千文小説 その731:出汁
こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。
何を、あんなに、もめていたの?
首を傾げたくなるくらい、炬燵の上の電子機器たちは、ノープロブレム。
具体的に、君には、これね、君には、それね。
役割を割り振ったわけでもないのに、自然と、出ては、引っ込み。
ユーザーにも、機体にも、負担がない。
これですよ…。
この状態を、目指していたんですよ。
にっふーん。
すりすり。
ぐりぐり。
MacBookの画面の中、愛しの井口さんにすりついて、ご機嫌極まりない愛猫が、キーボードカバーにしているプラスチック板から落っこちないよう、手を添えつつ。
ため息をついて、天井を仰ぎます。
何かが、足りなかった。
何かが、余剰だった。
どっちだ?
…総数に関しては、確かに、一台、減った。
消去して、復元した、iPad5と、iPhone12 miniに関しても、蓄積されたメモリのようなものは、抜けたかもしれない。
じゃあ、多すぎたんだね?
…でもね。
すっきりした、というよりは、満たされた、という感じが強いんだ。
確かに、選び抜いて、数を精査したんだけど、それだけではない。
穴が、埋まった。
これ以上、買い足すものはない。
充分に、ニーズに、応えている。
やっぱり、足りなかったんじゃない?
にゅーふふ。
すりすり。
うりうり。
…でもね。
結局、五台のApple製品で、僕が、何をしているかというと。
noteの記事作成と投稿、ウェブマガジンのコラムがらみの送受信、メールにLINEにSNSといった、必要業務以外は、二つしかない。
音楽再生と、電子書籍読書。
前者は、ミュージック・ビデオの鑑賞も含めて、ほぼ、iPhone14 Proの担当。
Blu-ray映像を観る時だけ、MacBook Proが、出て来るくらい。
つまり、五台も要らない。
音楽のために、機器を増やしたのではない。
…そうなんです。
僕は、とにかく、読みたかった。
電池切れの心配をせずに、気に入った作品を、好きなだけ。
ずっと渇いていた、その部分が、ようやく、潤った。
ありがたいことです。
よかったね。
ぴーぷす、ぴーぷす。
ぽわ。ぽわ。
唐突に寝落ちした愛猫に、再度、ため息をつき。
ひよこの毛布でくるんで、そっと膝に抱き下ろし、お疲れ様のMacBookを、zoom会議仕様にします。
…でもね。
複数のデバイスで、電子書籍を読む、というと。
ものすごくたくさんのライブラリを抱えていて、常にデータがぱんぱんで、みたいなイメージがあるけれど。
五台もの機器をリレーして、僕が読んでいるのは、たった一作。
『あたりまえのぜひたく。』という、日々の食事をテーマにした、エッセイマンガ。
…それだけ?
それだけ。
もちろん、物書きだもの、ライブラリがそれだけ、ということはない。
しかし、あとは全部、取材のために、ダウンロードしたようなもの。
読み終わったら、それっきりで、文字通り、蔵書と化している。
『あたりまえのぜひたく。』は、それこそ、味噌汁と白飯のように、僕の常食。
現段階で、全九巻、こつこつ読んでは、また、初めから。
ぴーぷす、ぴーぷす。
ぽわ。ぽわ。
何が、そんなに、ツボなの?
同じ著者の、他の作品も読んだうえで、イチオシがそれだった、とか?
違います。
きくち正太氏の御作を、僕は、そのシリーズしか、読んでいない。
音楽は、完璧に、作り手で、聴いているようなものなのにね。
とても共感のできる、自分とよく似た境遇を描いているとか?
全く、違います。
どこをどう取っても、きくち家の食卓は、構成員を含めて、僕には、再現不能。
それでも、いや、だからこそ。
『あたりまえのぜひたく。』は、僕にとって、基本の出汁なのです。
ぴーぷす、ぴーぷす。
ぽわ。ぽわ。
僕の母は、バリバリのキャリアウーマン。
もうすぐ古稀を迎える今も、現役薬剤師として、医療の最前線に立っています。
『あたりまえのぜひたく。』のキーパーソン、自営の漫画家である主人公を、陰に日向に支える奥様、通称、「おかあさん」とは、似ても似つかない。
それゆえに、逆説的に、僕は、小さい頃、自分が、母に、何を望んでいたか。
この歳になって、やっと知りました。
一緒に、食べよう。
同じメニューを、同じテーブルで。
それだけのことが、なかなか叶わないのが、外で働く母を持つ、あらゆる子供の宿命。
もし、これから、結婚することになったら。
僕は、奥さんに、そうお願いするつもりです。
でもな…。
筋金入りのマザコン、それが、男。
知らず知らずに、母にそっくりな人を、選んでしまうんだろう。
きっと、とっても忙しい、仕事一筋の人が、僕のお相手。
もしくは、誰も現れない。
どちらになるか、マンガを読みつつ、じっくりと、予想したいです。それでは、また。
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