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千文小説 その1077:沼から

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 ブラックフォーマルが、病むほど、苦手。

 iPadの外装問題で、ようやく、気づきました。

 そうなの?

 そんなに?

 …そうなんです。

 これまで、入学や卒業や入社や葬儀や、ことあるごとに、黒いスーツに、身を固めてきましたが。

 生気が吸い取られて、動けなくなり、文字通り、生きながら、死にかける、という危機に、毎回、陥っていたことを、全く、自覚していなかった。

 幸い、元勤務先は、きちんとしたカジュアル路線の服装を推奨していたため、日々毎日、黒い上下にネクタイで、びしっと決める必要はなく。

 濃い灰色のタブレット端末に、マットなブラックのカバーを装着して、四六時中眺めるという状況に至って初めて、実感した次第。

 にちにちにちにち。にちにちにちにち。

 この分では、将来、どんなに食い詰めたとしても、式場関係の職には、就けそうもない。

 父の葬式にも出なかった、親不孝者。

 母の番が来たら、さすがに、喪主だろうな…。

 母さん、どうぞ、長生きしてください。

 それ以外では、黒いスーツは、着たくない。

 身近に、マットな黒も、置きたくない。

 教えてくれてありがとう、iPad。

 二台とも、うんと、大事にします。

 にちにちにちにち。にちにちにちにち。

 膝の上、一心に、おやつのするめをかじる愛猫の、大きなおしりを、抱き直し。

 炬燵の上、仲良く並んだiPadたちに、そっと、頭を下げます。

 第六世代のiPod touch、無印の第五世代のiPad、無印の第九世代のiPad。

 この三台は、バッテリーが続く限りは、リセットしない。

 全く使えなくなっても、古めかしい置き物ということで、天板に乗り続ける。

 逆に言うと、この三台に、後継機はない。

 買い替えもしないし、買い足しもしない。

 そうか…。

 iPodは、もちろん、iPadも、終わっちゃったんだね。

 前者は、買えない、後者は、買わない。

 樹木の根と幹の接合部分、切り倒した際に、切り株になる部分が、ようやく、固まった。

 これで、安心して、iPhoneとMacBookを、検討できる。

 よかったねー。

 たのしくねー。

 …ありがとう、脳みそくん。

 全部、君のおかげです。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 満腹で、寝落ちした愛猫を、西武ライオンズのバスタオルでくるんで。

 食べ残しのするめを口に、天井を仰ぎます。

 iPhoneは、やはり、上物。

 じょうもの、であると同時に、うわもの。

 どうしても、時代が染み込んでしまうのは、避けられない。

 iPhone7、iPhone12 mini、iPhone14 Pro。

 三台のiPhoneは、それぞれに、そういう時もあったねえ。

 思い出すよすがとして、どれ一つ、欠くことはできないと同時に、どれ一つ、永続使用することはできない。

 今現在、大変相性のいい、14 Proでさえ、いずれは、SIMカードを抜いて、次代に譲らざるを得ない。

 であれば、あらかじめ、シリーズや容量を決めておくことに、何の意味がある?

 買い替えの必要を感じた、そのつど、状況や懐具合に応じて、限られた選択肢の中から、ふさわしい一台を、なけなしの知恵を振りしぼって、考え抜き、決め切ることこそ、真にiPhoneを愛することなのでは?

 そう捉えることによって、過去のiPhoneと、今代のiPhone、どれもみな、バッテリーが尽きるまで、等しく現役であることができるのでは?

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 いいかんがえだねー。

 さべつはよくないからねー。

 …そうなんだよ。

 iPhoneはProシリーズで、と決めてしまうと、他の二台の無印シリーズが、駄目だった機体、の烙印を押されてしまう。

 そうではない。

 ただ、時が経ったというだけ。

 これからも、経つであろうというだけ。

 みんな違って、どれも正解。

 使用に関しても、SIMの有無による制限は、撤廃します。

 その機体に、過剰な負担をかけない範囲でなら、何をしても、OK。

 自由だな…。

 最も人間に近いデバイスが、スマートフォンかもしれない。

 iPhoneのみなさん、どうぞ、よろしく。

 これからも、ともに古びてまいりましょう。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 残るは、一台。

 押しも押されもせぬ、ノートパソコン界における最高峰クラス、MacBookの、Proシリーズ。

 …なのですが、この機体は、13インチ。

 現行で相当するのは、Airシリーズ。

 名前は、Pro、見た目は、Air。

 今後、どちらに、重きを置くべきか。

 あるいは、また別の角度で、光を当てるべきか。

 どっぷり浸かった電子機器沼から、じっくりと、考察を深めます。それでは、また。

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