![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/144838309/rectangle_large_type_2_3f56fa9cd2a83ce510364cd2798b95a3.jpeg?width=1200)
千文小説 その997:払拭
こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。
なるほどな…。
白いTシャツに、ワンポイントで飾りを付ける理由が、ようやく、わかったよ。
ぴーぷす、ぴーぷす。
ぽわ。ぽわ。
膝の上、ひっくり返って大爆睡の愛猫に、時折、西武ライオンズのバスタオルを、掛け直して差し上げつつ。
炬燵の上、すっかり生まれ変わったiPhone12 miniを見やって、しみじみします。
購入後、もうすぐ三年。
とっくにSIMカードを抜いてなお、背面の真っ白さに悩まされ、ああでもない、こうでもない。
奮闘を重ねた挙句、疲れきり、思いあまって、最後の手段。
なんでもいいから、貼っちゃえ。
えいっ。
ぺとっ。
…素敵。
その昔、さほど親しくはないが、嫌いでもなかった同僚にいただいたな、という記憶しかない、子供向けと思しき、小さなシール。
たい焼きの形をしていて、ざらりとした質感で、どことなく、のんきな雰囲気が、捨てがたく、五年以上ずっと、ペンケースに、棲んでいて。
今こそ、その時。
miniのりんごマークを、ちょうど覆うサイズ、やけくそで貼り付けるには、もってこい。
というわけで、貼りました。
結果は、素晴らしい、の一言。
たい焼きなので、基本的に、アンシンメトリー。
胴体としっぽが、有機的にバランスを取って、とにかく、ひたすらに白い背面の圧迫感を、いい感じに、崩している。
しかも、胴体が、りんごに合うように貼ったため、しっぽの分だけ、絶妙に、背面の中央より、やや右に、重心が移動していて、かくっと、気が抜ける。
洋服に置き換えると、あまりにも真っ白で、着づらいくらいの新品に、アップリケを付けたら、途端に、親しみが。
喜んで、着始めるようになるのと同じで、あっという間に、miniは、しょっちゅう、手に取られるようになりました。
ぴーぷす、ぴーぷす。
ぽわ。ぽわ。
残念ながら、カバーは入手困難、いまひとつ、持ちづらいのは、変わらない。
シールも古く、端が傷んでいて、あちこちが、めくれ気味になるのは、仕方ない。
それでも、握った時、たい焼きに、ちょうど、指が当たるので、いくらかは、滑り止めに。
なぜか、しっぽの先に、あんこがはみ出していて、そこにも、顔があり、眺めていると、なんとも、ほっこり。
ありがとう、たい焼きくんと、あんこちゃん。
今後、miniが、メインに復帰する可能性はほぼなく、君たちが剝がれ落ちてしまうほど、がんがんに、酷使されることはないだろう。
バッテリーの寿命まで、真っ白な海を、仲良く、気ままに、泳いでいてください。
ぴーぷす、ぴーぷす。
ぽわ。ぽわ。
天板の、所定の位置に、miniを据え、深々と、頭を下げ。
純白のスマホの対極、漆黒のタブレット端末と、いざ、対峙です。
一世一代の自暴自棄、名付けて、膝かっくん、は、白には、大変有効。
だが、黒には、全く効かない。
適当にシールを貼り付けたところで、黒い機体は、何もかも、地に対する柄として吸い取ってしまい、ワンポイント/ピンポイントの意味をなさない。
せいぜい、上下黒の背広に、白いワイシャツで、コントラストを作り、ネクタイの色で、葬式なのか結婚式なのか、区別するくらい。
ぴーぷす、ぴーぷす。
ぽわ。ぽわ。
しかしね、無印の第九世代のiPadのスペースグレイ+ブラックのキーボード付きカバーには、他の色が、全く入れられないんですよ。
本体は、灰色を名乗っているにもかかわらず、ものすごく濃くて、黒いキーボードと、見事に地続き。
ベゼルも太く、下手をすると、画面=遺影。
キーボードの文字は、白いが、トラックパッドがないので、四角いスペースに、きっちりみっちり詰まっていて、棺の花かよ。
…数ヶ月、使っていて、鬱になりかけました。
シルバーに替えれば、いいんじゃない?
いやいや。
銀の枠が、抜き身のナイフの刃に見えて、ますます、殺伐。
駄目じゃん。
合わないんじゃない?
ですよね…。
他人事として見れば、アドバイスは一つ。
やめとけ。
せめて、キーボード付きカバーを外しな。
ぴーぷす、ぴーぷす。
ぽわ。ぽわ。
できません。
キーボードカバーこそ、無印の第九世代のiPadの、アイデンティティー。
それがないと、購入後八年目にして、未だにばりばりの現役の、無印の第五世代のiPadとの差異が、かすんでしまう。
MacBook Proとの対比で、Magic Keyboard付きのiPadは、買わないことが決定している。
キーボードを備えたiPadは、第九世代だけ。
なんとしてでも、手放すわけにはいかない。
真っ黒がもたらす、死のイメージを、あくまでも、どこまでも、物体レベルで、払拭するのです。それでは、また。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?