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千文小説 その1028:善哉

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 しみじみと、一つの時代が終わったな。

 感慨にふけりつつ、iPhone12 miniを磨いて、箱にしまい、クローゼットに収めて、炬燵へ戻ります。

 まんぎゃー。

 よしよし。

 なでなで。

 眠くなり、ぐずる愛猫を抱えて、撫でてなだめて、西武ライオンズのバスタオルであやします。

 天板の上、電子機器集団、カメラレオンのメンバーは、これで、六台。

 そのうち、五台は、確定で、スタメン。

 さあ、どうする。

 無印の第九世代のiPad、スペースグレイ、64GB。

 電器店で買った、専用の、蓋付きケースを装着中。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 爆速で寝落ちした愛猫を、バスタオルでくるんで、抱き直し。

 改めて、ためつすがめつ、違和感があるかどうか、確かめます。

 単体で見れば、まだ新品、素敵に、よく動く。

 ケースもシックで、非の打ちどころはない。

 それでも。

 …なんでだか、手が、ぴたっと、止まっちゃうんだよな。

 決して、深入りしてはいけない。

 これ以上、この機体とは、何も起こらない。

 身体の判断は、なかなかのもので、頭で考えて、同じ境地に達するのは難しい。

 人間で言うと、ものすごく不仲でもないが、親しくはならない人だよね。

 どっちかと言うと、合わない方に、寄っている。

 買うことはできても、使うことはできない。

 そして、その位置付けは、おそらく、今後も、変わらない。

 リセットして、再設定して、あまりに使わなくて、またリセットして、再設定して、やっぱり使わない。

 不毛なループを愛せるまでに、器が広ければ、このまま、置き続けても、構わないが。

 どうなの?

 君の器、広いの?

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 …広いといいなと、常々、願ってはいるけれど。

 申し訳ない。

 既に、疲れてきた。

 リセットするなら、次回で、最後にしたい。

 しないなら、…どうすればいい?

 なぜだかわからないが、使わないデバイスを、日々毎日、眺めて暮らすのは、かなりの消耗。

 さりとて、いざ、すっぱり片付けてしまうと。

 なんとも、寂しい。

 穴を、埋めなきゃ。

 オールスクリーンのiPad、買おうかな。

 新品があるにもかかわらず、さらに新品を導入しようとする矛盾が。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 身体としては、できれば、遠ざけたい。

 頭としては、できれば、最後まで、面倒を見たい。

 しかし、では、最後とは、どこだ?

 iPhone12 miniは、先ほど、最後だった。

 バッテリーも、OSも、まだまだ余力があるのは、知っているけれど。

 意外と、物理面は、関係なかった。

 思い入れが抜ければ、終わりの仲だった。

 裏を返せば、僕が/頭が、一方的に、思い入れていただけ。

 僕と12 miniの間に、とりたてて、特筆すべき化学反応は、かつて起こらなかったし、もはや、永遠に、起こらない。

 残酷な事実を、そうなのか、と、心身ともに、受け入れた、その時が、デジタルデバイスの、最後。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 三年目の浮気、という言い回しは、言い得て妙。

 我慢の限度は、だいたい、三年。

 誰が、我慢するの?

 身体です。

 ウイルスや有毒物質を排除するように、身体は、基本的に、合わないものは、即、拒絶。

 対して、頭は、薄々、合わないのかも、と気づいていても。

 いや、そんなことはない。

 時間をかければ、なじむかもしれないじゃないか。

 あきらめるのは、早過ぎるよ。

 なんだかんだ、言い訳をつけて、ずるずると、別れを引き延ばそうとする。

 その折り合いがつくのが、時計の時間で、ちょうど三年ほどなのです。

 iPhone12 miniを買ってから、あと半月で、三年。

 ぴったりだね。

 セオリー通りと言うか、ある意味で、そんなに、仲は悪くなかったんじゃない?

 iPhoneだもの。

 そもそもの相性が、僕は、iPhoneとは、いいのです。

 …iPadは、やばいよ。

 元々が、そんなに合わないので、もめる時は、げんなりするほど。

 無印の第五世代なんて、購入後、八年目にして、ようやく、落ち着いてきたのだもの。

 第九世代とも、これから、八年かよ…。

 やってられません。

 正直な話、早く、終わりにしたいな。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 でもね。

 手放した一台も含めて、合計三台ものiPadと、これでもかと、もめまくった&もめまくっているおかげで、僕は、人生のどうにもならなさを、知ることができた。

 iPhoneとMacBookだけだったら、ほとんど、波風は立たないので、この世はわたしのためにある、状態のまま、物を書いていたかもしれない。

 ありがとう、iPad。

 これからも、元気に、仲良く、もめ続けましょう。それでは、また。

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