滅で多くの喪失を受けながらも戦火を生き延びて後の火星独立を成し遂げる……

 のだが、さぁてここだ。第二期では序盤と終盤でしか大きな役割を得ていないのである。というか出番すら少ないんだ彼女は。

 クーデリアという女は鉄血のオルフェンズという物語における「本当の正義」を体現する人物であり、彼女が成し遂げるからこそ真実に辿り着く意志の気高さが納得できる形で表現されるのである。有りていに言えば主人公補正ってやつでもある。

 ここが二期の一番の問題点にもつながる。「鉄華団が滅びる」という前提を基に作ってるせいで「クーデリアが物語に介入してこない」という極めて不自然な結果を生み出しているのである。これぞまさにご都合主義なのだ。最高のアニメスタッフを用意しておきながら、「鉄華団を滅ぼす」という過程を経ない結果を描く脚本にしてしまったのがまさに残念至極な部分。もったいない!!!

 多分だんだん読者にもわかってきたかもしれない。そう、ご都合主義という黒い影がこの名作たらしめた鉄血のオルフェンズを名作にできなかった部分であるのだ。
 そんなこんなで次のセンテンス。悪名高きアレにいこう。


・ダインスレイブという『機械仕掛けの神』の使い魔

 ダインスレイブ、レールガンによって巨大な金属製の杭を高速で撃ち出すという超質量兵器である。現実でいうなら衛星軌道兵器の「神の杖」みたいなのをイメージしてもらえばわかりやすいかな? 厄祭戦で対モビルアーマー相手に使われた兵器だが、いろいろ危険だとかそういうもので封印されて現代に至るという禁断の兵器なのだ。

 鉄華団にとっては、セブンスターズのラスタルの配下のイオクがこれをテイワズ(鉄華団にとって身内のようなヤクザの1グループ)相手に条約無視のぶっぱをやらかして一方的な虐殺をやってたりという因縁の兵器でもある。
 そして二期の終盤、マクギリス率いるギャラルホルン革命軍とラスタル率いるギャラルホルンセブンスターズ軍が衝突する。これが実質の最終決戦であるが、まぁダインスレイブがちゃんと使われるわけだ。

 何故かギャラルホルンのトップに立ったマクギリス一派には一つも無くて、ラスタル一派のセブンスターズには大群を横一列に並べて掃射できるくらいにたくさんある始末である。なぜだ! 一切示されていないのである。もし示されていたら私に教えてもらえると助かる。ここが一番腹立たしい部分だからね。

 ダインスレイブという超質量兵器のアイディアは大好きだし実に猟奇的な兵器だし面白いと思う。しかしそれを「鉄華団がいる」マクギリス一派には一切手元になく、禁断の兵器であるにも関わらずセブンスターズには大量に用意されているというご都合主義である。バエルを得ることでギャラルホルンの頂点に立った男が禁止兵器の情報を一切手に入れられず一切手に入らずというのも変だろう。ラスタルが用意周到に揃えられたというのもやはり辻褄合わせ的にはご都合という他あるまい。

 だってマクギリス側で用意できたダインスレイブは鉄華団が裏ルートで手に入れたたった一撃分なのだから。おかしいだろう?

 「鉄華団を滅ぼす」という過程を経ない結果を生み出すために「ダインスレイブ」というまさに時計仕掛けの神、舞台装置を使ってしまう脚本の醜悪さになってしまっているのである。全く以て嘆かわしい。
 しかもダインスレイブにあった弱点、取り回しが効かないとか正確な射撃が難しいとかそういう設定ですらラスタル一派にはお構いなしで、「成層圏外から地表の目標に向かって撃つ」という超精密射撃までやってのけるほどである。設定どこいった。

 これを時計仕掛けの神の使い魔と言わずに、何というのだろうね。
 そこが一番腹立たしい部分でもある。なんでここまで鉄華団を滅ぼしたいのか。他に展開がなかったのか?

 そこの結論を書くのはもうちょい後にしよう。次のセンテンスは後編まで待て。
 そして今回は中編として一端筆を置こう。


私は金の力で動く。