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千文小説 その964:(仮)

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 真実は、変えられない。

 しかし、現実は、働きかけることができる。

 信念を胸に、いよいよ、二台のiPadと、真剣勝負に挑みます。

 にちにちにちにち。にちにちにちにち。

 まず、無印の第五世代、ゴールド、32GB。

 …ちょっと、もう、限界だね。

 さすがに、使用開始後八年目、負荷のかかる作業をすると、バッテリーが、ほんのり熱くなる。

 OSのアップグレードも終了しており、引退するには、ちょうどいい。

 何より、クローゼットの中、先代のMacBook Airの上で、箱が、待っている。

 本体は、何度も、出たり入ったりを繰り返しているのだが、箱は、もう、いいです。

 ここで、本体を、迎えます。

 だんだん、動こうとしなくなり、…わかりました。

 箱と中身は、常に、セット。

 できるだけ、近くにいた方がいい。

 第五世代、丁重に、リセットさせていただきます。

 にちにちにちにち。にちにちにちにち。

 今、クローゼットの中、iPad5とMacBook Airは、それぞれの箱に収まって、仲良く眠っています。

 おそらく、これ以上、起こしてはいけない。

 一つの時代が、確かに、終わった。

 つらいことが多かったけれど、楽しいことも、あったよな。

 ありがとうございます。

 どうぞ、安らかに。

 膝の上、愛猫が、一心に、おやつのするめをかじっていて、立ち上がれない。

 心の中、深々と、頭を下げて、別れを告げ。

 いよいよ、最後の砦に、踏み込みます。

 無印の第九世代、スペースグレイ、64GB。

 頭がおかしくなるほど、試して試して、試しまくった挙句。

 Apple純正、Smart Folio、イングリッシュラベンダー、をまとって、横向きで、静かに横たわっている。

 これが、この機体の正装。

 であり、今後、来たるべき次代たちの正装。

 ホーム画面やアプリ構成も含めて、iPadは、これにて、完成。

 あとは、見た目は、揃えて、中身は、直接転送で、受け継ぐ。

 そこまで定まった、そのうえで、では、この機体の役目は?

 次代を迎える目安は、どれくらい?

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 満腹で、寝落ちした愛猫を、西武ライオンズのバスタオルでくるんで、抱き直し。

 食べ残しのするめを口に、天井を仰ぎます。

 このたびの、Appleによる、iPadのシリーズの、全面改編を受けて。

 無印の第九世代は、正式に、廃版となりました。

 ただし、まだ、OSは、有効。

 完全に廃モデルとなるには、少なくとも、数年の猶予がある。

 …多分、その猶予が、欲しかったんだろうな。

 タッチペンもキーボードも接続不能だった、無印の第五世代から、いきなり、どちらもフル装備、オールスクリーンの現行最新型に移行するのは、ハードルが高すぎる。

 ホームボタンとイヤホンジャック搭載の、第九世代を挟むことで、いわば、次のステップへの、時間稼ぎをしている状況。

 ここからなら、どこへでも行ける。

 小型だが、iPhoneの直近モデルと同列のOSを有した、miniシリーズ。

 機能は無難、見た目はカラフル、お値段安定、無印シリーズ。

 MacBookとほぼ同等のパソコン向けチップを、豊富な容量と色とスペックから選べる、Pro/Airシリーズ。

 もちろん、どこへも行かずに、これにて、iPadはおしまい、と閉じてしまうことも、可能。

 どうです?

 現段階での、見通しは?

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 …どれでも、いいんだよな。

 これといって、決め手がない。

 今すぐ買うか、と訊かれたら、違う気がするが、ずっとこの機体か、と訊かれたら、それも、違う。

 次代は、あると思いたい。

 だが、まだ、その時期ではない。

 正確に表現すると、そうなる。

 今代が、購入後三ヶ月というのもあるし、何より、新世代のiPadに、いまひとつ、ピンと来ない。

 どれもこれも、素敵だね。

 でも、どれもこれも、僕のじゃないね。

 紗が掛かったように、ぼんやりして、買うのかな…。

 買うかもな…。

 眠たい返事しか、することができない。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 もやもやの中に、宝が隠れているのか。

 あるいは、かき分けても、何もないのか。

 わりあい、勘の悪い方ではない僕にしては、なぜか、どうしても、つかめない。

 こういうのを、相性が良くない、と言うのだろうな…。

 冒頭で述べたように、真実は、変えられない。

 僕とiPadはうまくいかない、それを前提に、この先を、進んで行かなくてはならない。

 逃げ出さず、深入りせず、淡々と、付き合います。それでは、また。

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