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会いたいけれど我慢する……小西綾さんの深き理解者、駒尺喜美さんとの忘れられない思い出。

先週は種を蒔く人・小西綾さんについて書きました。

私より45歳年上の小西さんは、温かく厳しい言葉だけではなく、その生や老いをもって様々な教示をしてくださったと思います。

小西さんを語るには、半世紀共に棲み敬愛をし合った駒尺喜美さんのことをお話ししないと進まないのですが、この駒尺さんのことは少々の字数では書けません。いまは、小西綾さんの深き理解者、価値感を共有していた人とだけお伝えしておきます。

私が「高齢期に必要なものはなんですか?」と問われたときのことを、既述していて、ひとつは「価値感」がキーワードになっています。

高齢期、やがて死が迫ってきたときに多くの人が自力では動けない、場合によては意志を示すことができなくなります。そんな日々を支えるのは、近親者です。

家族であったり、友人であったり、ときには介護者であったり。一人の人間の暮らしを複数の人たちが支えます。そんなとき、準備のよい人は死を迎えるまでのことを書き残したりしているかもしれません。

小西さんもかろうじて、「過剰医療はしない」という言葉を書き残してくれていました。でも、このときの私自身の心情や迷いを思い出すと、いまでも複雑な思いがします。

90代後半になる小西さんに医師から「胃瘻」の提案があったときに、小西さんはそれを望まないだろうとは思っていたものの、やはり医師からの申し入れをすっと断るにはためらいがあったのです。「胃瘻をしない」と判断したら小西さんの命はカウントダウンされます。

揺らぎました。この私が

一生のパートナーだった駒尺喜美さんは、小西さんの代弁者でもありました。本来なら駒尺さんがその任であったと思います。でも、しかし、駒尺さんは自他共に認める心身ともに弱さがあった。ここは、私の判断にかかっているところがありました。

揺らぎました。この私が。いや、この私でも。でも、いよいよとなったとき、救いの手が小西さんご自身から差し出されました。小西さんがまだかろうじてご自身の意思を示すことが出来た時書かれた、「過剰医療はしない」の一筆がでてきたのです。

それをもってようやく、胃瘻を勧める医師に対してはっきりとNOを言うことができました。また、医師もその当事者の意思は軽んじることはできませんでした。

高齢期、やがて意思表明できなくなったとき

99歳まで生きてくださった小西さんが、もうひとつ私に教えてくださったこと。それは、誰の介護も一人ではできない。複数の人間がそれぞれの立場と事情をもって関わるということ。
それは家族であっても同じです。いえ、むしろ血縁であるがゆえの葛藤もあります。

小西さんの晩年は血縁家族ではなく、パートナーの駒尺喜美さんや、小西さんを師とした女達が傍にいました。

意思を表すことができなくなってきた小西さんには、24時間家政婦さんがつきました。実際にそうした方がいないと、周囲の力では支えきれません。個人的に見れば、小西さんの晩年は恵まれています。

会わせない方法をとらせていいのか

小西さんが意思表明ができなくなったときの代弁者である駒尺さんは、出来ればずっと傍にいたい。実際、毎日何回でも小西さんの部屋を訪ねていました。小西さんだって、それはとても安心できたことのはずです。

しかし、ここで問題が起きました。実際に昼夜小西さんの生活を支える家政婦さんにとっては、それは負担です。小西さんの代弁者である駒尺さんの頻繁な出入りに根を上げます。そして、次々と辞めていく。

となれば、すぐに周囲の支援者達はお手上げです。その仕事を代わることはできません。結局、私達は家政婦さんをお願いする選択をしました。ということは、駒尺さんが小西さんの部屋を訪ねることの制限にあたります。私も相当に悩みましたが、諸般の事情もあり家政婦さんが小西さんの暮らしの質を守ると判断しました。

それを伝えたとき、駒尺さんはひと言私にいいました。
「私の希望通りに(小西と)会わせない方法をとらせていいのか」と。
私は「そうです」と答えたのです。そのときの駒尺さんを忘れられません。

心の澱となって残ったこと

それから、駒尺さんは「会いたいけれど我慢する」姿勢を貫きました。私にとってはこの出来事がずっとずっと心の澱となって残っています。本当にそれでよかったのか、と。

小西さんには、駒尺さんという真の理解者がいて、それを支える人達がいた。家族と同様、ことによるとそれ以上の関係があり小西さんの晩年は守られていた。通常、そうした環境を得ることは難しい。そして、それでも、守れないことがあった。

であるならば、高齢者施設に入るとさらに不自由というイメージがある。多くの方が、そう思われるでしょう。

しかし、私の経験上、実はそこにはセーフティネットの可能性があることを次回お伝えします。

(20221113−11)



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