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10待ち

大して行きたくもない用事に、「午前中」くらいのぼんやりしたスケジュールで向かうことになっている。一応かけた目覚ましで目は覚めるが誰かを待たせているわけてもないので急ぐ必要もなく布団の上で1時間ほどスマホを見てしてしまう。気乗りする予定でもないからいつもよりゆっくり出かける仕度をしていても結局どんどん身支度が整っていってしまう。

電車に乗ると乗客の急病だとかで自分が乗ってる電車が運行予定より10分遅延していて申し訳ないみたいなアナウンスが流れてくる。そもそも10分おきにくる電車だったのでアナウンスを聞くまで遅延していた事実に気付かなかった。10分おきにくる電車が10分遅延していても、実際電車が停止していた瞬間に立ち会えなければその遅延は存在してないことになるんじゃないかと思う。存在しない過失に謝罪を述べられている(そもそも誰の過失なんだろうか)。この間人身事故で電車が1時間半遅延してたけど、それも事故発生から数時間後とかに乗車したので体感ではなんら遅れを感じなかった。ここでは誰かの死も一度遅延に置き換えられ、僕らの元に届く頃にはかぎりなく透明になっている。

今度中国に行くからそのビザの受取にビザセンターに行って整理番号をもらう。あと20番待たないと自分の番にならないことをディスプレイで知らされる。それが長いのか短いのかよくわからないけど、寝不足だったからうたた寝をしてみようと目をつぶる。そんなにインスタントには寝れないよなと思いつつじっとしていると自分の左前の座席に忍たま乱太郎のヘムヘムがいてなんでビザセンターにヘムヘムがいるんだろう、変なのと思ったところで目を覚ます。隣の席の男が靴を脱いで前の座席に足をかけている。カルバンクラインのくるぶしソックスがむき出しになっている。カルバンクラインのくるぶしソックスなんてあるんだ。順番は10番進んで、自分の番まで残り10番らしい。どれくらい眠っていたのかわからないから、半分進んだのにあいかわらず自分の番まで待つ時間が長いのか短いのかわからない。

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